駒の動かし方と基本的な戦法は分かったけど、ネット対局などで人と対戦するとなかなか勝てない‥‥なんとことありませんか? この記事では、マイナビ出版刊行の将棋に関する書籍より、対局に活かせる戦法や考え方に関する内容を抜粋して、お伝えします。
「どう指したら良いか、方針がわからない」中盤や終盤でそんな局面になり、明確なビジョンのないままに1手を指したばかりに形勢を損ねてしまった、あるいは負けてしまった。こんな悔しい思いは誰しもが経験していることでしょう。そんな局面で役に立つスキルのひとつが、「こうなったらいいな」とか「○手後にこうなっていたい!」という局面、いわば「理想図」を頭の中に思い描けるスキルです。
「理想図を思い描くといっても、それができないから困っているわけで・・・」
はい。筆者も痛いほどわかります。
しかし今は、理想像がおぼろげながらに、いや、それほど難解な局面でなければ割とクリアにイメージできるようになりました。そうなった理由は後述いたしますが、ここでは「3つのアプローチ」から脳内に理想図を組み立てるヒントを紹介しましょう。
アプローチその1 局面から組み立てる
まずは、一番シンプルに、目の前にある局面をもとに理想図を思い描くアプローチをご覧いただきます。
第1図。先手が振り飛車から▲4五銀と「玉頭銀」に出た手に対し、居飛車の後手が△3五歩と歩を逃げた局面です。皆様は、ここからどんな理想図をイメージするでしょうか。
まず思いつくのは、後手の玉頭が空いているので、将来的に▲3四香と打てればいいな、ということ(理想図1)。もちろん、今は香を持っていません。ですが、盤面の隅っこ、9一にある香を取って、▲3四香と打てればいいな。
次は遠大な構想ですが、3四に銀を出る、プラス、6八飛を浮き飛車に構え、さらに2六飛と回れれば(理想図2)、相手は受けが難しいだろうな、ということ。こうなって2筋を破れればいいな。
このように、第1図から2つの理想図を導き出すことができるでしょうか。
そして、理想図を描くことができたら、それを実現させるためにどういう指し手を選ぶか。どういう手順で理想図にたどり着くか。これもまた、難しい・・・
この局面においての、「理想図」に向かう手順は後ほど記すことといたしまして、ここでは2つめのアプローチの紹介を急ぎます。
アプローチその2 言語から組み立てる
次なるアプローチは「言語」。具体的には、「この局面はこうで、こうで、こうだから・・・」と言葉に変換して指し手を絞り込み、理想図に持ち込む方法です。
第2図をご覧ください。
駒の損得は角桂交換で先手の駒損、ただし飛は一方的に成りこんでいて、逆に相手の飛の働きはいまひとつな上に、不安定でこちらの目標にできそうですので、あきらめずに勝ちを狙いたいところです。
この局面、先手の心配点はふたつ。ひとつめは、△2七歩(心配な手の図)と打たれると、一気に寄り形にされてしまう点。対して▲同玉は△2九銀が厳しい追撃。7五の角もよく利いています。
ふたつめは、相手の銀冠が手付かずで、現状の持ち駒(桂3歩5)では、ぱっと見では手がつけられなさそうな点。
・・・と、「問題点」を、具体的に言葉にしてみると、指すべき手が見えてくるのではないでしょうか。
正解は▲2七桂(第3図)。
受けては△2七歩を防ぎ、攻めては▲3五桂打△同歩▲同桂などを見て、一気に視界が開けました。
問題点や、自分の有利な点を具体的に言葉に変えてみると、難解な局面を打破することができるかもしれません。ぜひ試してみてください。
その他、「言葉」と言えば、将棋には数多くの「格言」があります。
「両取り逃げるべからず」
「玉は下段に落とせ」
などなど。局面局面で思い出し、実践するのも勝率アップにつながるでしょう。
アプローチその3 設定から組み立てる
最後に紹介するのは「設定」から組み立てる方法。少し難しいですが、局面がどういう状態なのか、自陣の駒組みは? 相手の攻め筋は? 終盤で勝つために絶対指さなくてはいけない手を間に合わせるには? など局面の設定、条件を見極めて、理想図に向かう方法です。
第4図は、居飛車穴熊対四間飛車で、先手の立ち遅れを好機と見た後手が△5五歩と仕掛けた局面。
穴熊は未完成の上、3六歩型で飛車のこびんが開き、先手は不安がいっぱいです。実際、▲5五同歩は△同角で飛にあたりますし、いまさらながらの▲8八銀では△5六歩と取り込まれ、▲同銀(▲同金も)は△5五歩で駒損が確定してしまいます。
第4図までに至る手順で▲1六歩に代えて▲8八銀と指していれば事情も違っていたでしょうが、現局面がこうならばそうは言っていられません。ですので、ここはあえて7九銀・6九金型という局面の「設定」を活かした組み立てを考えてみましょう。
第4図からの指し手 ▲3七桂 △9五歩 ▲同 歩 △5六歩 ▲同 銀 △9七歩 ▲同 香 △8五桂 ▲9八飛 (第5図)
第一歩は▲3七桂。これで△5六歩▲同銀△5五歩には▲4五銀と歩を取りながら出られるようになります。対して、後手は8八銀が入っていない穴熊の最弱点を狙い、端の突き捨てから一歩を手にし、香頭を叩いて△8五桂と跳ねる常とう手段で攻めてきますが、ここで局面の「設定」を生かした一手がありました。
▲9八飛。左側の金銀が初形のままだからこそ現実した飛車回り。以下、△7七桂成なら▲同桂とすれば、後手が歩切のため次の▲9四歩が厳しく、まだまだ難しいながらも先手が自陣の駒配置を利用して勝負形に持ち込んだと言えるでしょう。
「3つのアプローチ」、「16のテクニック」で難局面を打破
ここまでに紹介した手順、図面は、すべて10月24日に発売された『盤上のシナリオ ~理想の手順を組み立てる読みの技術~』から引用しました。(書籍紹介ページはこちら)
筆者は奨励会三段まで進み、退会後に上梓した『現代将棋を読み解く7つの理論』(2020年、マイナビ出版)で第33回将棋ペンクラブ・技術部門大賞受賞を受賞した他、自身のブログやnoteでも独自の視点による戦術解説を公開しているあらきっぺ氏。本書では、「3つのアプローチ」、「16のテクニック」を用いて、難解な現局面から優勢、勝利へと導く読みの技術を説いています。
あらきっぺ氏の説く「3つのアプローチ」、「16のテクニック」は、以下の通り。
そして、「16のテクニック」は、下図のように互いに入り組むように関係性を持っているそうです。
「ちょっと何言ってるかわからない」
そう言うなかれ!
そう、言うなかれ。
正直に申し上げますと、筆者は本書を初読し終えた際、「これは高段者向けの書籍かな」と思いました。
しかし、3回、4回と読み返すうち、決して高段者のみを対象にした書籍ではないことがわかりました。
論より証拠、一番最初に紹介しました、「局面からのアプローチ」の、実際の紙面は以下の通りです。
なるほど。
3四に香を打ちたければ、まずは9一の香を狙って「すずめ刺し」のような形を作るべし、ということですね。最終図は、香または桂(※▲3四桂も厳しい!)の入手が確実で、振り飛車が「理想図」に近づいていることがわかります。
この局面は、3つのアプローチから「局面からのアプローチ」で「理想図」を描き、「16のテクニック」の選択は、「香を手に入れるには?」と考えて「16のテクニック」から「逆算」を選択し、「理想図」に近づけるのがよいということですね。
そして、さらに次ページでは、相手が簡単に9一の香を先手の駒台に乗せないよう頑強に抵抗してきた際の「シナリオ」が記されています。その場合は、理想図2(再掲図)を狙うことになるのですが・・・
以下の手順にご興味のある方は、本書を手にとってお確かめください。
3つのアプローチ、16のテクニック、すべてにおいて、上の誌面のように詳細な解説がなされています。
前述の通りあらきっぺ氏は奨励会三段まで昇った超実力者で、その能力、いや脳力? は常人には計れるものではありませんが、脳内にストックされたあらきっぺ氏にしかわからないレベルの将棋スキル、ワールドを、なるべくわかりやすいようにすべて言語化し、さらにそこから、より多くの方が理解できるよう噛み砕いてくださっています。