パナソニックの創業は1918年(松下電気器具製作所)、配線器具の製造から始まった会社です。今でも国内はもちろん、世界の配線器具市場において大きなシェアを確保しています。
そんなパナソニックの配線生産を担うのが、三重県にあるパナソニックの津工場です。津工場にはパナソニックの配線製品に関連したショールームがあるのですが、このショールームが2022年4月にリニューアルし、「TRUST FACTORY TSU」として生まれ変わりました(基本的には企業の顧客向けで一般公開はしていません)。ここでは、TRUST FACTORY TSUに展示されている昔懐かしい配線から最新の配線事情まで紹介します。津工場内の配線生産も取材しました。
「コンセント」がない時代から最新タッチレススイッチまで
津工場で生産している「配線」とは、電気のスイッチやコンセントのこと。パナソニックが配線事業に参入した大正時代の前半は、一般家庭ではようやく電灯が普及したばかりでした。この時代はそもそも「コンセント」という概念がありません。
家庭に引き込まれている電気は電灯用だけなので、電気アイロンなどの電化製品を利用するときは、電灯用のソケットから電気を供給する必要がありました。つまり、家電を使うには電球を外さないといけない構造だったのです。
そこで当時のパナソニックが開発したのは、ひとつのソケットから2系統の電源を取れる「2灯用クラスタ」という製品。ひとつの電気傘に二股ソケットを配置した構造となっていて、片方を電灯、もう片方で電化製品の電源を供給できるという画期的な大ヒット商品となりました。
昭和初期(1945年以降)になると、電化製品が続々と出現して第1次家電ブームがやってきました。この時代は複数の家電を利用する家庭も増え、壁面スイッチやコンセントなどの配線が登場します。ちなみに、「三種の神器」(白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫)という言葉が生まれたのは1950年代の後半です。
昭和中期(1965年以降)は高度成長で戸建て住宅が次々と着工。それとともに家庭の電源容量がアップし、第2次家電ブームが到来します。このあたりから、スイッチやコンセントの配線が埋め込み式に変わります。スイッチもインテリアデザインの一部として認識され、デザイン性の高い製品も出てきます。
この時代から、配線の見た目だけではなく、施工性もアップしています。それまではドライバーを使って電線をネジで接続する方式でしたが、電線を差し込むだけで結線できる「連結端子(フル端子)」が登場します。
連結端子はドライバーなどの道具なしで施工できる手軽さがあるほか、解除レバーを引くだけで電線を引き抜けるメリットもあります。現在も主流となっている連結方式です。
昭和後半から平成になると「ユニバーサルデザイン」が叫ばれるようになり、スイッチもタッチしやすいように大型化。さらに、スイッチの左右(シーソー式)でオンオフを切り替えていたものが、「押す」というひとつの動作でオンオフできるようになりました。
イマドキの進化形スイッチも
ここまでは配線の歴史を振り返りましたが、TRUST FACTORY TSUにはもちろん最新スイッチも展示されています。
たとえば「ワイド21:あけたらタイマ」は、普段は照明スイッチとして機能しますが、外出時はタイマー式の照明として自動点灯・消灯が可能。防犯のために外出時は照明を点灯したいけれど、つけっぱなしだと電気代がもったいない……というニーズに応えます。
TRUST FACTORY TSUでは、コロナ禍によってニーズが高まっている非接触型のスイッチが目立っていました。たとえば「アドバンスシリーズ 非接触スイッチ」は、手をかざすだけでスイッチのオンオフ可能。加えて、検知距離を~約5cmの「短」と、~約10cmの「長」の2段階で切り替えられます。
ほかにも、スイッチに人感センサーを搭載した「コスモシリーズワイド21 かってにスイッチ」や、ちょっと変わった非接触式スイッチとして子機がセパレートした「コスモシリーズワイド21 ここでもセンサ」という製品もありました。
後者はスイッチと子機がセットになった製品で、子機(熱線センサ発信器)が人を感知すると、スイッチを制御して電源をオンするというもの。子機は電池式で設置場所の自由度が高いため、玄関の靴箱の上に置くと「帰宅後ドアを開けると自動的に照明点灯」といった使い方ができます。さらに、ショールームには1cmの指の動きもセンシングして照明を点灯するシステムなど、さまざまな非接触型の製品が展示されていました。
機能に加えて注目したいのが、スイッチのデザイン。スイッチといえば白い樹脂製のものが一般的ですが、パナソニックはインテリアに合わせてさまざまなデザインのスイッチを投入しています。
高級感のあるマットブラック素材や、金属素材のスイッチもラインナップ。さらに、わざとスイッチ部を小さくしたり、ネジが見えるようにデザインしたりと、レトロ感と高級感のバランスが絶妙なクラシックシリーズなど、部屋の雰囲気に合わせたスイッチが選べます。
多彩な配線を生み出しながら品質を確保
今回さまざまなスイッチを紹介しましたが、パナソニックの配線製品はとにかく機能もデザインも多種多様。なんと、配線器具だけで取り扱い製品は1万品番ほどあるといいます。これだけの製品をスピーディーに開発・管理し、さらに品質を担保しできる理由として、パナソニックは「五設一体思想」と「一貫内製化」を挙げます。
五設一体思想とは、(1)マーケットニーズ設計、(2)商品設計、(3)工法設計、(4)設備・金型設計、(5)行程・管理設計という5つの部門が開発初期段階から連携して、商品開発にあたる仕組み。これにより、品質の向上と開発期間の短縮が可能になります。
また「良い部品は良い金型から、良い商品は良い部品から」を掲げ、金型から部品生産、組み立てまでを一貫して内製化。この一貫内製化は技術や技能を蓄積した人材の確保にもつながり、高品質なものづくりを追求できるそうです。
これだけ多く製品を間違いなく作り出すため、生産工程のほとんどを徹底的に自動化しているのも津工場の特徴。
人の手を通さないことで生産量を向上できるほか、ヒューマンエラーを減らすというメリットもあります。組み立て工程ごとに機械で自動化された品質チェックを行うことで、不良パーツ混入による品質低下も予防しています。
スイッチやコンセントといった配線器具は、あまりにも日常に溶け込みすぎて注目されることが少ない分野です。しかし、生活をしていたら毎日頻繁に利用するツールであり、さらに「電気を通す」という構造上、不良によっては命や財産に大きく関わる製品でもあります。
パナソニックの津工場では、人材育成、生産の自動化、工程ごとの機械による検査など、さまざまなアプローチによって各所と全体のレベルを高め、高品質を維持しています。「メイドインジャパン」の信頼の理由を垣間見た工場見学でした。