2022年7月に初のAndroidスマートフォン「Phone (1)」を発表して勢いに乗る英Nothing Technologyが、新しい左右独立型の完全ワイヤレスイヤホン「Ear (stick)」を発表しました。
価格は16,800円。国内では11月10日発売ですが、10月29日11時からNothingの公式ECサイト、Kith Tokyo、二子玉川 蔦屋家電で先行販売が始まります。
イヤーピースなしのオープン型完全ワイヤレス
Ear (stick)は2021年8月に発売された「Ear (1)」に続くNothingのワイヤレスイヤホン。ハウジングの構造をオープン型として、イヤーピースなどを付けず耳穴に乗せるように装着します。ノイズキャンセリング機能は搭載していません。
Nothingは、Ear (stick)の発売に先駆けて、メディア向けにオンライン説明会を開催。同社Head of Marketing & Co-founderのAkis Evangelidis(アキス・イワンジェリディス)氏が製品の特徴とこだわりを語りました。
音質・デザインへのこだわり
Ear (stick)もNothingのプロダクトらしく、イヤホンと充電ケースにクリアパーツをあしらったスケルトンデザインを採用しています。
円筒形の充電ケースはカバーをスライドさせて開閉します。イワンジェリディス氏は「従来型の充電ケースは、ケースを落とすとイヤホンが飛び出してしまいがちでしたが、Ear (stick)のケースは落としても簡単に開かないので安心です。一方で、片手で持ったままスムーズに開けられるように開閉機構を工夫しました」と話しています。
Ear (stick) はクルッと出し入れできます。
— Nothing | ナッシング (@NothingJapan) October 16, 2022
巧みなトランジッション ft. @erlsnpic.twitter.com/MF0QHtiWnU
オープン型構造のハウジングについて、イワンジェリディス氏は「オープン型のイヤホンは音質を向上させるために大型ドライバーを搭載しています。かたやドライバーを大きくし過ぎると重くなり、快適性が損なわれます。そこでNothingは本機専用にバランスの良いカスタムドライバーを設計しました。強力な磁束を発生させるマグネットを積み、軽量な振動板でパワーを最大化できるように特殊なコーティングを施しています。すべての音域においてスムーズなサウンドを再現できるようにチューニングをていねいに行いました」と説明しています。
なお、カスタムメイドのダイナミック型ドライバーのサイズは12.6mm径。振動板の素材にはPEN(ポリエチレンナフタレート)とPU(ポリウレタン)を組み合わせています。イヤホン本体の重さはEar (1)の片側4.7gから、Ear (stick)では片側4.4gまで軽量化を進めています。
ハウジングの形状を決める際、心地よいフィット感も同時に追求したそうです。イワンジェリディス氏は、最初は“見た目重視”で耳穴に対して平行に向くハウジング形状としたものの、万人に快適な装着感が得られなかったため、人間工学的のアプローチから設計をやり直したと振り返ります。
その後、100人を越えるテスターにフィッティングを依頼し、数多くのトライアル&エラーから得たデータを反映させて、耳穴に対してハウジングの向きに少しアングルを付けてフィット感を改善しました。
快適リスニングを支える主要テクノロジー
Nothingはオープン型ハウジングのイヤホンが一般的に課題とする「音もれ」や「低音の損失」を防ぐため、Ear (stick)に「Bass Lock」と名付けた独自機能を搭載しました。
ユーザーがイヤホンを耳に装着すると、Bass Lock機能が自動的に働いて耳内部の音響環境を自動測定します。測定方法は、イヤホンのドライバーにより聴覚で感知できない帯域のテストトーンを出して、マイクにより反響音を解析。装着状態に合わせてイコライザーを自動調整して主に低域の量感を調整します。
調整が完了すると音のバランスは固定され、周囲の環境騒音に影響を受けることなく一定のサウンドが楽しめるようになります。次回にイヤホンを着脱すると、また同様の手順で解析を行います。
イヤホンとスマホによるワイヤレス接続の安定性を高めるため、Ear (1)ではイヤホンを装着した時に耳の皮膚によって信号がブロックされる箇所に配置していた「アンテナの位置」を、Ear (stick)で改善しています。アンテナユニットは本体スティック部分の外側に向けて配置し、利得を高めました。
イヤホンのバッテリーライフも十分なスタミナを確保しています。音楽リスニングは最大7時間を実現(従来機は5.7時間)。ハンズフリー通話の場合は最大3時間です。充電ケースを合わせると最大29時間の再生が可能で、最大12時間通話できます。ケースは10分の高速充電により9時間再生分のバッテリーが確保されます。
イヤホン本体の側面にはリモコン(プレスコントロール)を内蔵しています。イワンジェリディス氏は「ユーザーからのフィードバックを得て、イヤホンからスマホなど再生機器の音量コントロールができることが大事と考えた」ことを強調しています。
イヤホンのスティック状の部分には静電容量方式のタッチリモコンが内蔵されていて、指で押し込むように触れると「パキッ」という音をたてて反応を返します。リモコンの長押しが音量アップダウンになります。
イワンジェリディス氏は「Ear (1)のタッチコントロールはかなり敏感だったので、誤操作を招くことがありました。Stickでは操作性を改善したので、ぜひ試してほしい」と呼びかけました。なお、リモコンのキーアサインは、アプリなどを使ってユーザーが変更することもできます。
ハンズフリー通話についても常時クリアな音声通話ができるように、Clear Voice Technologyに対応します。片側3基のマイクとノイズ除去アルゴリズムにより、通話音声を強調。風切り音や雑音を除去して明瞭な通話音声を相手に届けます。
Phone (1)以外の端末でEar (stick)を使う場合、アプリは独自開発の「Nothing X」を使います。iOS/Android対応です。Phone (1)の場合はすべての機能をスマホのBluetoothオーディオ機器設定からすばやくアクセスできるようになります。イヤホンの設定には着脱検知による再生・一時停止、Find My機能によるリモート探索などがあります。
アプリのEQ(イコライザー)はチャートをみながら直感的にパーソナライゼーションが行えますが、イワンジェリディス氏は「Ear (1)のユーザーからプリセットEQが欲しいという声が多く寄せられたことから、EQにも複数種類のプリセットを設けた」といいます。
Ear (stick)の素のままのサウンドがどのように聞こえるのか、本機を試せる機会が楽しみです。EQの効果にも要注目ですね。
Nothingのカール・ペイ氏が語る、日本市場への思い
Nothingが開催した新製品説明会にはCEOのCarl Pei(カール・ペイ)氏も登場。記者からの質問にも答えながら、Ear (stick)のコンセプトを語りました。
ペイ氏は先に日本市場にも投入したPhone (1)の手応えについて触れながら、次のようにコメントしています。
「Ear (1)に続いてPhone (1)を発売した時に、私は皆さまに向けて“Appleのエコシステムに代わるものを作りたい”と伝えてきました。日本にも投入したPhone (1)がとても好評を得ていることから、私は早くも目標を達成できそうな手応えを感じています」
Phone (1)は世界中で、特に若いデジタルデバイスやガジェットのファンから関心を集めていると言います。NothingではPhone (1)の発売後も、ユーザーからのフィードバックを常時端末に反映してきた、とペイ氏は強調しました。
「Phone (1)のソフトウェアアップデートは4度のメジャーアップデートを行い、機能改善・修正、追加の新機能を行いました。特にカメラとバッテリーの改善には注力しています」
ユーザーのフィードバックは特に「デザインが気に入った」という声や「ブランドの勢いに魅力を感じた」というコメントが多く寄せられているそうです。
Nothingは英国・ロンドンのソーホー地区に、まもなくブランドのコンセプトショップをオープンします。同じくロンドン市街にはEar (stick)のティザー広告も掲載。英国で活躍するデザイナーとコラボレーションしながら先進性をアピールします。
Ear (stick)に盛り込んだ「ふたつのこだわり」
Ear (stick)にはワイヤレスイヤホンとしてふたつの「こだわり」がある、とペイ氏は話しています。
Ear (stick)はiPhoneや、他社のAndroidスマホにも広く対応するワイヤレスイヤホンですが、特にPhone (1)との間には時間をかけてシームレスな接続性を確保したそうです。
そしてもうひとつはサウンドのチューニング。空気の通り道となる孔を設けたオープン型のハウジングデザインながら、音もれや低音再生のロスを最小限に抑えられるように、イワンジェリディス氏が説明した「Bass Lock」を搭載しています。ペイ氏は「Ear (1)とEar (stick)のコンセプトやサウンドの違いを楽しんでほしい」と呼びかけます。
ワイヤレスイヤホンのカテゴリーには、既に老舗のオーディオメーカーや大手ITメーカーが参入しています。先行するライバルとの関係性について、ペイ氏は「Nothingは他社製品をベンチマークとしていない」と言い切ります。
「他社と同じことをしても勝てる見込みはありません。それならば、Nothingはまったく異なるアプローチを採るべきと考えています。何より大事なことはまず型にとらわれず、Nothingが作りたい製品を企画・設計して、自分たちが十分満足ができるものを商品としてローンチすることです」
なみいる強敵の中、NothingがEar (1)とEar (stick)の2枚看板により突破口を開き成功をたぐり寄せられるのか、注目しましょう。