シャープの掃除機「RACTIVE Air」シリーズは2016年に初代モデルが発売され、当初は軽さをうたったコードレススティッククリーナーとして登場。重厚でも吸引力の高さをアピールした掃除機が全盛だった当時、真っ向から対抗して軽いことによる使いやすさや機動力で勝負をかけた印象でした。
当時のトレンドとは逆行していましたが、本体自体の軽さはもとより、機能的な面でも受け入れられました。具体的には、着脱式のバッテリーは充電場所の自由度が高く交換も容易、コンセントの場所にとらわれず本体を片付けておける、ハンディ掃除機としても使い勝手が良い――といった点です。
それから毎年のように進化を続け、パワー(吸引力)対する不満にも「RACTIVE」(ラク+ACTIVE」の個性ブレないレベルで応え、掃除機の新しいスタイルに挑戦してたシリーズです。現在、軽さ重視の「RACTIVE Air」と、軽さとパワーのバランスを重視した「RACTIVE Air POWER」を展開しています。
そんなRACTIVE Airシリーズの2022年フラッグシップ新モデルは、2022年9月発売の「RACTIVE Air POWER EC-SR8」(以下、SR8)。基本的なスペックは、本体サイズが22.1×26.7×103cm、標準の重さが1.7kgと、軽量さをウリにしている昨今のスティッククリーナーとしては標準的。集じん容量は0.3Lです。バッテリーの運転時間(スティック時)は、強が約15分、自動が約35分、標準が約45分と、こちらも標準的。従来モデルと同じように、運転可能な残り時間を本体の操作部に表示してくれます。
本体のデザインは、これまでのRactive Airからするとシンプル&ミニマルの印象です。とくに個性的ではありませんが、ありがちな無骨さもなく、控えめで優しいデザイン。インテリアや空間とも調和しやすく、個人的には好みです。
掃除機の不快な動作音成分をカットして、実感音を約35%低減
そのSR8は、またもや新しい着眼点「動作音の低減」に先んじて挑んだ粋な製品。掃除機といえば「うるさい」ことを誰もが仕方なく受け入れていますが、SR8はそこに目を付けました。少しでも静音化するために、まずはモーター部にメス。円錐状のカバーでモーターを覆った「ファンネルサイレンサー」を搭載しました。カバーによってモーター音を遮音し、さらにカバー内に吸収材を配置して、モーターの振動音が外へ出ていかないようにしています。
掃除機の音には、ゴミを吸うときの排気音もあります。これに対しては、モーター部から出る風の流れをファンネル形状のカバーで集約した上で、格子状のパーツを通して風の乱れを整えてから吸音材へと流す構造を採用。吸った空気をしっかり外に出して吸引力を維持しながら、動作音を抑えています。
動作音の音質も変えました。従来モデルのEC-SR7は動作音に含まれる音の成分として、人が不快に感じやすい800Hz~1KHzの甲高い音が突出していたのに対し、SR8ではこの音成分を大きく削減。この「ノイズリダクション設計」と呼ぶ新たな構造によって、実感する動作音を従来モデル比で約36%も減らしています。
SR8の動作音は製品発表会で体験していたものの、実際に自宅で使ってみると改めて実感。これまでの掃除機とは比較にならないほど静かに感じ、自動モードなら掃除しながら会話が聞き取れるレベル。強モードでも一般的な掃除機の音よりかなり静かで、「これで本当に吸えてる?」と心配になるくらい。試しに標準モードでシュレッダー屑を吸ってみたところ、ヘッドを往復しなくてもしっかり吸ってくれました。
工夫はヘッドブラシにも。SR8では、ヘッド部分のおもな振動源に防振材を配置しています(ダンピングコントロール)。ブラシやモーターの振動、床と吸い込み口の振動など、ヘッド部分から出る動作音も減らしました。
とくに、集合住宅や、帰宅時間が遅く夜に掃除機をかけることが多い家庭にとっては、吸引力を保ちながら音を気にせず掃除できるのはなかなか魅力的ではないでしょうか(動作音が静かとはいっても、夜の使用には住環境によって限界もありますが)。
壁ぎわに強い「端までブラシ」
ヘッドブラシについては、もうひとつの改良も大きなポイントです。新しい「端までブラシ」は、本体を手に持ってヘッドを上から見たとき、右側の端までブラシを配置。壁際のゴミをしっかりと掻き込めるようになっています。
試用中、別の掃除機で取り残したと思われる部屋の隅にあったゴミを、SR8は一往復で取り除けました。感激!
ただこの仕組みは、SR8を使うとき自分の右側だけに有効です。ヘッドの進行方向を変えれば解消しますが、左側もサッと掃除できるに越したことはないし、掃除機を左手で持つ人には恩恵がありません。構造的に難しいのは承知のうえで、いずれはヘッドの左右両側に対応してくれることを期待します。
少し気になったのはヘッドの自走性。ヘッドが変わったせいか、床との密着度が高なった印象があって、動きのスムーズさは若干損なわれたように感じました。動作音を抑えるためと、端までブラシの採用によるトレードオフかもしれません。とはいえ使い始めだけ少し重く感じる程度なので、慣れれば問題ないでしょう。これも後継機で改善されるとうれしいポイントとして挙げておきます。
ハンディにしやすい!
SR8は、パイプを外すとハンディクリーナーとしても使える2Way仕様。従来モデルからの仕組みとして、ヘッドを足で押さえた状態でパイプ部分から上部を引き抜くように外せます。また、ヘッドのジョイント部分が自立するため、かがまずに立ったままで取り付けが可能でした。
新モデルのSR8ではこの構造がさらに進化し、自立する部分がパイプ部分まで拡大。パイプ部分から下を外してハンディ掃除機として使うときも、かがまずに着脱できます。地味な改良ではありますが、スティックとハンディの切り替えをスムーズにする便利な改良ポイントです。
ヘッドブラシ以外の付属アタッチメントは5点。このうち「ハンディノズル」は、本体のノズルへ常に取り付けておけます。「スグトルブラシ」も延長パイプの先に常設できるため、自立する構造と合わせて掃除の動線がとても良くなりました。「すき間ノズル」は本体(パイプ部分)に取り付け可能です。
高いところの掃除に便利な「はたきノズル」と、ふとんやソファ用の「コンパクトふとん掃除ヘッド」は、本体やスタンドにセットしておくことはできません。これらはデイリーのお掃除では出番が限られているため、別の場所に保管してもさほど不便には感じないでしょう。
SR8は、性能、機能、使い勝手、デザイン性のどれをとっても上質。加えて「音が静か」という魅力を持っており、総合的にハイレベルな製品です。ただし、推定市場価格が99,000円前後と、なかなかのお値段。最近はさまざまな世界情勢のもとで家電製品全般が値上がりしているため、仕方ない面もあるでしょう。掃除機に10万円というのはコスパがよいとまでは言えませんが、SR8は満足度に関しては間違いなく、できるだけ音が静かな掃除機が欲しいという人はぜひチェックしてみてください。