この8月に『都会を出て田舎で0円生活はじめました』を出版した田村余一さん・ゆにさん夫婦。青森の田舎で自給自足生活を始めるようになったきっかけや、その生活ぶりを紹介した前回に引き続き、現在の暮らしで感じる"家族の幸せ"や今後の展望について伺った。
■家族と共に、子どもの未来のためにできること
余一さんには、家族がいる。この家族の始まりの物語も驚きの連続だ。一緒に田舎暮らしを築き上げてくれるパートナーが欲しいと考え、なんとお嫁さんをSNSで募集したのである。はたから見れば突拍子が無いようにも見える婚活だが、妻のゆにさんの心は大きく動かされた。
ゆにさん「SNSで募集を見た頃、私も結婚を意識するようになっていましたし、何より自然に寄り添った生活をしていきたいなと思っていた時期で、むしろチャンスなのかなと思いました。不安もありましたが、余一さんにお会いして、人柄だったり環境だったりに魅力を感じるようになっていきました。余一さんは、自然の中で暮らしながら生きていく力を持った方だなと思ったので、頼れる人と一緒に暮らしていきたいと思って結婚したんです。」
こうして結婚生活がスタートした田村さん夫婦には、現在4歳になる男の子がいる。自分たちの生活のために選んだ田舎暮らしという選択だったが、子どもが生まれ親となった今では、その心境が少しずつ変わってきたという。
余一さん「汗だくになって働いた後、家族3人が食卓を囲むと、この上ない幸せを感じます。今の生活の原動力は、この子が生きる未来を良いものにしたいという思いなんです。この先、どんな社会になっても、ひとまず我が家の暮らし方を覚えていれば、たくましく生きていってくれるのではと考えていて。あえて学ぼうとしなくても、息子自身には、生きる力が備わると思うんです。」
■あなたもできる「丁寧な暮らし」
自然を大切にする暮らしに興味があっても、なかなか田舎暮らしを始める勇気はないという人も多いだろう。田村さん夫婦は、今ある生活の中からできることを提案してくれている。
ゆにさん「今ある物を大切にする暮らしから始めてみてはどうでしょうか。新しい物を買うという選択ではなく、今あるもので代用できないかとか、暮らしの工夫で環境に優しい生活をしてみてください。田舎で自給自足の暮らしをすると、使うお金は減らせますが、お金より時間が必要になります。時間をかけて、丁寧に暮らすということに目を向けてみるといいかもしれません。」
余一さん「例えば、郊外へ出掛けて収穫体験をしてみたり、DIYに挑戦して簡単な家具を作ってみたりすると、今ある生活の中でも、田舎暮らしの練習のようなことができますよね。本格的に移住となれば、空き家バンクなどを活用して、どんな地域に住んでみたいかなど情報を集めてみるといいでしょう。そうやってやりとりが始まると、人との繋がりもできますし、スムーズに田舎暮らしに移行できると思います。」
■真のお金の価値とは何なのか
お金をかけない生活を送ることで、田村さん夫婦は、物の価値に振り回されない生活を送っている。物価上昇など、お金や物の価値に振り回され、苦しさを抱える人たちへ、田村さん自身のお金に対する考え方を話してくれた。
余一さん「お金というものをどう考えるかなんだと思います。僕は、お金とは価値が物質化したものだと考えています。スーパーで値札が貼ってあれば、それを値切ってまで買おうとはしないですよね。でも私たちがしているような田舎暮らしでは違います。もっと直接的に物のやり取りができます。食べ物が欲しければ、その食べ物を育てればいいし、そうでなくても農家さんと直接値段交渉すればいい。お金ではなく物自体の価値に目を向けるようになれば、考え方が変わってくるかもしれません。」
家族3人で幸せな田舎生活を実現する田村さんファミリー。余一さんとゆにさんには、これから実現したいことがある。インタビューの最後にこれからの夢を聞いた。
余一さん「この暮らしをずっと家族で続けていきたいです。そして、人間は社会性のある生き物ですから、仲間を集めて一つの村のようなつながりを作って子育てをしたいですね。何かしらトラブルがあれば一丸となって対処するとか、そういうことができるようになると、今まで以上にたくましい生き方ができるようになるのではないかと思います。ですから、本気で田舎生活を始めたいという人には、この生活のノウハウを教えたいです。見学会や体験会を開催して、一緒に汗をかき、同じようなものを食べて、暮らしを体験してもらいながら、魅力を伝えていきたいなと思います。」
時代に振り回されず、「豊かな暮らし」を送るための強い信念を持った田村さん夫婦。お金をかけない田舎生活で得た彼らの「幸せ」の輪が、少しずつ広がろうとしている。
『都会を出て田舎で0円生活はじめました』(田村余一、田村ゆに 著/サンクチュアリ・パブリッシング 刊)
電気・水道・ガスの契約なし! 電源はソーラーパネル、自宅は廃材で建築、トイレットペーパーはキウイの葉っぱ! 青森の田舎で3人で暮らす自給自足家族の日常を一冊の本にしました。電源を求めて太陽を追いかけてみたり、どんどん増えるミントハーブと戦ったり、ご近所さんのお悩みを解決してまわる御用聞屋(ごようききや)の仕事で幸せな人生について考えたりと、都会の喧騒から離れた田舎暮しが疑似体験できる本です。かといって原始的な生活をしているわけでもなく、車を乗り回し、スマホやタブレットを持ち、SNSを使いこなしているまさにハイブリットな自給自足生活は、暮らしや生き方のヒントが沢山詰まった一冊となっています。