女優の夏子が主演するフジテレビのドラマ『アイゾウ 警視庁・心理分析捜査班』(『火曜ACTION!』枠・毎週火曜24:25~ ※初回は25:25~)が、きょう11日にスタートする。
世界で実際に起きた“愛憎劇”が日本で起きたら?というifを起点に、独自のミステリードラマへと落とし込んだ意欲作。舞台は男女の愛憎事件を専門に扱う「警視庁・心理分析捜査班」通称“アイゾウ課”で、そこになぜかたった1人で所属する刑事の安座間(夏子)を主人公に、事件の相談を持ち込むベテラン刑事の久世(津田寛治)、新人刑事の三好(水石亜飛夢)と共に、愛憎が交錯する難事件を解決していく。
“世界で実際に起きた事件”、“愛憎”、“心理分析捜査”など、一見するとディープな世界観で、難解なミステリーが繰り広げられるのか?と想像してしまうが、謎解きの面白さはしっかり残しつつ、濃厚な人間模様を見せながらも軽快。キャラクターには新鮮さがあり、この作品でしか味わえない視聴後感も味わえる快作に仕上がっている――。
■長江俊和監督だからこその手腕でエンタメへ昇華
このドラマは、大きく3つの面白さがある。1つはタイトルが示す通り、“愛憎”と“ミステリー”が融合した、物語の面白さだ。第1話は冒頭から“ザ・愛憎”とも言えるインパクトで幕を開ける。妻が何者かに殺害され、その葬儀場で喪主を務める夫(波岡一喜)の前に謎の女(秋元才加)が突然現れると、参列者の眼前で熱烈なキス…というショッキングなオープニングなのだ。
そこから、妻は誰に殺害されたのか? 夫と謎の女の関係は? 葬儀場でキスをするほどの狂気とは?…と次々に謎が表出し、その吸引力で視聴者をひき付けていく。単純な愛憎劇だけでは、「誰がどんな動機で殺害したのか?」というミステリー(=謎解き)は単純になりがちだが、「犯人は誰なのか?」という根幹の謎は残しつつも、「どのように? なぜその行為に至ったのか?」という周辺人物を探っていく過程に“愛憎劇”を見事に落とし込んだ。
これは今作の監督を務める、『奇跡体験!アンビリバボー』や『放送禁止』シリーズなどを手がけてきた長江俊和氏だからこその手腕で、元となったノンフィクションを、いかにすれば視聴者をワクワクさせるエンタテインメント=フィクションへと昇華できるかを心得た作りになっている。
■“変な主人公”へと仕上げることに成功
2つ目は、新鮮で“変な主人公”へ仕上げたキャラクタードラマとしての面白さだ。主演を務めるのは、地上波連ドラ初主演となる夏子で、キャラ立ちさせるための“変”が満載だ。
安座間というキャラクターは、上司である警視正にストーカー行為をしていた過去があり、それによって免職ではなく、なぜか「アイゾウ課」に配属されるというトリッキーな設定。その上、挙動も独特で、普通の刑事にはない突飛な着眼点を持ち、“色恋”に過剰な反応を示し、それでありながら独自の推理力と捜査能力を発揮させるという人物だ。
主人公にデコレーションされたそれらの“変”は、誰もが知る俳優が演じていた場合、いくらディテールが他の作品と違っても、どうしても“画一的な変”になってしまい、オリジナリティを出すことが難しい。だが、初主演というキャリアであまり見慣れない夏子が主人公を演じることによって、様々な“変”を全く違った趣にしてくれる。
それは、安座間のキャラクターはもちろん、演じる夏子の演技が一体どういうものなのか、視聴者に全く先入観がないために作られた“変”なのか。それとも、キャラクターとしての“変”なのか――その曖昧さが、主人公の持つ独特な危うさ・弱さ・可憐さとなり、新鮮で“変な主人公”へと仕上げることに成功しているのだ。
また、なぜ安座間は警視正にストーカー行為をしながら免職されず、たった1人の部署に配属されたのか。ストーカー相手である警視正・村瀬は一体何者なのか。その謎が全話にわたっての縦軸を予感させる。この辺りの展開も、今後楽しみだ。
■“事実は小説よりも奇なり”というが…
3つ目は、やはりこのドラマの根幹といえる“実際に世界で起きた「愛憎劇」が日本で起きたら?”というifを用いた面白さだ。今作は3月に単発ドラマとして放送されており、その際のモチーフは、1995年にアメリカで起きた「天才ストーカー事件」で、2012年にドキュメント特番『世界法廷ミステリー』内で放送されて話題となった印象的なエピソード。ドラマ本編の終わりに、モチーフが「天才ストーカー事件」であることが『世界法廷ミステリー』の映像と共に紹介されたのだが、「あの印象的だった事件がモチーフになっていたのか!」とアッと驚かされる構成になっていた。つまり、モチーフとなった事件が記憶にあっても、全くの別作品として楽しむことができ、見事に換骨奪胎されたミステリードラマに仕上がっていたということなのだ。
見終わった後に、ノンフィクションとフィクションが交錯していく視聴後感は、今作だからこそ味わえるものだろう。
さて、今回の連ドラ版第1話のモチーフとなるのは、1989年にアメリカで起きた「キャロライン・ウォーマス事件」。この事件を知る人にとっては「どんなフィクションに仕立てられたのか?」、知らない人にとっても、ドラマ終了後に明かされる実際の事件との照合で「制作側がどんな“創作”を施したのか?」と、普通のドラマではなかなか知ることのできないクリエイティブの一端を垣間見ることができる。
今回は前・後編のため、謎は次回へと持ち越しになるが、前編を見てしまえば次週まで待ちきれないエンディングを迎えること必至。“事実は小説よりも奇なり”というが、果たして本当にそうなのか。事実を巧みにアレンジすることによって、さらに驚きの展開が待ち受けているに違いない。それを確かめたい。