小栗旬主演の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)で、心優しき鎌倉殿こと鎌倉幕府3代将軍・源実朝役を好演している柿澤勇人。大河ドラマは『平清盛』(12)、『軍師官兵衛』(14)に続いて3度目の出演となった柿澤に、役作りや撮影裏話、小栗の座長ぶりについて語ってもらった。
鎌倉幕府において、御家人同士の主導権争いから、北条一族による骨肉の争いへともつれこんだ第38回(10月2日放送)。謀反人となった北条時政(坂東彌十郎)の失脚により、ついに北条義時(小栗旬)が2代執権となった。実朝は、亡き兄・源頼家の次男である公暁(寛一郎)を猶子とするが、やがて歴史を揺るがす悲劇が巻き起こる。
本作の脚本を手掛ける三谷幸喜氏は、史実に大胆な解釈を入れ込みつつ、その行間を非常にエモーショナルに描き出している。舞台俳優としても名を馳せる柿澤は、三谷氏の舞台『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』で主演を務めていることもあり、ただならぬ情熱を持って実朝役にアプローチしたようだ。
柿澤はオファーされた当初を振り返り、「僕は、実朝という人物をそんなに深くは知らなかったんです」と言いつつ、「三谷さんが実朝に対してかなり思い入れがあり、『新しい実朝像、本当の実朝みたいなものを描きたい』とおっしゃっていたので、すごくプレッシャーを感じました。それで、時代考証をされている坂井孝一先生の本や、実朝に関して最新の研究がされている本のほか、和歌集なども読み込みました」と前準備を万端にして現場に挑んだ。
実朝といえば『金槐和歌集』や『新勅撰和歌集』などで歌人としても知られていて、劇中でも和歌を詠むシーンが登場する。
「僕は、和歌に関して本当に無知だったので、関連本を読んだり、芸能指導の先生に何が正しいのかを教わりました。実朝は、庭先の梅を見て『僕がいなくなっても忘れないでね』と詠むなど、何気ない日常の風景やもの、人から発想を得て、自分の感情や世相をくくりつけるのが非常にうまかったそうです」
実朝自身の人となりについても「実朝は派手じゃないんです。地味で素朴というか、ピュアな人」と捉えた。
「頼朝や頼家と同じ血を引いているなんて思えないぐらい純朴な人だったのかなと。もちろん僕は実朝の和歌を全部網羅したわけではないのですが、そういう性格的なところと和歌は、すごくリンクしていると思いました」
さらに柿澤は「当時、鎌倉で力を持った人たちは、自分たちの家や土地を守ろうとしたり、大きくしようとしたりと、自分のところさえ良ければいいという考え方をしていたから、互いにいがみあっていたと思います。それは、人間として当然のことかもしれないけど、実朝はそこも踏まえつつ、後鳥羽上皇がいる京側と手を組むことにより、もっと世の中が豊かになると考えたのかなと思います」と、実朝の視野の広さについて語る。
「源氏のことや自分のこともあるけど、そこを差し引いて、もっと先のことを考えていた。史実で言えば、宋行きの船を作ろうとしますが、それは決して気まぐれではなかったと思います。最新の研究では、日宋貿易など、当時は誰も考えていなかったことをやろうとしていたとされています。鎌倉のこと、日本のことをちゃんと俯瞰し、自分の立ち位置や力の無さも謙虚に受け止めたからこそ、周りの力をちゃんと借りていこうと考えていた気がします」
また、鎌倉幕府の実権を握った義時との関係性については「立場的には鎌倉殿のほうが上ですが、義時のほうが遥かに年上ですし、自分が鎌倉殿になった時点ではまだ無力で政を回していくことなんてできないことも分かっています。だから時政が鎌倉を離れたあとは、母の政子や義時が実権を握るのも仕方がなかったんです」と冷静に受け止めている。
「でも、やがてパワーバランスというか、義時のやっていることと、自分が思い描いていた政とが乖離していき、乱が起きたり、人が死んだりすることは史実にあるとおりです。だから最初は信用していた義時のことを、かなり危ない存在だと意識していくことになると思います」とも言い、「ただし、実朝はそこを力でねじふせたり、復讐を考えたりする人間ではないし、むしろ鎌倉から日本という国を豊かにしていこうと思う賢い人間になっていきます。彼自身も憎しみや悔しさなど、ネガティブな要素は抱えつつも、これ以上争いはしたくないし、犠牲にもなりたくないと考えていたのではないか」と述懐する。