具体的には、理学および光遺伝学により神経活動の抑制が行われ、M2とM1の課題への関与に対する調査が行われたところ、M2もM1も課題遂行に必要だが、運動を開始した後ではM1へと運動実行機能は移行しており、2領野が階層的に情報処理を担っている可能性が示唆されたとする。

また、M2とM1の相互作用の状況を調べるため、独自開発した「超視野2光子顕微鏡」によるカルシウムイメージングにより、両領域の浅層部の活動が調べられたところ、内発性・外発性という開始信号の差異に応答する神経活動の存在が確認されたという。

  • 今回の研究でマウスにおいて開発された課題

    内発性および外発性運動と、今回の研究でマウスにおいて開発された課題 (出所:東大プレスリリースPDF)

さらに、領野間の伝達情報を詳しく調べるために、周辺の関連領域も含めてM2への入力からM1の出力までの網羅的な計測が実施され、機械学習を用いたデコーディング解析によって、各構造が集団レベルで持つ、運動開始が内発性か外発性かという情報を、「文脈依存性」として定量化が行われた。その結果、M2浅層部は常に高い文脈依存性を、M1皮質脊髄路細胞は常に低い文脈依存性をそれぞれ示したとする。それに対し、M2からM1へと投射する軸索や、M1浅層部の細胞の文脈依存性は実験日間や動物間で大きくばらつくことが判明したともする。

  • 課題を行っているマウスの2領野イメージング

    (上)課題を行っているマウスの2領野イメージング。(下)M2とM1の入出力構造のイメージングとデコーディング解析の結果 (出所:東大プレスリリースPDF)

加えて、そのばらつきについて詳細な解析が実施されたところ、両構造における文脈依存性が高くなるほど、成功率や音への反応時間といった課題成績が良くなっていたことが判明したほか、M1浅層部の文脈依存性が高くなるほど、レバーを引く速度や時間、レバー軌道の再現性など運動の巧緻性が向上していたとする。個々の細胞レベルで見た場合、運動巧緻性が高い時には、M1浅層部では高い文脈情報と高い運動情報の両方を持つ細胞が増加していたとのことで、集団レベルでの高い文脈依存性と運動巧緻性の連動した増加が生じていたことが考えられるという。

一方で、このような活動の再編成がM1浅層部で起きていた際にも、同時に計測を行っていたM2浅層部の細胞では、集団レベルや個々の細胞レベルでも情報表現に大きな差異は生じておらず、その下流で、各文脈に特化して運動指令を生成する細胞群が再編成されることで、高い運動機能が実現したと考えられるとしている。

  • 今回の研究のまとめ

    今回の研究のまとめ (出所:東大プレスリリースPDF)

今回の研究成果は、大脳皮質の適応力の高い情報処理能力を示すもので、ほかの脳領野においても一般的に見られる現象の可能性があると研究チームでは説明しており、今後、さらなる研究が進むことで、脳を模倣した高性能な人工知能アルゴリズムの開発に寄与する可能性があるとするほか、内発性・外発性運動のメカニズムを解明することは、パーキンソン病の理解にも重要であり、新たな治療方法への発展も期待されるとしている。