観測の結果、従来と同様に1Hz以下の電磁波の発生により孤立陽子オーロラが発生し、その直上を通過するISSやPOES衛星により放射線帯電子が、そしてTIMED衛星によりその直下の中間圏オゾンの明らかな減少が検出された。特に、同オーロラの発生に伴って、1.5時間後には、その直下の中間圏のみ10~60%ものオゾンが減少していることが判明したという。同オーロラの空間サイズは、南北方向に400km程度であり、ピンポイントで穴が開いたかのように、オゾンが急激に減少する様子が示されることととなった。
また、観測結果に対し、放射線帯電子のどのエネルギー帯が中間圏オゾン破壊に直接影響するかについての理論計算が行われたところ、エネルギーが2MeV以上の超相対論的電子の影響が強く示唆されたとする。しかし、放射線帯電子を観測したPOES衛星やISSのMAXI/RBM装置にエネルギー決定性能がないため、今回の観測では詳細なエネルギー帯は確認できていないことから、オゾン層破壊に直接影響する放射線帯電子のエネルギー範囲の解明は、今後の課題としている。
さらに今回の研究により、オゾンなどの微小大気組成が、地球周辺の宇宙空間から大気中に降下する放射線帯電子によって迅速かつ局所的に影響を受けることが判明したともする。これは、地球大気環境変動の予測に、放射線帯電子の影響が無視できないことを強く示唆する結果であり、電磁波、オーロラ観測による放射線帯電子が「いつ・どこで」地球に降り注いだかを検出する技術がますます重要になると研究チームでは説明する。
加えて今回の観測手法では、衛星によるオーロラ観測より、放射線帯電子の位置が特定されたが、衛星が通過しない領域の様子は不明だともしている。電磁波は、上空の電子密度に依存して周波数ごとに異なる減衰、反射を伴うことから今後は、広い周波数帯の電磁波を地上から観測することで、時間帯・場所に限らず、放射線帯電子の降下位置を特定できる地上リモートセンシング技術の開発が求められると研究チームではしているほか、1Hz以下の電磁波によりプラズマが揺さぶられ孤立陽子オーロラが生じる現象は、地球に限らず木星でも生じることが明らかになっていることから、電磁波・オーロラの発生によるほかの惑星大気への影響についても、今回の成果はその物理的性質の理解の向上に貢献することが期待されるとしている