地球温暖化対策や省エネの話題になると、よく聞くのが「ZEB」という言葉。ZEBとは「Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」の略称で、簡単にいえば「快適な室内環境を維持しつつ、省エネと創エネによって消費エネルギーを実質的に±0」にする建築物のこと。現在、このZEB化を推進するためにさまざまな団体と施策が動いていますが、2022年9月末に大阪府とパナソニック エレクトリックワークス社(以下、パナソニックEW)が「大阪府内のZEB化推進に係る連携協定」を締結しました。
建て替えなしで省エネ化するための「可能性調査」とは?
大阪府は2021年に「大阪府地球温暖化対策実行計画」を策定しています。そのなかで重要な項目のひとつが、2030年度の府域における温室効果ガス排出量を40%削減するというもの(2013年比)。そして、温室効果ガス排出量の削減に欠かせないのが、府内にある建築物の省エネ化。つまりZEB化です。大阪府は、府が所有する施設を率先してZEB化することによって、府民や事業者のZEB化への理解を促進する考えです。
大阪府脱炭素・エネルギー政策課長の水田克史氏は、「建て替えによるZEB化は既存の建築物をZEB化するより容易」とコメントしつつも、すべての施設を建て替えるのは非現実的であり、既存建築物のZEB化改修が大きな課題だとしました。
既存施設をZEB化するには、「施設を運営しながら省エネ化へ移行できるのか?」「そもそもその施設は建て替えなしにZEB化が可能なのか?」といったノウハウが必要です。そこで今回、ZEB化のノウハウを多く持つパナソニックEWと連携することになりました。
今回の協定では、大阪府とパナソニックが協力して「ZEB化改修の可能性調査」「ZEB化手法の検討」「ZEB化の認知度向上及び理解促進」を行うとしています。注目したいのは「ZEB化改修の可能性調査」で、大阪府が設備改修を予定している既存施設の施設情報や設備機器等のリスト、3カ年のエネルギー使用量データを提供し、パナソニックがZEB化の可能性調査結果報告書を作成します。この報告書には、設備ごとの改修内容やエネルギー消費量の算出結果、改修経費概算が含まれます。
ちなみに、今回の締結でパナソニックが関わるのは「可能性調査」のみ。対象となるのが公的施設のため、実際に改修する場合は改めて入札などで設備メーカーが選定される予定です。
必ずしも「ゼロ」じゃなくてよい? 現在はどこまでのZEBに対応するか検討段階
冒頭でZEBとは「快適な室内環境を維持しつつ、建物の消費エネルギーを±0にする」と述べましたが、いくら省エネ性能を高めても消費エネルギーをゼロにするのは不可能。完全なZEBには太陽光発電のような、エネルギーを創生する「創エネ」がセットになっており、創りだしたエネルギーよりも消費エネルギーが少なければゼロ・エネルギーであると定義されます。
ただし、大阪府の所有建築物を改修するたびに発電設備を組み入れようとすると、莫大なコストが発生します。そこで重要となるのが完全「じゃない」ZEBの定義です。
ZEBには、導入を容易にするために複数の段階が設けられています。日本では建築物省エネ法においてビルごとに「エネルギー消費量の基準値」が設定されているのですが、基準値からの削減率、および創エネ(再生可能エネルギー)率によって、「ZEB Oriented」「ZEB Ready」「Nearly ZEB」というレベルが設けられています。
大阪府は、今回の協定では可能性調査が始まることのみ決定しており、どのレベルのZEBを選ぶかは未定としています。
ZEBを達成するには●%以上の省エネといった数値が必要になりますが、これは実際にその建築物で消費したエネルギーから換算するものではありません。建築物には「省エネ対象設備」とよばれる設備群(空調機や照明、給湯設備など)があり、これらの設備スペックから計算して「ZEBである」と判断します。パナソニックEWは、照明や空調設備機器をはじめとした省エネ対象機器を多く取り扱っており、さらに創電・蓄電技術を保有することから、大型施設の災害時のレジリエンス性能にも強みを持っています。
今回、大阪府との協定を締結したパナソニックEWですが、これによって可能性調査の手法や設計、施工、補助金の申請、ZEB性能の維持といった対応のノウハウを強化。2027年までに、近畿地区において100件の既存建築物ZEB化可能性調査を行うことを目標としています。この取り組みがうまくいけば、日本全国にある既存施設のZEB化がスピードアップするかもしれません。