自転車に乗る際に、悩みの種のひとつが"サドルの高さ"だ。自転車ジャーナリストの菊地武洋氏は、正しいサドルの高さ、ペダルの踏む位置を知らないと、エネルギー伝達の効率が悪くなる、脚が太くなる、ひいてはケガにもつながってしまうと話します。

あなたは自転車の正しい「サドルの高さ」を知っていますか?

■あなたの「サドル高」は正しくない

自転車はもっともエネルギー効率のいい移動手段である。飛行機やクルマよりも効率がいいのはもちろん、歩くのと比べても4分の1ほどのエネルギーで移動できるという研究結果もある。

ただし、それは正しいポジションで乗った場合の話。しかし、シティサイクルやクロスバイクに乗っている90%以上の人は間違ったサドル高で乗っている。通勤や通学をさらにラクに…本格的なロングライドをしてみたいと思うなら、サドルの高さを見直してみよう。

あなたの自転車のサドル高が正しくない主な理由は、購入したときのままだから。ショップで納車するときにポジションを設定してもらった人も、多くの場合、その高さのままだと低い。

というのも、初心者にいきなり最適なサドル高でセッティングすると、足つき性が悪いため、転んだときのことが頭によぎり不安になる。そこで、サイクルショップはサドル高を低めにして納車する。

だが、サドルが低すぎると太ももの前側(大腿四頭筋)ばかり使うことになる。そのためペダリングしにくいだけでなく脚は太くなり、お尻まで痛くなる。

一方、高くし過ぎると背中の筋肉(脊柱起立筋)に負荷がかかって腰痛の原因になったり、引き足が原因で膝裏が痛くなることもある。また、会陰部に強い痛みを感じる人はサドル高を見直したほうがいいだろう。

正しいサドル高にセットすると、痛みが発生しにくいだけでなく、ペダリングもスムーズになる。理由は関節の可動域が最適化されるから。ペダリングの回転は上げやすく、力強く漕ぐこともできるようになるというわけだ。

■サドルの高さを調整する

自転車にまたがり、着地したときの足をチェックしよう。踵(かかと)までベッタリ足が着いていたり、つま先が辛うじて着地する状態なら要調整だ。

厳密なサドル高を出すのはアスリートでも難しい。人間の感覚はわずかな違いを感じる繊細な部分と、ちょっとの違いがあっても気がつかない鈍感な部分もある。サドル高の違いは前者で、選手なら1㎜単位、素人でも1㎝の違いを感じられる。

本格的なサイクリストは、股下(㎝)×0.875という数式を使ってサドル高の基準を決めるが、同じ身長、股下寸法でも、ライディングテクニックによっても正解は異なる。なので、ピンポイントで正解を出すのを目指すのではなく、自分のストライクゾーンにサドル高をセットするのが目標となる。

サドルに座って、両足がつま先立ちした状態。これが正しいサドル高の目安だ。これまでサドル高を変えたことがない人なら、かなりサドルの高さが上がるはず。もし、この状態で走るのが不安なら、軽く踵が浮く程度まで下げる。

  • 背伸びして、拇指球で立っている状態が基準のポジション。怖いと思う人は下げても可。

  • ロードバイクではつま先立ちでも標準的な高さだが、クロスバイクやシティサイクルとしては高すぎる。

■ペダルを踏む位置は

快適なペダリングには、サドルの高さだけでなく、ペダルを踏む位置を意識するのも大切なポイント。基本はペダルシャフトと足の親指の付け根(拇指球)にある骨の位置を一直線上に合わせる。最近は拇指球と小指球を結ぶ線の中間が効率的だと言われている。

ペダルを踏む位置は、ペダリングのフィーリングを大きく左右させる。そのため選手はサドル高さ以上にこだわる。たとえば走行中にふくらはぎがつる人や、ふくらはぎが太い人は、ペダルを踏む位置を踵側に下げてみると改善する場合が多い。

正しくペダリングできていれば、ふくらはぎは踵の位置をキープためにしか使わない。ツール・ド・フランスに出ている選手たちのふくらはぎが細いのは、そのためだ。

  • 親指と小指の付け根にある骨を結ぶ線の中間でペダルシャフトを踏む。

サドルのポジショニングには高さ以外に前後位置もあるが、まずは高さの違いを感じて、快適な高さを探してみよう。最初は自転車に慣れるほどに高くすると快適に感じるはず。

初心者はサドル高が低く、中級者は高すぎるパターンが多い。不調を感じたら、最初は1㎝単位でサドル高を上下させる。さらに慣れてきたら5㎜単位で調整する。季節によっても最適解は変わるので、現状を疑ってみよう。

文/菊地武洋 写真/和田やずか