近頃、ビジネスパーソンの間では「やりたいこと」を見つけて邁進している人や、SNSなどで自分の経験や才能を活かして活躍する人が増えている。「やりたいことをやって熱中しているのがクール」という価値観が浸透し、学び直しを始めたり、キャリアの転換をしようとしている人も多いだろう。

一方で、いろいろなことに挑戦しているにもかかわらず「やりたいこと」がどんどんわからなくなっていたり、やりたいことを見つけられない自分に引け目を感じている人もいる。

このように「やりたいこと探し」が終わらない人の中には、刺激を求めるのに傷つきやすい、没頭しやすいのに長続きしない、というような、"相反する性格特性"を持つ「かくれ繊細さん(HSS型HSP)」がいるという。

『かくれ繊細さんの「やりたいこと」の見つけ方』(あさ出版)の著者である心理カウンセラーの時田ひさ子氏は、「かくれ繊細さんは独特の感性を持ち合わせているため、一般的なやり方がマッチしないことが多々ある」と言う。

今回は、時田ひさ子氏の講座やカウンセリングを経て「やりたいこと」を見つけた人たちの例に触れながら、かくれ繊細さんが「やりたいこと」に気づくヒントを紹介してもらった。

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■「やりたいこと」はもっと自由な設定でいい

「かくれ繊細さん」とは、HSP(生まれつき感受性が強く敏感な気質を持った人)の中でも、共感能力が高く繊細で傷つきやすい側面(HSP)を、外向性、社交性、積極性、好奇心旺盛さという別の側面(HSS:High Sensation Seeking)によって表面化しないようカバーしている人たちです。

かくれ繊細さんは、「普通」や「標準」に合わせようとしすぎる性質があるがゆえに、自分が本当に感じた「これ、やりたい」を蔑ろにしてしまう傾向があります。

また、まわりと比べることによって、知らず知らずのうちに、「やりたいことに関する制限」を作ってしまっていることがあります。いつの間にかできた、やりたいことについての「ルール」が、もしかしたらあなたの「やりたいこと」を縛っているかもしれません

■「やりたいこと」は人に評価されなくてもいい

人に評価されることを前提に「やりたいこと」を始めると、評価されなかったときに、「やりたいことではなかったのかもしれない」と揺らぐことがあります。

ですから、人から評価されてもされなくても、まずは自分が「やりたいかどうか」で始めましょう。

もちろん、脳裏で「誰かに褒められたい」「すごいって言われたい」「認めてもらいたい」と思うのはまったく悪いことではありません。当然の感情です。うまくできたら褒めてもらいたい、という気持ちになったからといって、「承認欲求はあさましいこと」と否定する必要はありません(かくれ繊細さんには、自分の浅ましさ、おこがましさを、自分でたしなめる傾向が強くあります)。

誰かに認めてもらえれば単純にうれしいですし、褒められたらやる気になるので、承認欲求を持つことになんの躊躇もいらないのです。

時には、承認欲求を満たすことだけを追求することも必要です。どんどん褒められて、調子に乗って、立ち位置を盤石にすることは、生きやすさを促進してくれます。

だから、区別しましょう。承認欲求を満たすためにやっているのか、それとも人にどう言われてもかまわない、自分が満たされ、うれしくなるためにやっているのかを。

自覚的に区別できていれば、承認欲求を満たしても満たされなくても、どちらでも納得して進むことができます。

「昇進したい」「尊重されたい」と思っていたWさん

Wさんは、今の会社で同じレイヤー(役職)の人たちにバカにされないよう、自信をつけたい、という目的でセッションとワークに取り組み始めました。

「強くなりたい、弱気な自分を克服したい」というのが彼女の目的でしたが、数カ月後、彼女は「強く見せようとしているけど、自分は本当は弱気な人間であることを心から理解し受け入れた」のでした。それによって、彼女が強い人だと証明する、力を見せつける必要があったその会社にいる意味がなくなりました。

彼女が本当に求めていたのは、「昇進」「尊重」「認めてもらうこと」ではなく、顧客や仕事仲間と、和気あいあいと働く時間だったのです。

その発見があったことで、彼女は新進気鋭の会社の課長職から降り、和気あいあいと働けるサービス業に転職することにたのです。

このように、自分を理解し受け入れることで、「やりたいこと」が見つかることもあります。

■「やりたいこと」は得意なことじゃなくてもいい

かくれ繊細さんは幼少期からの勘の良さで、やりたくなくても才能を発揮し、まわりの大人から見たら「才能のある子」として見られることもあります。

ところが、本人にとっては、才能はあるけれどそれは力を発揮したい分野ではない場合もあります。実際、カウンセリングでも、このような事例に遭遇します。

得意なことが「やりたいこと」ではなかったSさん

バイオリンが得意なSさんは、ご両親やまわりからもバイオリンの才能を称賛され続け、努力を続けて実力をつけていたそうです。将来は演奏家になることを期待されていました。

ところが、彼女は高校時代にバイオリンをやめてしまったのです。何度も躊躇した挙句に、親に「やめたい」と言えたそうですが、そのとき言われた言葉は「裏切者」でした。「あなたのためにこれほど力を注いだのに」と。まわりの人たちからは、「せっかくの才能を垂れ流す罰当たりな子」のように貶められ、お金と時間と労力のムダ遣いとののしられ、親子関係が一気に悪化して、家族と会えなくなってしまったといいます。

これは子どもの才能に大人が過剰に入れ込み、本人がほかの分野に目を向けられなくなる事例です。ここからは、「才能は特別なもので、一部の恵まれた人にしか持たされない」という一般常識的な前提があることがわかります。

「もったいない」「宝の持ち腐れ」「ぜいたくな悩み」「もっとやれそうなのに、どうしてやらないの?」と不思議がられても、彼女の中で日に日に大きくなってきていた「これが本当に自分がやりたいこと? これをずっと続けていくの?」という違和感を、その才能に魅了されている大人にうまく伝えることができなかったのです。誰にも相談できない中、味方だった人たちから手のひらを返したように批判されるのはつらい体験ですね。

得意なことだからといって、やらなければならないわけではありません。

逆に、得意ではないことをやりたかったらやっていい。試してみていいのです。「得意じゃないかもしれないけれど、やってみたかったから」と言えばいいのです。

■無意識に「やりたいこと」を封じる言葉を使っていることも

本当にやりたいことを見つけ出すのは、自分を根本から見つめ直すことでもあります。 今、なんとなく「やりたい」と思っていることは、「社会がそれをすごいと評価しているから」「評価されやすいから」「親が喜ぶから」「みんながやっているから」のように、他者の目線で決められていることが往々にしてあります。

当然、他者目線で「良い」ということをやろうとしても、思ったように力は発揮できません。自分自身がやりたいと思っていることではないからです。

今、なんとなく、「やりたい」と思っていることがいくつかあるのであれば、どのような言い方で表現しているかを一度確認してみてください。

たとえば、「やっておいたほうがいいよね」や「やるべき」「やらなくちゃ」のような、自分に対する使役の言葉を使っている場合は、自分が本当にやりたいことではない可能性が高いです。

あなたは「やりたいことを自分で決めたかったのに、決めさせてもらえなかった」という不満を持ったことがありませんか。

あるいは、「やりたいことに反対されて、やらせてもらえなかった。あのとき、やりたいと強く言い続けていればよかった」という後悔があるかもしれません。

「やりたいことに思い切り没頭し、満足のいく生き方をしたい」という強い気持ちを持っているかくれ繊細さんだからこそ、これまでに思った以上の結果が残せなくて悔しい思いをしたり、やりたいことに没頭できずに自分にがっかりしたり、自信を失っていると思います。

でも、あきらめる必要はありません! かくれ繊細さんは、元来努力家で、研究熱心です。 特性と自分の本音を理解し、自覚して受け入れることができれば、本当にやりたいことを見出すことができるはずです。

【著者プロフィール】
時田ひさ子(ときた・ひさこ)
HSS型HSP専門心理カウンセラー。
HSP/HSS LABO代表。早稲田大学文学部心理学専修卒業。
繊細で凹みやすいと同時に好奇心旺盛なHSS型HSPへのカウンセリングをのべ1万5000時間実施。講座受講生からのメール、LINEのやりとりは月100時間以上。
かくれ繊細さんのオンラインコミュニティ主催。
臨床心理学、認知行動療法をはじめ、フォーカシング、退行催眠、民間の手法まで、あらゆる心の扱い方について習得する。
著書に『その生きづらさ、「かくれ繊細さん」かもしれません』(フォレスト出版)がある。