「対策なければ『資産』は3世代でなくなる!」と警笛を鳴らすのは、ファイナンシャル・プランナーとして、5000名以上のクライアントに運用指南を行ってきた杉原隆さん。

相続税、贈与税の仕組みとともに、「計画的な資産移転の対策」について、杉原氏がわかりやすく解説します。

■「相続税」という負担

あなたが一所懸命働いてやっと築いた「資産」も、一定額を超えていれば、残された家族は「相続税」という負担を負うことになります。

しかも、残された家族の「相続税」は、1回目(一次相続)よりも2回目(二次相続)の方が大きな負担になることが多く、納税資金を銀行から借入れて払うということは珍しいことではありません。

子どもから孫の代に相続するときにも同様のことを繰り返し、目減りしていく資産…何の対策もとらなければ、親の資産は、孫の代でなくなってしまうと言われています。加えて、相続税を支払う方たちも、子どもの教育資金や住宅ローン、定年前後で自身の生活資金も心配です。

できるなら相続税は払いたくない、というのが本音ではないでしょうか。納税資金という「お財布」だけでなく、兄弟姉妹の「争族という心の負担」も負わなければなりません。ご家族が骨肉の争いにならぬよう、事前の対策を一緒に考えていきましょう。

■国が残す「優しい制度」

給与明細を見るたびに「こんなに税金や社会保険料が引かれている」、また、60歳からの年金がいつの間にか65歳になっていて、今後は70歳からになるかも知れない。そんなことを耳にする機会も増えてきました。

でも、安心してください。年金、医療、介護という社会保険料が上がり、所得税の最高税率が55%で高止まりし、我々国民には生きづらいことばかりのようですが、少し見方を変えるだけで、「優しい制度」を残してくれていることに気付くはずです。

たとえば「相続税」。3000万円の基礎控除と、法定相続人1人あたり600万円の控除があります。配偶者とお子さま二人の4人家族の場合は4800万円(3000万円+600万円×3人)の相続資産までは、相続税が発生しません。

また、皆さんよくご存知の「生前贈与」も年間110万円までは非課税です(暦年贈与)。110万円を超えた部分は累進課税で、贈与税率は10%から最高55%となります。

さらに、「相続時精算課税」というもうひとつの「生前贈与」制度では2500万円まで非課税です。贈与したお金の使い途が住宅建設費用や、宅地購入であれば1000万円増額となり、3500万円までが非課税となります。

この「相続時精算課税」は他に大きな2つのメリットがあります。

暦年贈与の最大税率は55%でしたが、相続時精算課税では、非課税枠を超えた部分の贈与に対して「一律20%」、金額の上限はありません。たとえば5500万円を贈与した場合の贈与税は(5500-2500)×20%=600万円 となります。 

極端な話ですが10億円を贈与した場合でも、(10億円-2500万円)×20%=1億9500万円の贈与税となります。もし、暦年贈与であれば約半分の5億円程度の贈与税となるでしょう。

留意点がありますのでお伝えします。

1.「相続時精算課税」を選択した場合(選択届出書を、初めて贈与のあった年の翌年2月1日から3月15日までに税務署へ提出)、その後「暦年贈与」での贈与は行えません。

2.「歴年贈与」の110万円の非課税枠は「毎年」ですが、「相続時精算制度」の2500万円の非課税枠は「生涯」です。すなわち、今年300万円、2年後に1000万円という贈与方法も可能です。

3.「暦年贈与」の金額は受取る側の総額(たとえば、ある年に父から長男へ80万円、母から長男へ50万円、総額130万円の贈与を受けた長男は非課税枠を超えた20万円の10%=2万円の納税が発生します)です。
一方、「相続時精算課税」の金額は渡す側の総額(たとえば、ある年に父から長男へ2000万円、母から長男へ1000万円、総額3000万円の贈与を受けた長男は、父からの2500万円の非課税枠内、母からの2500万円の非課税枠内なので、納税は発生しません)です。

4.「相続時精算課税」はお孫さんへの贈与にも使えますが、贈与者が他界時に精算して相続税を納付する際に、相続税が2割加算となります。

これだけでも、やるとやらぬは雲泥の差になりますが、「生命保険」を融合すれば、それは正に「資産寿命・三世代延伸術」となります。 現在、日本国民の約8割が生命保険に加入していますが、生命保険のメリットには大きく3つあります。

ひとつは「万一の保障ができる」、ふたつめは「所得税・住民税を軽減できる」、そして、ここで強調したいのは、3つめの「相続対策ができる」ということです。

現金で渡したり(贈与)、残したり(相続)する以上にレバレッジが効き、払う保険料よりも死亡保険金の方が大きくなるのが常です。しかも不動産のように価値が上下するようなことはなく、死亡保障には最低保障があるので「計画的な資産移転」が可能です。

「ある時期」になったらお手持ちの資産内容を三世代で(少なくとも親と子の二世代では)開示し、一族の笑顔が続くよう「計画的な資産移転の対策」が必要です。

ご自身の資産、もしくは親から受け継いできた資産を、今度はお子さまやお孫さんへつないでほしいと思います。

文/杉原隆