西山朋佳白玲へ里見香奈女流五冠が挑戦する第2期ヒューリック杯白玲戦七番勝負(主催:ヒューリック株式会社)の第7局が10月21日(金)に東京・将棋会館で行われました。結果は96手で里見女流五冠が勝ち、七番勝負の対戦成績を4勝3敗として白玲を奪取しました。

互いに譲らず迎えた七番勝負の最終局。振り駒の結果、西山白玲の先手で本シリーズ7度目の相振り飛車となります。同じく西山白玲が先手番だった第6局と同様の出だしとなりますが、18手目の△4四銀で前例から離れました。この△4四銀は角交換を拒否する一着ですが、数手後に△5三銀と戻ったのも驚きの順と言えます。先手の飛角の位置が微妙に変わっているため、次に△7七角成▲同桂△8八角という狙いが生じています。

西山白玲は▲6六歩と角交換を拒否した後、7筋と9筋を絡めて仕掛けます。対して40手目△7五歩の局面。これは飛車取りになっているので▲7八飛と引いたのは自然な一着ですが、ここでは▲9一香成△7六歩▲8一成香と決戦を挑む順もありました。先手には次に▲6五歩△同銀▲5三桂と両取りを狙う順があります。

実戦は9筋で香の取り合いになりそうでしたが、先手に香を取られる前に打った△8五香が果敢な一着です。以下▲9四歩△8六香▲同歩となれば角香交換で後手の駒得ですが、先手から次に▲2四香と打たれると、後手は大駒を取り返されそうな形で、大駒を持ち合えば玉が堅い先手に分がありそうです。

西山白玲は香打ちに対して角を逃げました。以下△8七香成▲7九飛の進行は先手の大駒が押さえ込まれそうです。ここでの形勢は何とも言えませんが、控室では「西山さんらしくない手順ですね」という声も上がっていました。強気の攻めで知られるのが西山白玲の将棋ですが、この数手はそこから反しているようにも見えます。

直後の▲3九玉が、流れを里見女流五冠に傾けたとも言える悔やまれる一着でした。玉を戦場から遠ざけた一着ですが、先手陣は右辺が壁のため、安全度はそれほど高くなっていません。△6六銀からの銀交換、そして△8八角成と馬を作り、さらには△5五馬と天王山に引き付けて、里見女流五冠の優位がはっきりしました。この間、大駒の息苦しさが解消されていないのも先手にはつらいところです。▲3九玉では▲7五飛と飛車を働かせたいところでした。

以下の里見女流五冠は着実にリードを広げていきます。72手目に△9九飛と飛車を打ち下ろして、自身の優勢を意識したそうです。先手は壁銀がたたっており、受けようにも手が延びる形ではありません。

里見女流五冠がフルセットの激闘を制して第2期の白玲位に就きました。3年ぶりの女流六冠復帰、通算50期目の女流タイトル、現行制度では史上初の女流棋戦8大タイトル全てを獲得と、記録づくめの勝利となりました。

ですが2人の戦いはまだまだ続きます。10月28日(金)には女流王将戦の第3局が控えており、これは勝者が女流王将を獲得する大きな一戦です。そして両者によるタイトル戦は倉敷藤花戦も間もなく始まります。今年度の両者による対局は白玲戦第7局が19局目となりますが、現時点で23局までは行われることが確定しています。これは00年度の谷川浩司名人―羽生善治九段戦、05年度の羽生九段―佐藤康光九段戦と並ぶ、年度同一カードの最多記録であり、さらに里見―西山戦については25局まで増える可能性があります。女流棋界のライバル対決からますます目が離せません。

相崎修司(将棋情報局)

フルセットを制し、大記録を樹立した里見女流五冠(提供:日本将棋連盟)
フルセットを制し、大記録を樹立した里見女流五冠(提供:日本将棋連盟)