駒の動かし方と基本的な戦法は分かったけど、ネット対局などで人と対戦するとなかなか勝てない‥‥なんとことありませんか? この記事では、マイナビ出版刊行の将棋に関する書籍より、対局に活かせる戦法や考え方に関する内容を抜粋して、お伝えします。

定跡を覚えてもその展開にならない、とお悩みの方は多いはず。 定跡はそれだけでは知識に過ぎません。大事なのは、本質的なロジックを理解することです。

まずは、振り飛車対居飛車急戦の仕掛けの段階である第1図をご覧ください。

  • 【第1図は△7五歩まで】

皆様ならここから、どのように進めて、優位に立ち、最終的に勝つ(=相手玉を詰ます)イメージを描くでしょうか。

「こんな局面から最後まで読むなんて無理」

そうでしょう。そう考えるのが当たり前です。正直、プロ棋士でもここからすべてを読み切るのは無理だと思います。

しかし、将棋の基本的な論理・・・いえ、ちょっとカッコよく「ロジック」とでも言いましょうか(英語にしただけですが)。将棋の基本的なロジックをもとに盤面を泳ぎ出せば、おぼろげながらにも最終局面までの青写真が描けるかもしれません。

少し長くなりますが、お付き合いください。重ねて、本稿では振り飛車における勝ちのロジックを紹介してゆきますが、全戦型対応で必ずためになりますので、居飛車党の方も、どうかお付き合いください。

まずは、あまりにも漠然としすぎていると思いますので、少しヒントを。

  • 【攻めのロジック】

振り飛車における攻めのロジックの第一段階は、上図の「さばき」にあたる部分。具体的には、飛、角、桂の成り込みを狙ったり、相手の飛と自分の飛を交換する、同じように、角と角、銀と銀、桂と桂・・・、というように、なるべく同等の駒を交換すること。その上で、同等の駒で攻め合って、美濃囲いと相手玉の固さの違いを頼りに速度勝ちを目指すのがロジックの第二段階、第三段階、ということになります。

ただし、第1図の後手の構えは、最近の居飛車急戦において主流ともいえる「エルモ囲い」という金銀の連結が良い構えで、手のつけようによっては先手の美濃囲いと同等の強度を見せることもあり、従来の舟囲い(舟囲いの図)では弱点になりやすかった2二の地点も3一金の利きがあって、攻略には細心の注意が必要です。後までお読みいただけますと幸いです。

  • 【参考 舟囲いの図】

では、始めましょう。

損して得取れ! さばきのロジック

  • 【再掲第1図は7二飛まで】

第1図からの指し手 ▲6八角 △7二飛 ▲7五歩 △同銀 ▲4六角 △6四歩 ▲7六歩(第2図)

  • 【第2図は▲7六歩まで】

  • 第1図から、 ▲6八角→△7二飛→▲7五歩→△同銀→▲4六角→△6四歩→▲7六歩→第2図

▲6八角が「さばき」の第一歩。4六へのぞいての9一香取りを狙います。相手の銀を5段目に進出させる▲7五歩、そしてさらに、自身の飛の利きをさえぎって△6六銀の進出を許す▲7六歩はノーセンスの手順に見えますが、その間に狙いの▲4六角を指し、香取りを受ける△6四歩を指させたのが大きなポイントです。第2図から、相手の手に乗った「さばき」を狙います。

第2図からの指し手 △6六銀 ▲同銀 △同角 ▲6八飛 △9九角成 ▲6四飛 △6二飛(第3図)

  • 【第3図は6二飛まで】

  • 第2図から、△6六銀→▲同銀→△同角→▲6八飛→△9九角成→▲6四飛→△6二飛→第3図

先手は角を成られたが、代わりに▲6四飛と走って、大駒の飛、角ともに世に出すことに成功しました。第1図の前に指した▲9八香が用意周到で、△9九角成で香を取られていないのも大きく、振り飛車が優位に立つまであと一歩のところまでたどりつきました。後手も「エルモ囲い」を頼りに△6二飛、最強の飛車ぶつけで対抗しますが、先手も美濃囲いの堅陣、強気に攻め続けます。

第3図からの指し手 ▲6二同飛成 △同金 ▲8二飛 △6一歩 ▲8一飛成 △8九馬 (第4図)

  • 【第4図は△8九馬まで】

  • 第3図から、▲6二同飛成→△同金→▲8二飛→△6一歩→▲8一飛成→△8九馬→第4図

先手は飛交換から▲8二飛と金桂両取りに打ち込みます。△7二銀は気になるところですが、▲6三歩△6一金▲6二銀で攻めが続きます。仕方のない△6一歩に互いに桂を取り合った第4図。

ここで、振り飛車によるさばきのロジックを思い出していただきたい。

――飛、角、桂の成り込みを狙ったり、相手の飛と自分の飛を交換する、同じように、角と角、銀と銀、桂と桂・・・、というように、なるべく同等の駒を交換すること。

改めて第4図、駒のやりとりを見てみると、飛と飛、銀と銀、桂と桂が交換になっていて、香は互いに取れていない状態。先手は飛を成り、後手は角を成っていますが、相手陣への響きを考えれば先手に軍配があがります。そして手番も握っているとなれば、どちらが優勢かは言うまでもないでしょう。

出だしは、さばかせてはいけないとされる居飛車の攻めの銀をさばかせ、角も成らせてしまいましたが、「損して得取れ」を地で行くような手順で振り飛車の華麗な「さばき」が決まりました。

ここから、相手陣攻略~詰みまでも、ロジックがあるのですが、それに触れると紙幅が尽きてしまいます。特に第4図では後手陣攻略のために絶対とも言える手があります。それはご自身で考えてみてください。

ロジックと正しい形勢判断を身につける

本記事に使用した局面図および表は、9月22日に発売された『イチから学ぶ将棋のロジック 三間飛車編』に掲載されているものです。(書籍紹介ページはこちら

著者は、『将棋・ひと目の詰み ~実戦形で終盤力アップ~』、『将棋・ひと目の歩の手筋~将棋上達の入り口~』など、これまでに初心向けの書籍を上梓している遠山雄亮六段。本書でも、1局の将棋を勝つまでのロジックを、1手ずつ丁寧に解説してくださっています。

  • 『イチから学ぶ将棋のロジック 三間飛車編』(著者)遠山雄亮、(販売元)マイナビ出版

著者の遠山六段は「まえがき」でこう記しています。

「本書はあくまで上達書であり、三間飛車の定跡書ではありません」

三間飛車はあくまで題材であり、1局の将棋を勝ちに導くための基本的な考え方を学べる書籍です。

続く言葉、

「本書に書いたロジックは全ての振り飛車に通じるのみならず、居飛車党も含めた上達を願う全ての方の参考になるはずです」

の通りの内容となっていて、初級者~上級者の方には振り飛車党、居飛車党に関わらず読んでいただきたい一冊です。

執筆:富士波草佑(将棋ライター)