タムロンから、“頃合い”のよいフルサイズ対応の望遠ズームレンズ「50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」(Model A067)が登場しました。ワイド端を50mm始まりとするとともに、より高速のAF機構の採用や機能のカスタマイズが可能。従来モデル「100-400mm F/4.5-6.3 Di VC USD」(Model A035)をさらに進化させた望遠ズームレンズとなります。どこが注目なのかを見ていくことにしましょう。

  • α7 IVに装着したタムロンの新しい望遠ズームレンズ「50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD(Model A067)」。発売は9月22日で、実売価格は165,000円。三脚座は別売で、こちらの実売価格は13,500円前後となります

ワイド側を50mmまで伸ばしたことで、出番の多いレンズに変身

まず外せないのが、やはりワイド端の焦点距離でしょう。50mm始まりとし、より臨機応変に被写体に対応できるようになりました。スポーツやクルマのレースなど、遠くにいた被写体がさほど時間を置かず目の前まで及んだときなどでも、余裕で撮影が可能です。レンズ交換を急いでしなければならなかったり、画角の広いレンズを装着したカメラを別途用意する手間は不要で、撮影の可能性やシャッターチャンスの拡大に大きく寄与します。

  • ワイド端の50mm時(上)とテレ端の400mm(下)の状態。さすがにテレ端ともなるとインナー鏡筒が大きく繰り出しますが、サイズ的にはこれまでの100-400mmと変わりません

テレ端の400mmも使い勝手がよいように思えます。テレ端を200mm前後とする望遠ズームに比べ、当然ながら被写体をぐっと画面に引き寄せることができ、強い望遠効果で写真映えしやすい絵も撮りやすいと感じます。周りの余計な写り込みもカットでき、写真の主題を明確にできます。レンズの口径は明るい部類ではないですが、その分鏡筒はコンパクトで、持ち運びなども考慮すると、この画角を必要とする撮影ではオールマイティに使えるように思えます。レンズの明るさについても、最新のミラーレスならノイズの発生もよく抑えられているので、ためらわず感度を上げるようにすれば不足を感じることもないはず。運動会をはじめとするスポーツイベントや野鳥などのほか、風景撮影でもその出番は実に多そうです。

さらに、ワイド側を50mmまで広げながら、100-400mm F/4.5-6.3 Di VC USDと同等のサイズ感と質量(長さ183.4m、重さ1,155g)としていることも特徴として挙げられます。流し撮りなどレンズを振るような撮影や、カメラを構え続けて被写体が現れるのを待つような撮影でも、疲労が軽微で済むのも魅力です。フィルター径はφ67mm。これは、ほかのタムロンのミラーレス用交換レンズと同じであり、フィルターの共用ができるほか、レンズキャップの装着もサイズ違いによる手間も発生しません。近年、交換レンズのフィルターサイズが同一シリーズであるにもかかわらず揃っていないカメラメーカーも多々あるなかで、とてもユーザーフレンドリーであると思えます。

  • 操作部材は、上から機能を割り当てられるカスタムスイッチ、手ブレ補正機構VCのモード選択用のモードスイッチ、フォーカスセットボタンとなります

AF駆動にリニアモーターフォーカス機構「VXD」(Voice-coil eXteme-torque Drive)を採用したのも注目点です。俊敏性と静粛性に優れており、特に俊敏性についてはコンティニュアスAFで常に動く被写体を捕捉しているときなど、ピントを外してしまうことがありません。さらに、フォーカシング時の音もほとんど発生しないので、静寂性が要求されるステージなどでの撮影も気にせず使えます。いずれにしても、AFに対する信頼性はさらにアップしたと述べてよいでしょう。

TAMRON Lens Utility用のコネクターポートの搭載に加え、同ソフトウェアのフォーカスリミッター機能に対応するのも目新しい部分です。今回は試せませんでしたが、同機能は被写体によってはAFの無駄な動きが抑えられるので、より高速なピント合わせが可能であるほか、撮影中デフォーカスになることが抑えられるため、積極的に活用したい機能です。もちろん、ファームウェアのアップデートなどもこれまで通り対応可能です。そのほか、効果の高いタムロン独自の手ブレ補正機構「VC」の搭載や、別売となりますが三脚座が用意されているなど、不足のない望遠ズームに仕上がっています。

  • 付属のレンズフードはさすがにワイド端50mmに合わせたものであるため浅く、テレ側での遮光効果は期待できそうにありません。テレ端側しか使わないのであれば、市販のねじ込み式の深いフードを用意するなど工夫が必要です

  • 別売となる三脚座。三脚の使用の際はマストといえるアイテムなので、本レンズユーザーは持っておいてほうがよいでしょう

高倍率ながら描写は上々、AF性能も文句なし

ミラーレスに特化した最新の光学系とする本レンズの写りについては、正直ネガティブな部分を見つけるのは困難といえるほど。エッジの線の細さは、どの焦点距離でも絞りを開いた状態から高く、しかも画面の周辺部まで変わることはありません。それは、合焦した被写体がより一層背景から浮き立ったように見えてしまうほど。色のにじみやサジタルコマフレアなどの発生も見受けられず、クリアでスッキリとした写りが得られます。ディストーションや周辺減光なども良好に補正されており、こちらも気にしなくてよいレベル。ボケ味も、ズームレンズとしてはナチュラルに思えるなど、タムロンらしいスキを感じさせない写りといえます。

筆者の個人的な話で恐縮ですが、毎週末息子の出場するサッカーの試合を記録として写真に収めています。ボールを追いかける息子をはじめとする選手たちは、広いグラウンドを縦横無尽に駆け巡り、カメラから遠くの方にいたかと思えば、あっという間にすぐ目の前にいることも少なくありません。今回のレビューでも、そんな息子の試合の様子を本レンズで追ってみましたが、画角的にとても具合がよく、スポーツイベントに向いたレンズであることを実感できました。願わくなら、やはりEマウント以外のマウントも欲しいところ。大人の事情があるとは聞いていますが、EOS Rユーザーとしては「何とかならないものか…」とつい思ってしまいます。

  • 鏡筒はコンパクトに仕上がっているため、被写体を追いやすく、その際のアングルも思い通りになりやすく思えます。テレ端400mm、絞り開放での撮影となります α7IV・50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD・絞り優先AE(絞りF6.3・1/1000秒)・ISO100・WBオート・JPEG・焦点距離400mm

  • 前ボケを作ってみました。望遠ズームの前ボケとしてはナチュラルに思えます。遠くに浮かぶ船舶などシャープネスが低いのは、大気の状態が大きく影響しています α7IV・50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD・絞り優先AE(絞りF6.3・1/640秒)・ISO100・WBオート・JPEG・焦点距離390mm

  • 入道雲が夏の午後らしい雰囲気としています。絞りは開放に近いF5.6。わずかに周辺減光が見受けられますが、写真的にはさほど気になるようなものではないように思えます α7IV・50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD・絞り優先AE(絞りF5.6・1/1600秒)・ISO100・WBオート・JPEG・焦点距離142mm

  • AFの被写体追従精度を確認するため、通うことの多い撮影ポイントに今回も出向いてみました。AFモードはもちろんコンティニュアス。しっかりと被写体を捕捉していることが分かります α7IV・50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD・絞り優先AE(絞りF6.3・1/500秒)・ISO160・WBオート・JPEG・焦点距離400mm

  • ワイド端の50mmで撮影。今回望遠あるいは超望遠での作例が多いこともあり、パッと見広角レンズで撮ったように見えてしまいます。合焦部分のシャープネスは極めて高く感じられます α7IV・50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD・絞り優先AE(絞りF4.5・1/2000秒)・ISO100・WBオート・JPEG・焦点距離50mm

  • こちらも焦点距離50mm、絞りは開放F4.5で撮影したものです。上の写真と同様にピントの合った部分のエッジのキレは高く、光源の状態もありますが立体感ある写りが得られました α7IV・50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD・絞り優先AE(絞りF4.5・1/2000秒)・ISO100・WBオート・JPEG・焦点距離50mm

  • 望遠マクロ撮影も得意とするレンズです。被写体までカメラが寄れない撮影シーンでも、ぐっと画面に引き寄せることが可能です。写真は焦点距離287mmでの撮影です α7IV・50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD・絞り優先AE(絞りF8.0・1/400秒)・ISO100・WBオート・JPEG・焦点距離287mm

  • ピントの位置は、画面中央の黒っぽい瓦。その後ろのブルーの屋根も被写界深度内に収まると思ってのことです。狙いは的中。ピントの合った部分はエッジのキレのよい描写です α7IV・50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD・絞り優先AE(絞りF6.3・1/400秒)・ISO100・WBオート・JPEG・焦点距離287mm

  • 焦点距離は129mm。その最短撮影距離で被写体を狙いました。AFはデフォーカスになることがなく、瞬時に合焦。ストレスのないピント合わせが楽しめました α7IV・50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD・絞り優先AE(絞りF5.6・1/160秒)・ISO100・WBオート・JPEG・焦点距離129mm

  • AFモードはコンティニュアスAFに設定。車両の先端部分にピントが合う位置にフォーカスエリアを持ってきましたが、しっかりとピントが合っています。AFの応答性の速さもこのレンズの特徴といえます α7IV・50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD・絞り優先AE(絞りF6.3・1/800秒)・ISO100・WBオート・JPEG・焦点距離209mm

  • 動きが速く、予測できないことも多いサッカーの試合を写してみました。AFモードはもちろんコンティニュアスAFを選択していますが、被写体を確実に捕捉しています α7IV・50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD・絞り優先AE(絞りF6.3・1/1600秒)・ISO800・WBオート・JPEG・焦点距離305mm

  • こちらも試合中の1コマ。敵の攻撃を避けながらボールを蹴って走るため、イレギュラーな動きが多いのですが、それもしっかりと合焦しています。スポーツイベントなどで活躍してくれそうなレンズです α7IV・50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD・絞り優先AE(絞りF6.3・1/2000秒)・ISO800・WBオート・JPEG・焦点距離282mm