トヨタ自動車の新型「クラウン」で最も気になる存在、「デュアルブーストハイブリッド」搭載モデルにようやく乗ることができた。お値段はメルセデス・ベンツやBMWに引けを取らないレベルだが、肝心の乗り味はどうなのか? アクセルを踏んでみると、けっこうびっくりさせられた。
エコだけじゃない? ハイブリッドの新たな魅力
4つのボディタイプを持つ新型クラウンの第1弾として登場したのはセダンとSUVのいいとこどりを狙ったクロスオーバーモデルだ。パワートレインはハイブリッド(HV)が2種類。2.5Lの「シリーズパラレルハイブリッド」は「THSⅡ」(トヨタハイブリッドシステム)とも呼ばれるおなじみのシステムだった。新たに登場したのが2.4Lガソリンターボエンジン搭載の「デュアルブーストハイブリッド」だ。
まず、デュアルブーストとは何なのか。簡単にいうと、「ツインカム」とか「ツインターボ」など、過去のハイパワーモデルによく使われていた言葉と同様のイメージで、「ターボエンジン」と「強力なモーター」による二重(デュアル)のブーストが加わったハイブリッドシステムのことである。
具体的には、最高出力200kW(272PS)/最大トルク460Nmを発生する2.4L直列4気筒ターボエンジンと61kW(82.9PS)/292Nmのフロントモーターを2つのクラッチを介して6速ATに接続するフロント駆動部、59kW(80.2PS)/169Nmを発生する水冷式モーターでリアを駆動する「eAxle」、定格電圧230V/容量5Ahの新開発バイポーラ型ニッケル水素電池を組み合わせたトヨタ初採用のシステムで、総合出力は257kW(349PS)だ。172kW(234PS)の2.5Lモデルに比べるとデュアルブーストのハイパワーぶりがよくわかる。
資料には、「ドライバーのアクセル操作にリニアに反応し、ダイレクトかつトルクフルで気持ちのいいドライブフィールを体験いただけます」との文字が。トヨタのハイブリッドといえばエコなイメージだったのだが、このデュアルブーストハイブリッドは走りに特化するというキャラの立ったシステムであり、トヨタのフラッグシップにふさわしい速さを求めるユーザーに焦点を当てたモデルに仕上がっている。ちなみに燃費はWLTCモード15.7km/L(2.5Lモデルは22.4km/L)で、それほど悪いわけではない。
見た目は(ほぼ)変化なし、速さは段違い!
試乗した「クラウン クロスオーバー RS アドバンスド」はブラック×プレシャスメタルの2トーンにブラック×イエローブラウンのインテリアを備えた上級グレード。価格は640万円だ。上記のボディカラーをはじめ、ドライバーサポートパッケージやリアサポートパッケージ、電動ムーンルーフ、デジタルミラーなど93.555万円相当のオプションを装備していたので、合計価格は733.555万円となっていた。
新型クラウンの高級バージョンなのだが、見た目で識別するのは容易ではない。2.5Lモデルとの違いはリアトランクの「CROWN」ロゴとホイールデザインくらい。CROWNのロゴは2.5Lがシルバー、デュアルブーストが漆黒メッキ(ブラッククローム)になっているから、街ですれ違ったら後ろ姿をよく確認してみよう。
新型クラウンのデザイナーさんは、もともとのデザインがカッコいいのだから、姿かたちの違いでグレードの違いを主張するのはやめようと考えたらしい。トヨタのハイブリッドモデルであることを証明する「HYBRID SYNERGY DRIVE」のバッジもはずしたいとの声が上がったそうだから、そのアンダーステイトメント性はなかなかのものである。
走り出しはモーター駆動でスルリと動き出すのだが、オルガン式アクセルペダルに乗せた右足にほんの少しだけ力を入れた時点で、ググッと車速が伸びる点には驚いた。穏やかな2.5Lモデルとの走りの違いは明確だ。低速域からのトルクのつき方がすばらしいのである。
さらに踏み込んでみると、まるで足裏と路面がダイレクトにつながっているように車速が伸びていく。RSモデルに新たに加わったドライブモード「スポーツ+」を選ぶと、その比例度は一層顕著に。箱根で試乗したのだが、ワインディングを攻めていてとても気持ちがよかった。
モーターアシストにより、6段ギアのカバーレンジが15%も拡大されているとのことで、変速時に駆動力が落ちるような場面でもトルクの落ち込みがなく、スイスイと車速を乗せてくれる。速度が上がるとエンジン回転も当然ながら高まってくるのだが、2.4Lターボユニットは2.5Lに比べて高周波音を伝えてこず、音質が「グーンンッ」とちょっとくぐもった音でなかなかいい。一言でいえば、静かで速い。加減速のマナーの良さはトヨタのフラッグシップモデルにふさわしい出来栄えだった。
コーナリングでは、水冷式オイルクーラーを装着して熱対策もばっちりなリアアクスル用モーターによる強い押し出しが感じられる。低中速域では逆相、高速では同相に後輪をステアしてくれる「DRS」(ダイナミックリアステアリング)、旋回内側輪の前後設地荷重比とタイヤ横力を基に前輪駆動配分を決定する4WD制御のほか、「スポーツ+」モード時にはステアリング特性とショックアブソーバーの減衰力まで最適化してくれるので、大小のコーナーが連続する箱根のワインディングもグイグイとクリアしていくことができた。
大満足でワインディングを終えて試乗会場に戻る途中、ひとつだけ気になったのは、「エコ」や「コンフォート」モードでゆったりと走る時のボディの揺れだ。2.5Lモデルに比べると、ほんのわずかだけれども揺れが残ってしまう。装着している可変ショックアブソーバーの個体差なのかもしれないが、ゆったりと走る機会が多いオーナーさんであれば、コンベンショナルな2.5Lモデルを選ぶ理由になるかもしれない。
いずれにしても、2.4Lデュアルブーストハイブリッドモデルの性能がすばらしいのは確か。前モデルでは約2割だった高性能バージョンの販売割合が、現時点の注文ベースでは3割、目標としては4割までいきたいというトヨタの期待も納得だ。北米で開催した同モデルの試乗会でも走りを評価する声が集まったと聞くが、当然の反応だろう。