トヨタ自動車の新型「クラウン」はいろいろな意味で型破りなクルマだ。SUVを含む4つのボディタイプで登場するところもクラウンの歴史を考えると破格だし、第1弾として登場した「クロスオーバー」のスタイルもいい意味でクラウンらしくない。このクルマが誕生した経緯や開発の意図を作り手たちに聞いた。
なぜクラウンは大変身を遂げたのか
16代目となる新型クラウンは「クロスオーバー」「スポーツ」「セダン」「エステート」の4タイプで登場する。最初に発売となるクロスオーバーは歴代クラウンとは全く異なるスタイルで、実物を見るとかなりカッコいいのだが、乗れば不思議と「やっぱりクラウンだ」といった感じの安心感がある。いろいろと気になるところのあるクルマだったので、試乗後にトヨタ ミッドサイズビークルカンパニー MS製品企画 ZS 主査の清水竜太郎氏と車両技術開発部 第1車両試験課 グランドエキスパート 匠の佐藤茂氏に話を聞いた。
――新しいクラウン、特に先ほど乗ったクロスオーバーのデザインは、これまでのクラウンとは全く違うイメージでカッコいいなと思いました。これが最初に登場したのは理由があるのでしょうか。
清水さん:開発の順番として、クロスオーバーから始まったのは間違いありません。16代目の開発については当初、通常の流れとして、先代クラウンをマイナーチェンジするような形でいこうとしていたのですが、社長から「君たち、本当にクラウンをあのまま作り続けるのか」という問題提起があったんです。
確かに、クラウンについては2世代くらい前から「このままでいいのか」という議論があったんですが、踏み込めてはいませんでした。エンジンや足回りをスポーティーにすることで若返りを図ってきたのですが、ユーザーの年齢層が大幅に若返ることもありませんでした。
――そこからどんな流れになったのでしょうか。
清水さん:社長の指示もあり、「次のクラウンはどんな形がいいのか」と社内で検討を始めたんですが、実はその前に、「Z世代はどんなクルマを欲しがっているのか」というコンセプトで20代の若手女性デザイナーが考えたモデルがありました。セダンとSUVの両方の良さを持つクルマだったんですが、これを新型クラウンにはめ込んでみたらいいのではないかという話になりました。
2022年7月に新型クラウンを発表した後、各地で展示会を行いましたが、特徴として20代の若い人が想像以上に訪れていましたし、女性の姿もかなり目についたのは、クルマの成り立ちに自然に共感できるところがあったからなのかもしれません。クラウンになじみがない方でも、このスタイルには惹かれるはずです。
国内では憧れのクルマ、海外での知名度は?
――オーダーの状況はどうでしょう?
清水さん:これまでのところ、国内はクロスオーバーだけで2.5万台となっています。「クラウンだったら買う」というロイヤルユーザーから多くの注文が入っているものと見ています。新型クラウンには2.5Lのハイブリッドと2.4Lターボのハイブリッド「デュアルブースト」の2タイプがありますが、今のところ7:3で2.5Lモデルが選ばれているようです。ただ、2.4Lターボモデルの情報が出始めると、状況は少し変わってくるかもしれません。こちらは強力なエンジンとクラッチ、モーターがダイレクトに直結する構造なので、走りはさらに良くなっています。海外でのオーダー状況はこれから明らかになってくると思います。
――国内では「いつかはクラウン」という言葉があるほど有名なクルマですが、そもそも海外での知名度はどうなんですか?
清水さん:米国には1950年代に初代クラウンを入れたのですが挫折し、それ以来となるので、TOYOTA USAが「ブランドの再上陸」とアピールしているところです。向こうでは新しいジャンルのリフトアップスタイルが注目されていて、台数のボリュームの期待ができるので力を入れています。
欧州での知名度はまだまだです。新型クラウンの発表会で社長が英語でメッセージを出したのも、海外に向けて「トヨタのクラウンだぞ!」とアピールしたかったからです。
中国では「クラウンクルーガー」(ハリアー)や「クラウンヴェルファイア」など、クラウンの名を冠したモデルですでにブランド展開しているので、知名度は上がっています。
――世界で売るとなると、場合によってはメルセデス・ベンツ「Cクラス」やBMW「3シリーズ」あたりと新型クラウンが比較されるケースが出てくるかもしれません。世界で勝てるポイントは?
清水さん:「和の心」といったら言い過ぎかもしれませんが、動的な面では全体の乗り心地や静粛性、ステアリングによるクルマの動かし方などで勝負できると思っています。静的な面では、これ見よがしではなくシンプルなところ、日本車が得意な質感、作り込みなどでしょうか。価格的には400万円台からで、先代よりもコストパフォーマンスは良くなり、競合力は上がっています。今やメルセデスのCクラスでも600万円台が当たり前になっていますからね。
――外観は大きく変わっていたのですが、インテリアは意外にも従来のクラウンらしく保守的なところがあるように見えました。そこには意図があったんですか?
佐藤さん:決して意識してコンサバにしたわけではなく、シンプルでモダンで機能的なもの、誰が乗っても普通に使えるものを目指して行き着いたのが今の形です。ただ、クラウンらしい質感や空間の包まれ方については意識しました。
清水さん:4つのモデル全てが同じ内装というわけにはいかないので、スポーツはもう少し攻めた形になるかもしれませんし、、セダンはどっしりと、エステートはもしかしたらアウトドアにマッチした形になるかもしれません。
4つスタイルについては、最初に乗るクラウンがクロスオーバーで、家族の人数が増えたらエステート、次はセダンやスポーツへといったように、ご自身のライフスタイルに合わせて選んでいただけるようにもなっています。
――最後に、新型クラウンというクルマを担当するというプレッシャーはありましたか?
清水さん:今回はかなりチャレンジングな企画だったので、相当に痺れる場面がありました。最初に社長から「本当にマイナーチェンジでいくのか」といわれた時から始まって、途中で「セダンもやってみよう」と声かけがあった時もそうでした。
何しろ社長は、16代全てのクラウンに乗ったことがある地球上で唯一の人なので、クラウンに対する愛や思い入れが相当に深いんです。新型に乗ってもらって、「これ、クラウンだね!」といわれた時には、開発陣一同、かなり安心しました。