公益社団法人日本歯科医師会はこのほど、全国の15歳〜79歳の男女1万人を対象に、「歯科医療に関する一般生活者意識調査」を実施した。
同調査は、同会の広報活動の趣旨である「歯科医療に対する国民の認知度・理解度向上」および「歯科医師や診療に対する評価・イメージの向上」のため、現状の歯科医療を取り巻く環境や生活者の意識を把握し、今後の広報展開に役立てることを目的として、2005年からほぼ隔年に実施している。9回目となる今回は、2022年8月26日から8月28日まで行われた。
全国の15歳〜79歳の男女1万人に、体の健康と歯や口の健康に対する意識について聞いた。「健康を維持するうえで、歯や口の健康は欠かせない」については、「そう思う」(46.4%)、「ややそう思う」(44.2%)と回答した人が合わせて90%に届いている。
また、「健康のためにできるだけ自分の歯を残したい」と考えている人も、9割(91.7%、「そう思う」53.7%+「ややそう思う」38.0%の合計)を超えている。実際に、「歯や口の健康を大切にしている」についても、約8割が「そう思う」(「そう思う」29.4%+「ややそう思う」49.5%)と回答している。
これらの項目について年代別でみると、年齢が上昇するほど割合は高くなるが、10代・20代でも「そう思う」人が8割あるいは9割近くを占め、年代・性別を問わず、全身の健康を維持するうえで、歯や口の健康に対する意識は大変高くなっている。
「健康を維持するうえで、歯や口の健康は欠かせない」と思っている人に、歯と口の健康と全身の健康に関する事柄について聞いたところ、最も知られていた事柄(「20本以上自分の歯を保っていれば健康長寿につながること」)であっても、その認知は45.8%と半数以下にとどまった。
「口の中の細菌は循環器、呼吸器、消化器などに慢性炎症を起こす危険性がある」(34.3%)や「歯周病を放置するとウイルス感染しやすくなる可能性がある」(33.0%)ことを知っている人は3人に1人程度。「よく噛むことが認知症の予防につながる」(28.3%)や「歯の本数が多い人ほど認知症になるリスクが少ない」(25.9%)ことを知っていた人は3割以下となっている。
健康維持のために歯や口の健康が欠かせないとわかっていても、具体的な事柄に関する知識や理解は乏しいことが明らかになった。
また、「毎日のセルフケアとともに、歯科医療機関で定期チェックを受けることが歯の疾患予防に重要なこと」を知っている人も3人に1人(32.2%)に過ぎず、実際に、「定期チェックを受けている」人は47.4%で半数以下となっている。
半数以上(52.6%)が、歯科医療機関での定期チェックを受けておらず、健康への意識はあるものの行動が伴っていない実態が明らかになった。
今回の調査対象者1万人の、現在の歯の治療状況を聞いたところ14.1%が「現在治療中」、32.8%が「定期チェックを受けている」、6.4%が「治療を受けていたが、現在は中断している(現在中断中)」などと回答している。
前回調査(2020年)と比較すると、「定期チェックを受けている」に大きな変化はみられないが 、「現在治療中」が10.6%から14.1%に増加し、「現在、治療も定期チェックも受けていない」が40.5%から35.9%に減少している。新型コロナ感染拡大による受診控えに解消の兆しが見えつつある。
2022年8月時点で、歯科受診・定期チェックを受けることに対して、7.9%が「不安に感じている」、19.8%が「やや不安に感じている」と答え、合わせて27.7%が不安を感じている。2020年7月時点では不安に感じている人の割合は58.1%だったので、不安に感じる人の割合は、2020年の半分以下になっている。
治療状況別では、「現在中断中」で48.8%が不安に感じている。なお、かかりつけ歯科医がいる人のうち不安に感じている人は26.2%で、かかりつけ歯科医がいない人に比べ約10ポイントも低くなっている。
不安に感じている人にその理由を聞いたところ、2020年の調査結果と同様に、「口を開く必要があり、感染リスクがあると思う」と答えた人が最も多くみられた。
一方、不安に感じていない人の理由は「かかりつけ歯科医を信頼しているから」が最も多く、前回の44.5%から約9ポイント上昇。「かかりつけ歯科医」がいることが歯科受診への不安緩和につながっている。
この1年を振り返って、歯や口の問題(痛くなる、はれる、詰めものがとれる、ものがはさまる等)で、仕事や家事など日常生活に支障を来した経験を尋ねたところ、2.8%が「よくある」、14.7%が「たまにある」と答え、合わせて2割近く(17.5%)、約5人に1人が日常生活に支障を来した経験があった。
そこで、「歯の健診や治療をしておけばよかったと思うか」と聞いたところ、この1年に歯や口の問題で日常生活に支障を来した人の83.2%が、「もっと早くから歯の健診や治療をしておけばよかった」と後悔している。日頃から、定期チェックを受けておくことが大切だということがわかる結果だ。
歯科医療機関で、定期チェックを受けている人と受けていない人で、噛むことなどに対する意識の違いを確認すると、定期チェックを受けている人の方が、「硬い物でも問題なく食べることができる」「左右バランスよく、きちんと噛んで食べることができる」人が多くなっている。
また、「口臭」を気にしている人は、定期チェックを受けている人の方が少なくなっている。当然ながら定期チェックを受けている人の方が歯や口の健康が保たれている。それだけでなく、「自分の健康状態に満足している」や「質の良い睡眠がとれている」「毎日の生活が充実している」と思う人の割合も多く、食べることだけでなく、生活の質そのものが高くなっている。
今回の調査対象者に、昨年(2021年)度の、健康診断・人間ドックや職場や自治体が実施する歯科健診の受診状況を尋ねたところ、20〜70代(9,420人)で、健康診断・人間ドックを「受診した」と回答したのは50.8%だった。
一方、職場や自治体が実施する歯科健診について、「受診した」と回答した人13.4%(20〜70代)。健康診断・人間ドックを受診した人の3分の1以下にとどまっている。
丈夫な歯を維持することによって心身機能の低下や病気の誘発を防ぐことを目指し、全ての国民を対象として、歯科健診の充実に向けた検討が今後本格化する予定となっている。
そこで、歯科健診が充実することに対しての印象を聞いた。「良いと思う」が34.3%、「まあ良いと思う」が48.0%となり、合わせて、82.3%が「良いと思う」と肯定的な意見を持っていた。年代別では、30代が最も低くなっているが、それでも、77.6%(良いと思う+まあ良いと思う)が肯定的であり、年代・性別を問わず、肯定的に受け止められているようだ。
今後、歯科健診の充実に向けて、歯科健診受診意向が高まると思う方策について聞いたところ、「無料であれば」(52.6%)が最も多く、以下、「どこの歯科医療機関でも受診できれば」(35.0%)、「職場や学校などで受診できれば」(29.8%)などの意見が上位を占めた。費用負担が少なく、アクセスしやすいことが歯科健診の受診拡大につながりそうだ。