JR北海道は、H100形「釧網線ラッピング」「花咲線ラッピング」車両の報道公開を釧路駅で10月26日に実施した。観光列車としても使用できるように、外観・内装を従来車両から変更。2路線の魅力を最大限にアピールした。
H100形ラッピング車両は、JR北海道が国および北海道から支援を受けて製造、改装を行った。北海道高速鉄道開発が車両を保有し、JR北海道は同社から無償で車両の貸与を受け、運用するしくみとなっている。2022年度に4両、2023年度に4両が線区近傍の運転所等に配置される予定。2022年度に配置する4両のうち、「H100-82」「H100-83」の2両について、8月頃から約2カ月かけて観光列車向けの仕様にした。「H100-82」は「釧網線ラッピング」車両、「H100-83」は「花咲線ラッピング」車両となった。
10月26日の報道公開では、11時30分頃、釧路駅1番線にラッピングを施したH100形2両が入線した。先頭は「釧網線ラッピング」の「H100-82」で、白い車体が遠くからでも識別しやすい。連結された状態で後ろに続いた車両が「花咲線ラッピング」の「H100-83」だった。
外観を観察すると、2両とも海側・山側でデザインが異なる。地元住民の意見も取り入れて練り上げられた外装は、華やかなイメージを向上させていると感じた。各車両の山側に設置された銘板には、JR北海道だけでなく、北海道高速鉄道開発のものも設置されていた。貫通扉部分の黄色は通常のH100形と同様で、保線員らの視認度向上のために残しているとのこと。
「釧網線ラッピング」車両(H100-82)は、釧網本線の車窓から見られる釧路湿原やタンチョウ、摩周湖、オホーツク海の流氷といった沿線風景を想起しやすいイラストを全面に散りばめている。観光資源をアピールするだけでなく、沿線住民にも愛着を持ってもらえるように工夫されていた。
一方、「花咲線ラッピング」車両(H100-83)は、山側に白系、海側に赤系という紅白の色使いが目を引く。現在、花咲線(根室本線釧路~根室間)で運用されているキハ54形「地球探索鉄道」と同様のデザインで、ハマナスの花びらと雪の結晶を表現したとのこと。車体の両側面に「地球探索鉄道 花咲線」のロゴが入り、まるで美しい着物を見ているような装いだった。
車内に入ってみると、内装が従来のH100形とは別物となっていた。シート配置こそ通常のH100形をおおむね踏襲しているが、北海道産のタモ材を使用した着脱可能なテーブルや特別仕様のシート生地、木製の吊り革など、変更点が多数ある。
座席の生地には、タンチョウやエゾマツなど、北海道の自然と風景をイメージした絵柄を取り入れた。シートは全体的に茶色系で、木製のテーブルや吊り革と相まって車内に統一感を生んでいる。座り心地はやや硬めだが、座っただけで旅行気分に浸れそうだった。木製のテーブルや吊り革は手になじみやすく、肌触りが良い。
「釧網線ラッピング」車両の貫通部を通って「花咲線ラッピング」車両に移ると、内装はほぼ同じながら、ロングシートの部分を活用し、自転車の持込みが可能であることをアピールしていた。「釧網線・花咲線ラッピング」車両は、10月30日に釧路~摩周間を往復する「サイクルトレインモニターツアー」の団体臨時列車で営業運転開始を予定している。同ツアーでは、参加者が自転車を折り畳まずに列車内へ持ち込むことが可能。今回の報道公開では吊り革にベルト状の紐を通し、自転車のハンドル部分にベルトをくぐらせ、吊り上げている様子を見ることができた。
同ツアーはJR釧網本線維持活性化実行委員会の主催で実施され、一般の乗客は乗車できない。「釧網線・花咲線ラッピング」車両の団体臨時列車は10月30日の7時48分に釧路駅を発車し、これに合わせて出発式が開催される。隣の東釧路駅を8時12分に発車し、摩周駅に9時26分に到着。摩周駅を16時10分に発車して折り返し、釧路駅に17時40分に到着する予定となっている。
その後は順次、普通列車としての運用にも入る。ただし、普通列車としての運用区間は当分の間、根室本線新得~釧路間に。現在、キハ54形やキハ40形が活躍している釧網本線・花咲線(釧路~網走・根室間)の車両運用に関して、ただちに変更があるわけではないという。
今回の報道公開では、JR北海道の担当者から「地域に愛してもらえる車両になるように、大切に使っていきたい」とコメントも。車両が公開されている間、駅利用者のみならず、駅係員らが興味深そうに車両を眺めている姿も見られた。それだけ新車両に対する関心が強いのだろう。
道東地域は気候が厳しく、札幌など道央圏と比べて交通の便が良いとは言い難い。本州からはもちろん、北海道民であっても行く機会は限られる。それでも、釧網本線や花咲線の車窓から見える雄大な自然の風景は魅力的で、まさに北海道そのものである。道東地域の活性化と道内外からの観光のきっかけづくりとして、2両のラッピング車両が活躍することになるだろう。