資生堂は、「資生堂イノベーションカンファレンス 2022 ~知と体験の融合~」を10月20日に開催した。

発表会では、化粧品領域の研究をさらに深化させた「Skin Beauty Innovation」、循環型社会を作っていく「Sustainabilitty Inovation」、新たな領域への挑戦となる「Future Beauty Innovation」の3つの柱でイノベーションを加速させていくと発表。研究者たちが登壇し、新たな知見や技術が紹介された。

  • 「資生堂イノベーションカンファレンス 2022 ~知と体験の融合~」が開催された

科学的に「たるみ」の原因を解明

老化とともに皮膚が垂れ下がっていく「たるみ」。若い頃は皮膚が重力に抵抗して保たれていたが、年を取るにつれてその仕組みが失われていく。その仕組みがなぜ失われてしまうのか、メカニズムや原因は解明されていなかったという。

  • 江連智暢フェロー

国際化粧品技術者連盟(IFSCC)本大会に4大会連続で最優秀賞を受賞し、世界の化粧品研究開発をトップランナーと呼ばれる江連智暢フェローが登壇し、抗重力サイエンスの最新知見を発表した。

資生堂では皮膚の動きを四次元で捉える「4Dデジタルスキン」を開発。皮膚の動きや重力に抵抗するシステムの解明を行った。4Dデジタルスキンのシステムを使い、皮膚に均等な力を与えて変形する動きを解析。その結果、皮膚の変形は均一でなく、抵抗する場所が存在していたという。

  • 変形するほど力を加えたとき、青い部分に抵抗が見られた

その場所は「立毛筋」があったとのこと。これは毛に付着した平滑筋で寒さや感情的な刺激で鳥肌が立つ際に使われる筋肉だという。「立毛筋」は若い人に多く、高齢者には少ないことから、この筋肉が抗重力システムとして皮膚の変形に抵抗していると考えられるそうだ。

  • 顔面の立毛筋は高密度で配列している

さらに「立毛筋」は、顔面の皮膚に高密度で存在。さらに重力と反対向きに皮膚をロックするように並んでいることが判明したという。この一連の立毛筋群が生み出す変形に抵抗する力の総和が、肌の重力に抵抗する仕組みであると考えられ、これを「ダイナミックベルト」を呼ぶことにしたそう。

  • 立毛筋の加齢変化。高齢になると数が減っていることが分かる

加齢に伴い立毛筋は減少し、動きも悪くなる。よって「ダイナミックベルト」が失われ、皮膚が重力へ抵抗することが難しくなることでたるみが生まれると考えられる。この知見は今後の商品の開発にも活かされていくという。

たるみにアプローチする「ダイナミックベルト ストレッチ」方法

  • 皮膚の抗重力システム「ダイナミックベルト

失われていく立毛筋を刺激するためにさまざまな研究を行ったところ、「ダイナミックベルト ストレッチ」を行うことで、立毛筋にアプローチができるそう。立毛筋にの流れに沿って、肌の表面を引き上げる、伸ばしてキープする、フェイスラインを伸ばしてキープをするストレッチを1日2回、それぞれ3分行う。実際にこのストレッチを6週間行ったところ、目元や瞼のたるみや口元のたるみに効果が見られたという。

  • 「ダイナミックベルト ストレッチ」の手順

時間の積み重ねでたるみが生まれていくように、このストレッチも毎日行うことで効果が期待できると考えられる。たるみは年を重ねると逃れられない現象だが、今後効果的な対策が生まれることに期待できそうだ。

新時代のビューティーケアにつながる新たな知見

さらに発表会では、コラーゲン研究から皮膚老化に関する新たな知見も発表した。

  • みらい開発研究所の堀場聡研究員

皮膚内で生じる慢性炎症が老化を促進する「インフラマエイジング」の発生に、炎症を起こし外敵と戦うM1マクロファージ、炎症を抑えたり細胞外マトリクス産生を促すM2マクロファージのバランスの崩れが関与しているそう。このバランスの崩れがコラーゲンの産生・分解・除去などのコラーゲンの代謝に影響していることが解明されてきたが、さらに表皮由来の「IL-34」因子がM1/M2マクロファージのバランスに影響を与え合ていることを発見したという。

これらの研究結果はさまざまな肌悩みとの関連への研究へとつなげていくとのこと。

世界初! サステナブルな「LiquiForm」を化粧品に採用

また、サステナブルな社会へ向け、ボトルの製造と化粧水などの中身の充填をワンステップで実現する「LiquiForm」を世界で初めて化粧品へ採用する。「LiquiForm」は、AMCOR社が中心となって開発した技術で、この技術を実用化した吉野工業所と資生堂が共同で化粧品容器を開発したという。

  • みらい開発研究所の遠山麻依研究員

「LiquiForm」を活用することで、容器単体のプラスチック使用量を約70%削減可能に。さらに原材料調達から生産、使用、廃棄のサプライチェーン全体で、資生堂の標準的な従来のつけかえ容器(同容量)に対しても約70%のCO2排出量を削減するそうだ。

「LiquiForm」を使って製造したインナーボトルはつけかえて使い、いわゆる中身部分になるので、外側になる本体に取り付けて使用する。

  • 手で押すとコンパクトにまとめられる

実際に「LiquiForm」を触ってみたところ、柔らかいけれど少し力を入れれば手で簡単につぶせるほどの硬さで、押すとポコポコとした触感だった。型に合わせて形成しながら中身を詰めるため、さまざまなデザインに応用でき、化粧品が持つ世界観や高級感に合わせたプレミアムな容器デザインの実現も可能になるそうだ。

今回発表された新たな知見は、研究や商品へ活かされていく。資生堂が生み出すビューティーイノベーションの今後に注目だ。