いよいよ、その瞬間がやって来る! 12月13日、東京・有明アリーナにおいて、井上尚弥(大橋)がプロボクシング・バンタム級4団体世界王座統一戦に挑むのだ。WBAスーパー、WBC、IBFの3本のベルトを保持する井上と、WBO王者ポール・バトラー(英国)の対峙─。
戦前の予想は、井上が圧倒的優位。この一戦で勝利し史上9人目、アジア人としては初の快挙となる「4団体世界王座統一」を果たした後に、モンスターが見据える新たなファイティング・ロードとは?
■「長かったとは感じていない」
「3つのベルトを持ってリングに上がり闘うのは今回が初めて。そして勝てば、ついに4本のベルトが揃う。過去最大のモチベーションで挑める試合です。これから2カ月やれることをやって、100%の状態でリングに上がれるようにしたい。楽しみです」
10月13日、都内での「4団体世界王座統一戦」発表記者会見。落ち着いた表情でステージに上がった井上尚弥は、瞳を輝かせながらそう話した。
2018年5月にジェイミー・マクドネル(英国)を1ラウンドTKOで破り、WBA世界バンタム級王座を奪取し3階級制覇を果たしてから約4年7カ月。ようやく、4本のベルトを揃えバンタム級最強を証明する闘いの舞台に辿り着いたのだ。
本当なら2019年11月に「WBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)のトーナメントを制した時点で王座統一の夢が叶うはずだった。しかし、そうはならず。その後のコロナ禍、マッチメイクの難航などにより随分と遠回りをしたようにも思う。
だが井上は、こう言った。
「いよいよ来たな、という気持ちはありますが、ここまでの道程を長かったとは感じていません。それは、充実した日々を過ごせて成長することもできたから。自分にとって次の試合が『バンタム級での締め』になります。でも、これも通過点です」
■テーマは、如何に勝つか
いまや、バンタム級において井上に敵はいない。
12月に闘うバトラーはWBO王者ではあるが、井上から見れば、格下の選手だ。
「バトラーに対して警戒するところは?」
記者会見でのそんな問いに対し、彼は答えた。
「もし(バトラーが)倒されないボクシングに徹してきた時、自分がどのようなボクシングをやっていくか。そのことを考えています」
つまり、勝つのは大前提。井上にとっての闘いのテーマは、如何に圧倒的な力の差を見せつけて倒すかなのである。
それは、そうだろう。
2019年5月、英国グラスゴーのSSEハイドロで、井上はエマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ)を2ラウンドKOで葬っている。強烈な左ボディを見舞っての完勝だった。そのロドリゲスにバトラーは、判定完敗を喫しているのだ。
また、井上がグラスゴーでロドリゲスと闘った時、その直前にバトラーも同じリングに上がっている。サルバドール・エルナンデス・サンチェス(メキシコ)と闘い、6ラウンドTKO勝利を収めた。
とはいえ、それほどインパクトの強い勝ち方ではなかった。破壊力、卓越したスピード、テクニックを有しているわけでもない。現地で観戦したが、バトラーはオーソドックスなタイプ。オフェンス、ディフェンスともに上手く穴は少ないが、モンスターのパンチをしのぎ切れるレベルにはないと感じた。
井上がバトラーに負ける展開が、イメージできない。
■目指すは2階級での王座統一
そうなると気になるのは、井上の「4団体世界王座統一」以降の新たな闘いである。
おそらく、すぐに4本のベルトを返上。階級をスーパー・バンタムに上げることになろう。モンスターの実力、そして評価を考えればダイレクトでタイトルマッチに挑んでも不思議ではない。それもあり得ると思う。
しかし、セオリーで考えれば、スーパー・バンタム級世界ランカーとの試合を一つ挟んでから王座挑戦となるのではないか。
現在のスーパー・バンタム級の世界王者は、次のふたりだ。
▶WBAスーパー&IBF ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン、27歳/11戦全勝<8KO>)
▶WBC&WBO スティーブン・フルトン(米国、28歳/21戦全勝<8KO>)
アフマダリエフは、2016年リオ・デ・ジャネイロ五輪(バンタム級)の銅メダリスト。2020年1月にWBA、IBF両王座を獲得し、すでに3度の防衛を果たしているハードパンチャー。一方のフルトンは、昨年11月にブランドン・フィゲロア(米国)に2-0の判定で勝利しWBC、WBOの王座を統一、粘り強い闘いができる万能ファイターだ。
来年の井上のターゲットは、この二人となる。
両王者の統一戦を望む声は大きいし、この階級には、“悪童”ルイス・ネリもいる。そのためマッチメイクは簡単ではなかろうが、上手く話が進めば2023年半ば辺りに、いずれかの王者と闘う機会を得られる可能性も。そこで井上がKO圧勝できたならば、来年末に一気にスーパー・バンタム級における「4団体世界王座統一戦」が実現するかもしれない。
2階級での「4団体世界王座統一」は史上初の快挙…夢は膨らむ。
“モンスター”井上尚弥は、どこまで強いのか?
まずは彼のバンタム級では最後になるであろう試合を、有明で確と見届けたい。
文/近藤隆夫