渡辺明名人への挑戦権を争う第81期順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、10月20日(木)にB級1組7回戦の一斉対局が行われました。今回は▲羽生善治九段(2勝3敗)―△屋敷伸之九段(1勝5敗)戦を紹介します。
10代でタイトルを獲り、以降も長く第一線で戦ってきた両者の33度目の対戦。これまでは羽生九段が25勝7敗と圧倒していますが、直近の対戦では屋敷九段が3連勝しています。本局は相掛かりに進みました。
3筋の歩を取り、2枚の歩を持ち駒にした羽生九段は1筋の端攻めに出ます。▲1四歩・△1二歩の形にしてから、今度は左辺でお互いの銀をぶつけにいきました。対して後手は7筋の桂頭攻めに出ます。先手はぶつかった銀を取り、さらに6三へ成銀を作ったのに対し、後手は△7七歩成で桂を奪ってから▲同金に△8八角の両取りをかけ、△9九角成と香を取りつつ馬を作ります。銀と桂香の交換という駒割をどう見るか。また敵陣にある攻め駒はお互い1枚ずつですが、先手の成銀のほうが後手玉に近そうです。この辺り、形勢はやや先手持ちでしょうか。
羽生九段は▲3四歩~▲2四歩と、6三の成銀と合わせての挟撃を目指します。対して屋敷九段は取った香を6二へ打ち、目障りな成銀の除去を図りました。70手目△3四金の局面で羽生九段は▲2三銀と金取りに打ちます。実はここが勝負の分岐点でした。
屋敷九段は△6三香と成銀を外します。対して羽生九段は当然▲3四銀不成と金を取りますが、次の△3六桂が好手でした。ここで先手が▲4三銀成としても詰めろにならず、後手からは△6六歩や△6二飛など、いろいろな順で先手玉に詰めろを掛けることが出来ます。実戦は桂打ちに対して▲3七銀と受けましたが、△6七香成が継続手。▲同玉に△6六歩と打たれると、先手玉の行き場所がほとんどありません。例えば▲5六玉や▲5八玉はいずれも△6七銀と追ってから△8六飛と金を取る手が詰めろで必殺となります。実戦は▲7六玉とかわしましたが、△8九馬がやはり詰めろ。▲6八歩の受けに△3四馬と急所の銀を抜いて、後手玉はいっぺんに安全となりました。対して先手玉は不安定極まりなく、ここでは屋敷九段の勝勢になっています。戻って、▲2三銀では▲6五飛ならば難解だったようです。
以下も羽生九段は手段を尽くして頑張りますが、屋敷九段が的確に応じてリードを守り、最後は先手玉を受けなしに追い込み、勝利しました。B級1組は7回戦を終えて、中村太地七段が5勝1敗でトップ、以下5勝2敗の佐々木勇気七段、4勝2敗の久保利明九段と澤田真吾七段が続いています。
相崎修司(将棋情報局)