ハードウェアに関しては、電子線ホログラフィとして世界トップクラスの性能を有する日立製「1.2MV原子分解能・ホログラフィ電子顕微鏡」を選択。そこに、新たに開発されたノイズ除去技術「ウェーブレット隠れマルコフモデル」が組み合わされ、ノイズと微弱信号の正確な分離が実現され、位相計測精度を従来よりも1桁高めるという技術目標が達成されたとする。これにより、電子顕微鏡で観察される1つ1つのナノ粒子に対してその電荷量を「電子1個の精度」で数えるという、これまで不可能だったレベルでの研究を進められるようになったという。
今回の手法を用いて、環境浄化などに広く利用される白金-酸化チタン(Pt/TiO2)系触媒の電位分布が詳細に解析された。試料外部(真空領域)の位相計測によって、電位の空間分布を明らかにするという独自の方法により、TiO2に担持されたPtナノ粒子の電荷量が、電子2個相当や6個相当など、注目するナノ粒子1つ1つに対して決めることが可能となったとする。
さらにこの解析を通して、TiO2との接合界面の素性によって、Ptナノ粒子は正にも負にも帯電し得ること、また電荷量はPtナノ粒子の結晶の歪み具合にも影響を受けることなど、触媒の研究開発にとって重要な知見を獲得することができたという。
なお、今回の研究において電子線ホログラフィを高感度化することで、地球環境問題の解決に対して重要な触媒開発を加速する強力な計測技術が実現されたことから、研究チームでは今後、今回の技術の適用による触媒開発の加速が期待されるとするのと同時に、同技術をガス環境下や高温域など、触媒が実際に利用される環境でのデータ取得につなげることで、触媒の研究開発が一段と進み、革新的な材料の創成を促すことが期待されるとしている。
また今回の技術は、今回の研究で大きな成果が獲得された電位・電場の解析にとどまらず、磁場計測にも応用展開が可能だともしており、新規な磁気メモリや永久磁石の開発などの領域へも、高感度化された電子線ホログラフィの貢献が期待されるともしている。