10月18日から10月21日まで、幕張メッセにてIoT展示会「CEATEC 2022」が開催されています。日立製作所ブースでは、建物やサービスごとに再生可能エネルギー由来の電力で稼働していることを可視化するシステム「Powered by RE」をはじめとした、脱炭素や環境保護に役立つ先進技術などを展示。

  • ブース内で目に留まったのは、CO2削減に貢献できるという「Carbon Offset Charger」。この正体は……?

  • Carbon Offset Charger展示ブースのようす

  • Carbon Offset Charger

ブースの中で筆者が最も気になったのは、コンセントプラグ型のデバイスで手軽に、楽しくCO2削減に貢献できるという「Carbon Offset Charger」。パッと見は「おしゃれなイヤホンケース」のように見えますが、これがどのようにCO2削減につながるのでしょうか?

個人で脱炭素に協力できる!

Carbon Offset Chargerは、家庭用コンセントに接続すると、再生由来の電力を“疑似的に”使用してスマホなどを充電するACアダプター。これにより、脱炭素に向けた再生エネルギー発電事業者への支援を、個人でできるようになります。

消費者が太陽光や風力などの再生可能エネルギーを直接購入する手段は限られており、自宅で使おうとした場合には、供給する電力事業者の調査や、契約の変更手続きなど、かなりの手間と労力がかかります。Carbon Offset Chargerは「もっと小さな電気から気軽に始められるもの」という意図で開発されました。

  • カラーや柄が異なるモデルも展示。「この製品自体が環境に悪い影響を与えると意味がないため、本体素材には再生プラスチックを使うことを考えている」とのこと(展示品には使っていない)

どうやって再生由来の電力を“疑似的に”使用するの?

「再生由来の電力を“疑似的に”使用する」システムに使われているのが、政府が法人向けに提供している「J-クレジット制度」です。

J-クレジット制度は、省エネ設備の導入や再生可能エネルギー利用によるCO2排出削減量、適切な森林管理によるCO2吸収量を「クレジット」として国が認証する制度。事業者はクレジットを企業や地方自治体などに販売でき、その利益をエコ事業の取り組みに還元できます。温室効果ガス削減に取り組む事業を促進するために作られました。

例えば、風力発電事業者が政府からの認証を得た場合、風力発電によって二酸化炭素を削減した分を、クレジットとして販売できます。企業などは、自社努力で削減できない量をクレジットとして購入することで二酸化炭素削減に協力したことになり、環境貢献企業としてのPR効果や企業評価の向上につなげられます。なお、現在の制度では、クレジットは個人では購入できず、企業や地方自治体しか購入できません。

使った電気代をクレジットに換算するACアダプター

今回参考展示されているCarbon Offset Chargerは、使った電気代がクレジットに換算され、通常の電気料金に上乗せして払うことで、電力会社との契約はそのままに、脱炭素に貢献する事業者を個人が応援できるというもの。

使用分のクレジットは再生エネルギー発電事業者に還元されるため、企業や地方自治体しか購入できなかったクレジットが、Carbon Offset Chargerによって個人と再生エネルギー発電事業者を疑似的につなげられるというシステムです。

  • Carbon Offset Chargerによって、個人と再生エネルギー発電事業者を疑似的につなげられます

CO2排出削減が「楽しくなる」工夫も

Carbon Offset Chargerには、利用を継続できるよう工夫されている点がありました。まず、本体前面の表示パネルはスイッチになっています。このパネルを押すと、「関東 ソーラー」「九州 ソーラー」といったように再生エネルギー発電事業地域が切り替わり、擬似的に使用先の地域が選べるようになっていました。これは“疑似的な”使用先の再生エネルギー発電事業地域を選べる仕組み。

スーパーで売られている“生産者の顔が見える野菜”をイメージしており、同じ代金を支払うなら「再生可能エネルギーを普及させようと頑張っている事業者から買いたい」や「自分の思い入れがある地域から買いたい」というユーザーの声を考えてのものです。将来的には、発電所の指定などの詳細な設定までできる予定。

  • スイッチ部分にクレジットの還元先を表示し、押すたびに切り替わる仕組み

さらに、開発中のスマホアプリと連携すると、自分がCarbon Offset Chargerで指定した地域の電力を使った分、アプリ内で木が成長していきます。実際にCarbon Offset Chargerをコンセントに接続してみたところ、木が若干大きくなりました。ちょっとしたことですが、これは結構嬉しいポイント。

自身がCO2削減に協力した結果が残るのは、継続するモチベーションのために重要だと思いました。「動物を育てられたり、ゲームと連携してキャラクターを育成できたりしたらさらに楽しく環境を守れるのでは」などと夢も広がります。

  • 「関東 ソーラー」を選んで、コンセントに接続すると……

  • アプリ画面上の気が成長して少し大きくなりました

  • USB充電用ではなく、家庭用コンセントの中継用のモデルも開発中。画面には「富岡風力発電」と表示されており、発電所単位での指定を想定しています

Carbon Offset Chargerの製品化は現状、残念ながら未定といいます。クレジット購入分はユーザーの負担になりますが、再生可能エネルギーの利用によるCO2排出削減に、個人的に取り組みたい人にとっては新しい選択肢の一つになりそうだと感じました。