ホンダの研究子会社である本田技術研究所が独自AIの研究を進めている。「人と分かりあう」ことができる協調人工知能「Honda CI」(CIはCooperative Intelligenceの頭文字)という技術で、これを搭載する小型の乗り物(マイクロモビリティ)を2030年の実用化を目指して開発中だ。どんな技術なのかデモを見てきた。

  • ホンダのサイコマ

    ホンダがAI搭載車両を研究中!

ホンダのCI搭載車、どんな乗り物?

Honda CIを活用したマイクロモビリティの主な技術は2つある。「意図理解・コミュニケーション技術」と「地図レス協調運転技術」だ。これらの技術を使うと何ができるのか。ホンダは3種類の乗り物を使って説明した。

最初に体験したのはタクシー代わりに使えそうな車両だ。このクルマ、高精度地図に頼らずカメラで周辺環境を認識しながら走行し、基本的には自動で目的地に運んでくれるのだが、車内のジョイスティックを操作すれば乗員が思った方向に道路を右左折してくれる。

  • ホンダの試作車両

    前と左右の計3台のカメラで周辺を認識しつつ自動走行する車両。基本はナビで設定した目的地に自動運転で向かうが、道の途中で寄りたいスポットを発見したらジョイスティックで右左折を指示できる。散歩するように目的地を決めずに走らせ、寄り道しながらぶらぶらするような乗り方も考えられる

  • ホンダの試作車両
  • ホンダの試作車両
  • ホンダの試作車両
  • こういう乗り物であれば免許のない人、例えば子供が1人で乗って移動するような使い方も考えられるかもしれない。右端がジョイスティックの写真

あとの2台は搭乗型マイクロモビリティ「サイコマ」(CiKoMa)という乗り物だ。

サイコマは1人~複数人の乗車を想定した電動マイクロモビリティ。必要なときに呼び出し、目的地に到着したら乗り捨てるような使い方を想定しており、街中や観光地での「ちょい乗り」で役立つ手軽な移動手段を目指している。

マイクロバス型(4人乗り)のサイコマは、茨城県常総市の「水海道あすなろの里」と「アグリサイエンスバレー」で実証実験を行う予定だ。

この車両で体験できたのは、ドライバーの意識や状態を読み取り、気が付いていないリスクについて注意を促す技術。ドライバーモニターカメラで運転手の視線を認識し、近づいてくる自転車や前を横切ろうとする歩行者などに本人が気づいていないと判断した場合は音や画面表示で知らせる。

  • ホンダのサイコマ
  • ホンダのサイコマ
  • 目の前の画面で視線と顔の向きがモニタリングされていた

次のサイコマは1人乗りを想定。大勢の人が行き交う広場などで、ほんのちょっとした移動をサポートしてくれそうな乗り物だ。

  • ホンダのサイコマ

    1人乗りを想定した「サイコマ」

この車両は人の意図を読み取る技術を搭載。人間と音声で対話しながら、「どこどこの店の前に来て」「(指をさしつつ)そこに止まって」「やっぱり赤い自動販売機の前に来て」といった指示に従って自動走行し、望みの場所まで迎えにいく。指示された場所に到着した際、そこに複数の人がいて誰に呼ばれたのか分からない場合は、サイコマの方から「赤い服を着ていますか?」「スマホを操作していますか?」などの質問を発し、本人を特定する。

  • ホンダのサイコマ

    敷地の広いショッピングモールやアウトレットなどで役に立ちそうな乗り物だ

気になるのは、これらの技術や乗り物を使ってホンダがどんなビジネスを構築していくのかだが、デモを前に挨拶した本田技術研究所 代表取締役社長の大津啓司さんによると「研究所は事業を考えない」のが基本であるとのこと。「今は技術に集中」しつつ、実証実験を通じて同技術の社会実装に向けた「実態把握」を進めていきたいという。

  • ホンダのCIデモ

    左から本田技術研究所 先進技術研究所 知能化領域 エグゼクティブチーフエンジニアの安井裕司さん、本田技術研究所 代表取締役社長の大津啓司さん、茨城県 常総市 市長の神達岳志さん

ただ考えてみると、こうした未来の技術には浮かんでは消えていくという側面もある。これまでに無人タクシーやらコミュニケーション可能な乗り物やらの実証実験はたくさんあったように記憶するが、実用化に結びついたものといえば数えるほどもないような気がする。技術の具体化、社会実装に向け、ホンダはどのくらい本気なのか。

そのあたりを問われた大津さんは、「今後、先進国を中心に少子高齢化が進んでいくのは事実で、さまざまな課題を解決する必要があります。ホンダは『人の役に立つための技術開発』をしてきた会社であり、それがポリシーであり生き様でもあるので、(課題があると)分かっているのに何もしないというのは、ホンダとしては『ノー』なんです。『何かをやらなければならない』という意思先行でスタートさせています」と話していた。