アドビは「コンテンツ認証イニシアティブ(CAI)」に、カメラメーカーのニコンが参加したことを明らかにした。
10月18日、19日に米ロサンゼルスで開催されたアドビのクリエイター向けイベント「Adobe MAX 2022」のCAIのブースには、写真の来歴を記録ができる機能を搭載したミラーレスカメラ「Nikon Z9」も参考出展された。
CAIはディープフェイク対策などを目的に、アドビが中心となって2019年に設立。現在は800を超える企業・団体が参加する。
2021年にはマイクロソフトらが起ち上げた「Project Origin」とともに、標準仕様を策定するCoalition for Content Provenance and Authenticity(C2PA)を発足。来歴追跡のための技術仕様を公開するなどしている。
今回公開された「Nikon Z9」も、この仕様に対応する機能を搭載。現地を訪れていたニコンの担当者に詳しい話を聞くことができた。
著作権者の情報をメタデータとして記録、改ざん対策も
通常、デジタルカメラで写真を撮影すると、画像データと一緒に機種名や撮影時の設定、位置情報などを収録したExifと呼ばれるメタデータが記録される。
ニコン 映像事業部 UX企画部 参事の井上雅彦氏によれば、今回参考出展された「Nikon Z9」では、このメタデータに撮影者の名前など著作権者の情報を記録することが可能。それらの情報は、公開鍵を使って暗号化をし、1つのパッケージにして保存しているという。
対応するソフトやWebサイトでは、暗号を解除して著作権者の情報が確認できる。もし第三者がデータを改ざんしても、対応のツールで行えばその記録が残り、そうでないツールで行えば来歴データが記録されないため、出自の怪しい写真だとわかるしくみだ。
会場ではニコン 映像事業部 開発統括部 ソフトウエア開発部 第一開発課 末長亮太氏が、実際に「Nikon Z9」で取材に参加した日本人記者を撮影。そのデータをC2PA対応の機能(ベータ版)が搭載されたPhotoshopで加工し、CAIの確認サイトで、来歴を確認する様子を見ることができた。
ニコンがカメラメーカーとして最初に手を挙げた理由
ニコンが他メーカーに先駆けて取り組むのは、ディープフェイクが同社の顧客であるメディアやプロカメラマンに被害をもたらしている現状があるからだ。
「クリエイターにとって、フェイクは文字通り被害でしかない。それを一緒に防止していくのは社会的にも有意義なことだと考えて、今回カメラメーカーとして初めて、CAIとC2PAの両方に加盟しました」と井上氏。
CAIはアドビが主導するため、「撮影だけでなく、その後の編集についても同じように記録できる。2つが一緒になることでお客様とって本当に効果的なフローになると考えています」とも話す。
今回の実装はあくまでもテスト用に行われたものだが、製品化に向けては課題もある。
「暗号化のプロセスは複雑で、どうしてもその分だけ処理が増えてしまう。その処理に対して、連写など、どこまでの性能をハードウェアに持たせるかというところは今後の課題」と末長氏。
必要となるパフォーマンスを考えれば、まずは一眼レフカメラなどのハイエンドモデルから実装ということになりそうだ。
井上氏は「今後少しずつトライアルしながら、お客様により使いやすいものにブラッシュアップしていきたい」と話していた。