10月28日放送の『最初はパー』(テレビ朝日系)で秋ドラマの主要作がそろった。『アトムの童』(TBS系)が裏番組の特番ラッシュで低視聴率スタートとなったり、『silent』(フジテレビ系)が爆発的な配信再生数を叩き出したりなど、早くもさまざまな動きが見られる。今秋はどんな作品がラインナップされ、どんな傾向が見られるのか。
主要ドラマがそろったこのタイミングで、「本当に質が高くて、今後期待できる作品」をドラマ解説者の木村隆志がピックアップ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2022年秋ドラマ18作の傾向とおすすめ5作(第1弾)、目安の採点付き全作レビュー(第2弾)を挙げていく。
2022年秋ドラマの主な傾向は、【[1]主演俳優に若返りの波 [2]女性スタッフのさらなる躍進】の2つ。
傾向[1]主演俳優に若返りの波
今秋は近年記憶にないほど、主演俳優の年齢に若返りが見られる。
まずゴールデン・プライム帯で放送される新作ドラマを主演俳優の年齢が若い順に挙げていこう。
『霊媒探偵・城塚翡翠』(日本テレビ系)の清原果耶(20)、『クロサギ』(TBS系)の平野紫耀(25)、『silent』の川口春奈(27)、『ファーストペンギン!』(日テレ系)の奈緒(27)、『PICU 小児集中治療室』(フジ系)の吉沢亮(28)、『アトムの童』の山崎賢人(28)、『親愛なる僕へ殺意をこめて』(フジ系)の山田涼介(29)。
『君の花になる』(TBS系)の本田翼(30)、『祈りのカルテ~研修医の謎解き診察記録~』(日テレ系)の玉森裕太(32)、『ザ・トラベルナース』(テレ朝系)の岡田将生(33)、『エルピス―希望、あるいは災い―』(カンテレ・フジ系)の長澤まさみ(35)。
今秋の新作ドラマで中高年の主演は、視聴者層の高いNHKで放送されている『つまらない住宅地のすべての家』の井ノ原快彦(46)と『一橋桐子の犯罪日記』の松坂慶子(70)のみ。民放の作品は20代が多く、最高齢が長澤まさみの35歳であることから、いかに若いかがわかるだろう。
また、23時台にスタートする新作ドラマも主演俳優はすべて若い。『ボーイフレンド降臨!』(テレ朝系)の高橋海人(23)、『Sister』(読売テレビ・日テレ系)の山本舞香(25)と瀧本美織(31)、『最初はパー』のジェシー(26)、『ジャパニーズスタイル』(テレ朝系)の仲野太賀(29)。
さらに言えば、『silent』のメインは川口春奈(27)、目黒蓮(25)、鈴鹿央士(22)の三角関係。『クロサギ』で平野の相手役は黒島結菜(25)。『祈りのカルテ』のメインは玉森裕太(32)、池田エライザ(26)、堀未央奈(26)、YU(27)、矢本悠馬(32)ら研修医を演じる若き俳優たち。『君の花になる』の事実上の主人公と言えるアイドルグループ「8LOOM」のメンバーは高橋文哉(21)、宮世琉弥(18)ら若手俳優が集結している。
では、なぜこれほど主演クラスの俳優が急激に若返っているのか。それは単に「コア層(13~49歳)の視聴率と配信再生数を獲得したいから」にほかならない。前者はスポンサー受けのいい年齢層であり放送による広告を、後者は配信における広告や有料動画配信サービスへの誘客が期待されている。
つまり、「これくらい主演クラスの俳優を若返らせなければ、放送も配信も収入が得られづらくなっている」ということ。ちなみに、最もドラマに勢いがあった1980~1990年代は、これ以上に主演俳優の年齢層が若かった。地上波ドラマの主演俳優は、現在も演技力以上に華が求められるだけに、若きスターが増えるほどシーンが盛り上がっていくだろう。
傾向[2]女性スタッフのさらなる躍進
今秋の傾向としてもう1つ際立っているのは、女性プロデューサーと女性脚本家のよい関係性。
『PICU小児集中治療室』はプロデュース・金城綾香×脚本・倉光泰子、『エルピス』はプロデュース・佐野亜裕美×脚本・渡辺あや、『君の花になる』はプロデュース・黎景怡×脚本・吉田恵里香、『ファーストペンギン!』はプロデュース・三上絵里子×脚本・森下佳子、『ザ・トラベルナース』はプロデュース・内山聖子×脚本・中園ミホ、『クロサギ』はプロデュース・武田梓×脚本・篠崎絵里子。
この6作はすべて月~金曜プライムタイムの放送であり、「平日の新作ドラマは女性スタッフが中心となって作られている」ことがわかるだろう。これは「平日のドラマは女性視聴者が多いからであり、特に脚本は『つまらない住宅地のすべての家』(NHK)の池田奈津子、『silent』の生方美久も含め、9作中8作を女性が担っている。
さらに土日も合わせると、今秋はプライムタイムの新作ドラマ13作中9作(69%)が女性脚本家であり、しかもその「9作中7作が原作なしのオリジナル」。一方、男性脚本家は「4作中4作が原作ありの実写化」という点を見ても、いかに女性脚本家が評価され、ドラマ業界を支えているかがわかるだろう。
女性プロデューサーがコンセプトを決めてキャスティングし、それを踏まえて女性脚本家が物語を作る。女性たちでキャスティングと脚本を固めたら、男性演出家が撮影する……という流れができているのだ。もともと女性スタッフが手がけるドラマは、「トレンドを押さえ、共感度の高い作品が多い」と言われSNSとの相性がいいだけに、最後までネット上が盛り上がるのではないか。
これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『silent』『最初はパー』の2作。
まず『silent』は、村瀬健プロデューサーの抜てきが大当たり。脚本の生方美久は連ドラデビューの29歳新人であり、演出の風間太樹も31歳の若手だが、ともに凄まじい才能を発揮している。物語も映像も繊細なのに情感たっぷりで、突飛な設定に頼ったりコメディに逃げたりせず、純粋なラブストーリーのみで勝負して視聴者の心をつかんでいる。
次に『最初はパー』は、秋元康が企画・原作だけでなく脚本も手がけたことで、放送作家としての実力を存分に発揮。実名番組や業界あるあるを絡めた物語は遊び心であふれ、さらに佐久間宣行が総合監修を務めることでシットコムのような笑いを生み出している。
その他では、『ファーストペンギン!』は、やはり森下佳子の脚本にハズレなし。『エルピス』は、地味な題材でも徹底的に掘り下げることでエンタメに昇華。『アトムの童』は、日曜劇場にゲーム×山崎賢人を選ぶ挑戦的な制作姿勢で、映像から熱気が感じられる。
「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局の動画配信サービスなどでチェックしてみてはいかがだろうか。
■2022年 秋ドラマのオススメ5作
- No.1 silent (フジ系 木曜22時)
- No.2 最初はパー(テレ朝系 金曜23時15分)
- No.3 ファーストペンギン! (日テレ系 水曜22時)
- No.4 エルピス (カンテレ・フジ系 月曜22時)
- No.5 アトムの童 (TBS系 日曜21時)