英国の若いITブランド、Nothingが11月10日から一般に広く販売する左右独立型の完全ワイヤレスイヤホン「Ear (stick)」。いち早く試す機会を得たので、音質や質感、使い勝手などファーストインプレッションをお伝えします。
人気急上昇中「Nothing」のイヤホン第2弾、ついに登場
Nothingは、中国に拠点を置くOPPO傘下のスマートフォンブランド、OnePlusの共同創業者であるカール・ペイ氏が立ち上げたテックブランドです。2021年夏に初のワイヤレスイヤホン「Ear (1)」を発売し、2022年には矢継ぎ早にAndroidスマートフォン「Phone (1)」を投入。今、とても勢いに乗っています。
Ear (1)、Phone (1)を発売してから、Nothingは「先進的なテクノロジーとプロダクトデザインがイケてるブランド」として、若いガジェットファンを中心に多くのファンを獲得しています。CEOのペイ氏は同社製品の未来感あふれるデザインについて、「奇をてらったものではなく、Nothingらしさとユーザーにとっての使いやすさを徹底追求して生まれた究極の形」であることを強調しています。
製品に触れてみると、確かにNothingの製品は手に心地よくなじみました。ユーザー本位の使いやすさを徹底追求した成果がデザインのすみずみにまで活きていることがよくわかります。
デザインだけじゃない、先進的なオーディオ技術も搭載
新製品のEar (stick)はオープン型ハウジングを採用する完全ワイヤレスイヤホンです。製品の名称は、コスメティック(おそらくリップスティック)にインスピレーションを得たという充電ケースの形に、あるいはAirPodsのようなスティックデザインのイヤホン本体に由来しているのでしょう。
楕円形のハウジングの中には12.6mmのダイナミック型ドライバーを搭載しています。オープン型イヤホンながらもパワフルな低音が出せるよう、振動板とこれを強力に動かすためのマグネットの組み合わせに工夫を凝らしてきたといいます。
なお、既存のEar (1)が搭載するアクティブノイズキャンセリング機能は、新製品のEar (stick)にはありません。
代わりにというわけではありませんが、イヤホンを耳に装着するときに都度「Bass Lock Technology」と名付けたアルゴリズムがあり、装着状態に合わせて低音再生のレベルを持ち上げます。ユーザーは特別な操作を行う必要がなく、また耳に聞こえるテストトーンも特にありません。ユーザーが意識することなく、イヤホンが“勝手に”最適なサウンドに整えてくれます。
「オープン型イヤホンで十分な低音を出す」のであれば、音響チューニングにより同様の目的を達成する道もあったと思います。これをITの技術により組み込んだところに“Nothingらしさ”を感じます。
本体はイヤーチップを使わず、そのまま耳に乗せるインナーイヤースタイルです。フィット感はとても安定していて、ジョギングをしたり、体を少し大きく動かしても耳もとでピタリと安定します。
本体がIP54相当の防塵・防滴仕様なので、汗や雨に濡れても安心。筆者はキッチンで音楽を聴きながら料理や片付けものをするときに使うイヤホンとしても、Ear (stick)がとてもハマりました。
本体のスティック部分には静電容量方式のリモコンを内蔵しています。スティック部分を指でつまむと「プチッ」と音が鳴って操作が実行されます。シングルクリックが再生・一時停止と通話応答・終話。あとはクリックの回数や長さによって、再生楽曲のスキップや音量のアップダウンができます。
押し込み操作の感覚は少し慣れが必要ですが、リモコンの感度は良好。手袋を装着したままでもクリック操作を受け付けるので、これから冬場の屋外リスニングにも活躍してくれそうです。
iOS/Android対応の多機能アプリ「Nothing X」
リモコンのクリック操作は、プリセットの状態を「Nothing X」アプリから変更することもできます。iOS/Androidに対応するNothing Xアプリでは、ほかにもイヤホンのバッテリー残量の確認やファームウェアの更新、イヤホンの着脱に合わせて楽曲の再生と一時停止を連動させる「インイヤー検出」の設定ができます。
万一、イヤホンが手元から見当たらなくなった場合に備えて、イヤホンから音を出して場所を知らせる「FIND MY EARBUDS」機能もあります。イヤホンがケースの中にあり、ケースのふたが閉じている状態だと、スマホとのペアリングが切断され検索機能が使えません。この点は注意が必要です。
このほかアプリでは、高・中・低域の再生バランスを±6段階で調整できる「イコライザ(EQ)」機能をEar (1)から踏襲しています。イコライザは、アプリのチャート画面をみながら直感的に好みのバランスを見つけることができます。
Ear (1)のユーザーから受けた「手動のバランス調整だけではオススメのサウンドがわかりづらい」というリクエストにこたえて、「Balanced」、「More Bass」、「More Treble」、「Voice」のプリセット4種類を設けています。どれもメリハリを効かせたわかりやすいプリセットです。
また、ゲームなど音声の遅延による映像とのズレが気になりがちなコンテンツを楽しむときには、「低遅延モード」をアプリからオンにするとよいでしょう。
Nothingのスマホ、Phone (1)のユーザーはEar (stick)をペアリングすると、スマホ上部から引き出す通知トレイから、イヤホンの設定へダイレクトにアクセスできます。CEOのペイ氏は「Nothingのプロダクト間で、ユーザーが利便性を実感できる快適な操作性を実現すること」が、Earシリーズのワイヤレスイヤホンを開発するときの大きなテーマだったと語っています。
フラットバランスな“優等生。EQの積極活用もアリ
Ear (stick)のサウンドは一般的なスマホで確かめた方が良いと考えたので、手持ちのiPhone 14 ProにペアリングしてApple Musicの楽曲を試聴しました。イコライザーは「Balanced」を選んでいます。イヤホンが対応しているBluetoothオーディオのコーデックはAACとSBCです。
緑黄色社会の楽曲『陽はまた昇るから』では、ボーカルの透明感やリズムの切れ味が鋭く冴え渡ります。オープン型のワイヤレスイヤホンの中では、低音の力強さが確かに充実していると思います。
各帯域に広がりのある音をしっかりと捉えて、ディティールも粒を立たせて明瞭に再現します。全体に聴き疲れしないサウンドにバランスをうまくまとめています。
一方で課題があるとすれば、イコライザーを「Balanced」に設定すると、ものすごくバランスがフラットで“優等生的過ぎる”印象を受けました。言い換えれば、若干面白みに欠ける感じがしてしまうのです。
イコライザーのカスタム設定から少し中低音域の設定を変えてみたところ、活き活きとした魅力的なサウンドになりました。イコライザー機能を積極的に活用するのも「アリ」なイヤホンだと筆者は感じました。
筆者はまだEar (1)を試したことがなかったので、この機会に実機を借りて聴いてみました。こちらは低音の量感を確保することにはしっかりと注力しているのですが、やはり音の仕上がりはとてもフラットバランスです。
Nothingのサウンドチューニングのポリシーなのだと思いますが、イヤホンは音楽をたのしむためのオーディオ機器でもあります。デザインが面白い上に、使い勝手や装着感もとても良いと感じました。これから音のチューニングに「遊び心」を加えながらていねいに磨いていけば、Nothingの「Earシリーズ」は独特な存在感を放つ、さらに魅力的なイヤホンになると思います。