アドビは10月19日、“クリエイターの祭典”を称する年次イベント「Adobe MAX Japan 2022」を開催。主要製品のアップデートなどを解説した。今回はオンライン配信だけでなく、東京タワー内のesportsパーク「RED゜TOKYO TOWER」でのリアルイベントを交えた形式となった。なお、オフラインでの開催は約3年ぶりだ。

  • コロナ禍を受けてオンライン開催が続いていたAdobe MAXだが、3年ぶりにリアルイベントが復活。米国と日本のリアルイベントとオンライン配信を並行して実施している

本稿では、同イベントの会場からキーノートとメインイベントの様子を一部ピックアップしてお届けしたい。

  • 米Adobe Creative Cloud担当エグゼクティブバイスプレジデント兼CPO(最高製品責任者)スコット・ベルスキー氏

イベント冒頭には、米AdobeのCreative Cloud担当エグゼクティブバイスプレジデント兼CPO(最高製品責任者)であるスコット・ベルスキー(Scatt Belsky)氏がビデオ登壇。3つのテーマとして「速さ、使いやすさ&スーパーパワー」「協力的なクリエイティビティ」「3Dと没入方体験の制作」が掲げられていること、そしてキーノートのアウトラインについてコメントした。

ベルスキー氏は、ビデオ登壇のなかで「我々のチームは、パフォーマンスの向上にも力を入れており、まだ道半ばではありますが、この一年でCreative Cloud全体のパフォーマンスと信頼性がかなり向上しています。今後もこのような開発にコミットしていきます」とも語っている。

  • アドビの常務執行役員 兼 CMOの里村明洋氏が登壇

日本向けキーノートの進行は、アドビ 常務執行役員 兼 CMOの里村明洋(さとむらあきひろ)氏が担った。里村氏は、Adobe MAXに合わせて毎年恒例で行われる作品応募コンテスト「MAX Challenge」に、例年の2倍近い応募数があったと語り、その盛況振りをアピール。最優秀作品の発表も行った。

また、アドビではレアル・マドリード公認のサッカースクール「レアル マドリード ファンデーション フットボールスクール ジャパン(レアルスクール)」とパートナーシップを組み、サッカーコミュニティに向けたクリエイティビティを推進していると公開。同日から、サッカー動画編集コンテストがスタートしたことも明かされた。

フォト・デザイン・ムービー・CGツールに数々のアップデート

  • 岩本崇氏がデザイン関連製品のアップデートを紹介

デザイン関連製品のデモンストレーションは、マーケティングマネージャーの岩本崇(いわもとたかし)氏が行った。

まず、Illustatorでは、「オブジェクトのクロスと重なり」機能によって、複数のオブジェクトの重なりを部分的かつ手軽に調整する様子を披露。また、InDesignでHIIFの配置ができるようになり、IllustratorとInDesign間の連携が行いやすくなったという。

  • Illustatorの「オブジェクトのクロスと重なり」機能のイメージ(※オンライン配信に最適化されていた事情もあり、ステージ上のスクリーンには操作画面全体が表示されず、会場前方に別途設置されたモニターで表示していた)

共有ボタンからメンバーを招待できる「レビュー用に共有」機能もアップデート。メンバーや組織を限定した共有や、リンクを作成する共有方法などを選択できる。

URLを受け取ったレビュアーは、ブラウザ上で制作物を確認・レビューでき、Illustrator側からはコメントパネルに入力された情報がすぐ反映される様子などが紹介された。なお、こうしたレビュー機能はイベントではIllustratorでデモされたが、PhotoshopやInDesignなどでも、本日から利用できるという。

  • Adobe Expressは轟啓介氏が説明

Adobe Expressのデモンストレーションは、マーケティングマネージャー轟啓介(とどろきけいすけ)氏が担当。実は、同士がイベントで着用していたTシャツも同ツールを用いて作成したものだそうだ。

デモンストレーションはInstagramに投稿する目的の投稿画像を作成する想定で進行。フォーマットを選択し、Adobe Stockと連携して使用する画像を置き換えたのちに、AIが作成中の画像に応じておすすめのフォントを表示してくれる新機能や、背景を自動認識して削除する機能などを使って見せた。なお、Adobe Expressでの制作物は、スケジュールを指定してSNSへ投稿できる機能も備える。

  • Adobe Expressの画面

今後、Adobe Expressは動画編集やコラボレーション機能、ほかのCreative Cloudツールとの連携機能が強化されていく。Adobe Senseiを活用して独自のフォントデザインやシーン背景などを自動生成できる機能なども追加。また、多くのクリエイターが活用しているホームページ制作ツール「WIX」との連携機能が利用できるようになる。

  • 岩本崇氏が再び登壇

Photoshopのデモンストレーションに関しては、再びマーケティングマネージャーの岩本崇氏が登壇。2021年にPhotoshop web版が公開されてから、同製品は1年間継続的にアップデートしてきたとし、デジタル一眼カメラなどからRAWデータをダイレクトに読み込めることや、ワンクリックでエフェクトを反映できる「クイックアクション機能」、クイック選択ツールから特定の被写体に対して部分的に編集を加える機能などを紹介した。

加えて、Photoshop web版は、デスクトップ版との連携もスムーズに行える。岩本氏は、「空を置き換え」機能などデスクトップ版ならではの機能を利用したいときにも、シームレスな作業が行えると説明。また、デスクトップ版の新機能としては、「ライブグラデーション」を活用して光を再現する様子や、強化された「オブジェクト選択ツール」でShift +Delieteのホットキー操作によって、選択したオブジェクトを簡単に削除できるようになったことを実演した。

  • Photoshopのライブグラデーション機能の使用画面

Photoshopに関しては、これ以外にも1年間で多くの進化を遂げている。デモンストレーションのなかでは、特に「ニューラルフィルター」の「深度ぼかし」「風景ミキサー」「写真を復元」などの機能をピックアップして公開した。

ちなみに、フォトグラフィー製品に関しては、3年前から取り組んできたコンテンツ認証イニシアチブ(CAI:Content Authenticity Initiative)に、ニコンがパートナーとして参画することも強調された。

ビデオ製品に関しては、マーケティングマネージャーの田中玲子(たなかれいこ)氏がデモンストレーションを担当。モーショングラフィックテンプレートを使用した動画編集では、テンプレートのなかにさらに動画を挿入し、操作する様子を実演。続いて、マーカーを作成し、依頼主にレビューを共有する手順も披露。「アクティブシーケンス」を選択することで、都度書き出しせずにアップロードできることも強調した。

デモンストレーションは、レビュー相手役としてCreative Cloud エバンジェリストの仲尾毅(なかおつよし)氏にバトンタッチ。仲尾氏は、「Frame.io」の機能を活用し、共有した動画において、作成されたタグの位置ごとに効率よく確認できるほか、フリーハンドや矢印ツール、コメント機能を使って効率よく指示を入れられることを語った。また、関連して、タブレットでも「Frame.io」アプリを使って動画をレビューする様子が披露された。

アドビが9月末に200億で買収を発表したデザイン編集ツール「Figma(フィグマ)」について、触れられる一幕もあった。具体的には、米国版のAdobe MAXキーノートでは、ベルスキー氏とFigmaの創業者であるCEOのディラン・フィールド氏がステージ上で対談し、最初の製品ロードマップとして、Adobe Fontsの連携から取り組みたいと話していたことが明かされた。

  • クリエイターからの注目が集まるFigmaの動向についての一幕。要望の多いAdobe Fontsの連携から進めることが示唆された

  • 最後は、福井直人氏がSubstanceについてデモを展開

3D関連ツールについては、3Dアーティスト&ソリューションコンサルタント福井直人氏がデモンストレーションを行った。

福井氏は、今回新たに追加された「Adobe Substance 3D Modeler」について解説。粘土を操る感覚で3Dモデリングを行えると紹介した。また、同ツールの登場によって、“Modeler”で形を作り、“Painter”でテクスチャを整え、“Stager”で配置を行うといったように、Substanceツール群において一貫した作業が行えるようになったと胸を張った。

  • Adobe Substance 3D Modelerのデスクトップモード

  • Adobe Substance 3D ModelerのVRモード

このSubstance 3D Modelerはデスクトップモードのほか、VRヘッドセットを装着するとVRモードで作業できることが特徴だ。福井氏曰く、VRモードのメリットは、操作時に効果音が再現されることなどにより、直感的に作業できることだという。

また、インスタンスをコピーしてオリジナルを変形すると、一斉に変更がインスタンスに反映される機能があり、これがVRモードだと高い没入感を伴うため扱いやすいという旨を語った。

メインステージにチームラボと篠原ともえが登壇

キーノートの直後には、「メインステージ」として第一線で活躍するクリエイターが自身のクリエイティブの源泉について語る特別セッションが催された。チームラボの堺大輔氏、工藤岳氏、そしてデザイナー・アーティストの篠原ともえ氏が登壇した。

まずは、チームラボの堺大輔氏と工藤岳氏が登壇。クリエイティブにおけるコラボレーションや、提供後のアップデートなどの重要さについて語りつつ、これまでのチャレンジや現在の取り組みについて語った。

  • チームラボ工藤岳氏「チームでやることを大事にしている集団でないと形にすることができません。それをひたすら妄信し続けています。2019年にチームラボボーダレスは上海にお台場にあった展示をさらに拡大したようなものを作ったり、と海外にも展開を広げてきました。来年には、東京の虎ノ門に新しい展示をオープンする予定です」

  • チームラボ堺大輔氏「アート以外には多くのアプリのUX・UI、ソリューションを提供してきています。例えば、りそな銀行のアプリではすでに100回くらいのアップデートをかけて、より良くすることを追求してきました。ほかにはJRのサイネージ型の自販機についても、どうすれば自販機を新しくできるかとJRさんと一緒に考えたものでした」

続いて、近年は服飾デザインでの活躍がめざましい篠原ともえ氏が登壇。同氏は、自身が描いた鉛筆画からインスピレーションを得て、服のデザインを考えていると語った。

  • デザイナー・アーティストの篠原ともえ氏。纏っている衣装も、自らデザインした作品の一つだ

「小さい頃から絵を描くことが好きで、TVに出たらどんな服が着たいのか、などをテストや宿題が終わったあとの藁半紙の裏に書いていました。手元にあったものを数えたら約3万枚ありました。夢中になるのは、紙の中にペンが埋まっていく感触。この感触を信じていました。この絵が進化して、6Bから9Hまでの鉛筆を使い分けて、線を引いて、細かいグラデーションを作りました。これをもとに布を選んで、レーザーカッターでカットし、一つひとつを縫い合わせて洋服を仕上げました。こうやってインスピレーションを得ています」(篠原氏)

また、着物からインスピレーションを得つつ、版画の技法を使ってデザインした服もあるという。紙凹版で作ったアナログのデザインをスキャンし、大判の布に印刷する過程でPhotoshopを活用していると語った。

なお、Adobe MAXに関連して提供されるアップデート・告知された機能は非常に膨大だ。本稿で取り上げたしたものは、セッション中の主なものをピックアップしたに過ぎない。

詳細な機能アプデートが気になる場合には、公式サイトでの製品ごとのリリース情報などをチェックしてみてほしい。また、Adobe MAXのセッション内容も割愛したものが少なからずある。オンラインのセッションは無料で視聴可能なので、興味があるものについては、ぜひAdobe MAXの公式サイトから日本向けの動画を見てみてほしい。