第35期竜王戦2組昇級者決定戦(主催:読売新聞社)の都成竜馬七段-増田康宏六段戦が10月27日(木)に東京・将棋会館で行われました。結果は都成七段が113手で勝利し、2組3位の座を獲得して1組への昇級を決めました。

■増田六段用意の作戦

本局は相掛かりの戦型に進みました。先手となった都成七段が右桂を跳ねて早い攻めを見せると、後手の増田六段はじっくりと腰掛け銀の布陣を目指します。腰掛け銀が組み上がると守備が安定し、先手からの桂跳ねの攻めに対応しやすくなります。速攻を目指したい都成七段としては、増田六段の陣形が不安定なうちに飛車を大きく使って横歩を取りにいく作戦に出ました。

このあたりは定跡の進行で、▲6四飛の横歩取りを見せられた後手としては(1)横歩取りを許してゆっくり駒組みを進める、(2)あくまで腰掛け銀の布陣を追求するという2つの選択肢があります。後者の展開を目指した増田六段は、その代償として自身の角が使いづらくなることを甘受しました。

本局における増田六段の工夫は、32手目の△4四歩にありました。増田六段の突き出した歩は先手の角にタダで取られてしまいそうですが、空いたスペースに守りの金銀を繰り出して雁木の好形を築くことができます。先述の2つの方針をうまくとり合わせた増田六段の好着想に、都成七段も慎重に時間を使って対応していきます。

■都成七段の攻め

雁木の構えを完成させた増田六段はその後、玉を盤面左方に転じて都成七段の棒銀の圧力から逃れました。形勢はまったくの互角で、増田六段としては都成七段からの攻めを受け止めつつ、駒をもらっての反撃を狙う構えです。

盤上では、都成七段が61手目に6筋の歩をぶつけて本格的な戦いが始まりました。この突き捨ての歩によって都成七段は増田陣に楔の歩を打ち込むことができましたが、一方で増田六段の6筋の歩も都成七段の玉を脅かす拠点として働いてきます。具体的には、この歩を拠点に△6六桂と打つ王手が厳しく残りました。局面は難解ながら、後手番で攻勢を取れた増田六段としては不満のない展開に思われました。

難解な押し引きが続いたのち、都成七段は81手目に桂を成りつつ金を取ります。この手に対して増田六段が見せた△6五桂の踏み込みが本局のハイライトになりました。この手は、受けていてもきりがないと見た増田六段が先手陣への攻め合いの味を残したもので、「勝てば勝着、負ければ敗着」とも言える大きな決断でした。

■都成七段が増田六段の勝負手封じる

増田六段のこの勝負手の成否は非常に難しく、その後も盤上では丁々発止のやり取りが続きます。しかしそこから10手ほど進んだ局面で都成七段が見せた▲3三歩のたたきの歩の手筋が、増田六段の勝負手を封じ込める正確な反撃となりました。都成七段はこの歩の手筋により、ようやく形勢の針を自分の方に手繰り寄せることに成功しました。

最後は増田六段の反撃をかわして攻め切った都成七段が勝利。終局時刻は22時12分、対局開始から12時間を越える熱戦でした。勝った都成七段はこれで自身初となる1組昇級を決めました。なお本棋戦での都成七段は、2018年度のランキング戦優勝で5組昇級を決めて以来5年連続での昇級となります。

水留啓(将棋情報局)

勝って今期勝率7割をキープした都成七段
勝って今期勝率7割をキープした都成七段