JR東海と中央新幹線神奈川県駅(仮称)新設工事共同企業体が事業を進めているリニア中央新幹線において、橋本駅付近に建設中の神奈川県駅(仮称)を活用した「さがみはらリニアビジョン」が10月1~4日の4日間開催された。

  • 「さがみはらリニアビジョン」工事中の掘削斜面にリニアの映像が投影された

「さがみはらリニアビジョン」は、地元住民を中心に、リニア中央新幹線への理解を深めてもらうことを目的に開催。工事現場の掘削斜面へのプロジェクションマッピングや各社の展示を通して、リニア中央新幹線の事業に触れる機会となった。初日の10月1日に点灯式が開催され、あわせて報道関係者らの取材機会が設けられた。

リニア中央新幹線は、東京都と大阪市を超電導磁気浮上方式・最高505km/hで結ぶ路線として計画されている。現在は品川~名古屋間(285.6km)の工事を進めており、途中に神奈川県駅・山梨県駅・長野県駅・岐阜県駅(いずれも仮称)を設置予定。「さがみはらリニアビジョン」が開催された神奈川県駅(仮称)は、JR線・京王相模原線の橋本駅に隣接して建設が進められている。

点灯式では、主催者を代表してJR東海代表取締役社長の金子慎氏と、奥村組代表取締役社長の奥村太加典氏が挨拶。来賓の挨拶が行われた後、プロジェクションマッピングが投影された。JR東海の金子社長は、挨拶の中で、神奈川県駅(仮称)について2019年の工事着手以降、関係者らの協力を得て着実に工事を進めていると説明。現在、神奈川県立相原高等学校の跡地全体を工事ヤードとして活用し、地下駅を構築すべく大規模な掘削工事を行っているとのことだった。

「さがみはらリニアビジョン」は、中央新幹線の工事現場では初という地元住民向けの大規模なイベントとなった。金子社長はイベントの内容を簡潔に説明した上で、「迫力のある映像や、様々な展示物をお楽しみいただくことで、このイベントを通じて中央新幹線の事業・工事についての理解を深めていただく一助になれば」と述べた。

続いて挨拶した奥村組の奥村社長は、2019年10月の相原高校旧校舎の解体に始まり、2020年7月から新設される駅舎の中央部分の工事に着手し、現在の工事進捗率が30%を超えるなど順調に進んでいると説明。「さがみはらリニアビジョン」でプロジェクションマッピングを投影する場所から、掘削および連続地中壁工事に着手したという。

今後も掘削および連続地中壁工事を引き続き進め、その後に地下3階部分から駅舎の建設工事に着手すると奥村社長。「住民の皆様にご不便をおかけしないよう、周辺の交通や工事中の騒音・振動により一層の配慮をしつつ、安全最優先で工事を進めさせていただく所存でございます」と語った。

  • JR東海の金子社長が挨拶

  • 金子社長と神奈川県の黒岩知事、相模原市の本村市長は現場の視察も行った

  • 登壇者5名がスイッチを押し、プロジェクションマッピングの投影が始まる

来賓として出席した神奈川県知事の黒岩祐治氏、相模原市長の本村賢太郎氏、衆議院議員の赤間二郎氏も祝辞を述べた。神奈川県の黒岩知事は、3年前の着工から確実に工事が進んでいること、地域住民の協力の下、大規模な工事を行えていることを痛感していると話す。品川~名古屋間の開業に向けて、国家プロジェクトとして責任を持って成し遂げていくことを訴えた。

相模原市が生活支援ロボットの実用化と普及に取り組む「さがみロボット産業特区」の中心地であることにも触れ、黒岩知事は「ここのロボット産業を、未来の都市、ここで感じられるような素晴らしい都市が出来上がることをみんなで確認しながら、夢を持って、希望を持って、この工事を盛り上げていきたい」と力強く語った。なお、黒岩知事、本村市長、金子社長は、点灯式が始まる前に盛土に上がり、現場の視察も行った。担当者から神奈川県駅(仮称)やイベントについて説明を受け、理解を深めていた。

挨拶・祝辞が終わった後、プロジェクションマッピングの点灯に移る。登壇者5名がスイッチに手を置き、司会の合図でスイッチを押した。会場が暗転すると同時にスイッチが点灯。大規模な掘削斜面にムービーのオープニング映像が投影された。

プロジェクションマッピングの鑑賞スペースに移動した後、改めて、掘削斜面に向かって横約30m・縦約15mのムービーが投影された。JR東海によるリニア中央新幹線のコンセプトムービーでは、0系からN700Sまで歴代の新幹線車両が次々に登場。それぞれの走行シーンや当時の様子も交えた上で、場面がリニア中央新幹線に移っていく。リニア中央新幹線の場面では、150km/hで車輪を格納する様子や、浮上走行のしくみ、500km/hに到達する様子などが投影され、歴代の試験車両もムービーに登場した。

  • 巨大な掘削斜面に、リニアや歴代新幹線の雄姿が投影された

橋本駅の歴史を振り返る場面もあった。1908(明治41)年の横浜鉄道(現・JR横浜線)開業と同時に誕生した橋本駅に始まり、1951(昭和26)年の横浜線踏切や1975(昭和50)年・1984(昭和59)年の橋本駅北口が当時の写真とともに紹介された。

神奈川県駅(仮称)新設工事の概要も紹介された。建設中の地下函体は延長約680m・最大幅約50m・深さ約30m、掘削面積としては3万平方メートルとなる。地下3階構造で、最下部がホーム階(2面4線)になるという。大部分を開削工法で建設しつつ、国道16号との交差部分(約70m)のみ、分岐設置のため非開削(URT工法)で工事を行っている。

ムービーの最後に、「鉄腕アトム」が登場する「さがみロボット産業特区」のイメージアニメも再生された。現代の青年が「鉄腕アトム」に導かれ、未来の相模原市にタイムスリップした様子がアニメで描かれ、その中にリニア中央新幹線も登場していた。

  • 橋本駅の歴史、神奈川県駅(仮称)の工事概要の紹介や、「さがみロボット産業特区」イメージアニメも

点灯式終了後、19時45分頃から一般参加者の入場を開始。プロジェクションマッピングを投影する掘削斜面を囲むようにグループごとに移動した後、プロジェクションマッピングが掘削斜面に投影された。リニア中央新幹線コンセプトムービーに始まり、「さがみロボット産業特区」のアニメーションまで約10分のムービーとなっており、投影が終わると、会場から拍手が上がった。

その後、盛土体験を経て各社展示ブースへ。盛土体験では、実際に工事ヤード内の盛土に上がり、その安全性を体感した。イベント開催時点で、この盛土は高さ約6mとなっている。神奈川県駅(仮称)では、地下駅を構築した後、再び埋め直す予定となっているが、それまでの間、工事ヤード内に安全を確保した設計・施工で、掘削した土を盛土として仮置きしている。イベント期間中、工事で使用される重機も盛土の上に展示された。

  • 約6mの盛土に登る、工事中ならではの体験

  • 重機の展示も行われた

  • 盛土の上から掘削斜面を眺めるとこのような眺望に

展示ブースでは、JR東海と工事共同企業体、神奈川県、相模原市がそれぞれ出展。JR東海はリニア中央新幹線に関する展示を行った。まずは、小型のリニアの模型を用い、磁気浮上走行のしくみを疑似体験するコーナー。ひとつはハンドルを回すことでリニアの模型が浮上し、もうひとつはガイドウェイを模したパネルでリニアの模型を挟み、磁気浮上走行を疑似的に再現。こどもたちを中心に好評で、夢中でハンドルを回す子もいた。

タカラトミーが発売した「リニアライナー」の展示も。2015年9月に発売された「リニアライナー」は、実車と同じく磁力による浮上走行を実現。500km/h走行をスケールスピードで再現しており、会場でもその様子に目を留める来場者は多かった。ちなみに、ブースの担当者によると、「リニアライナー」はすでに絶版になっているという。

  • 下の黒いハンドルを回すと、リニアの模型が磁力で浮き上がる

  • ガイドウェイを模したパネルでリニア車両を挟むと浮上する

  • 「リニアライナー」L0系が、スケールスピードで500km/h走行

最後の展示は写真。過去に試験走行を行っていた「MLX01」から現在のL0系改良型試験車まで、4種類の車両の写真を展示した。その他、リニア中央新幹線に関する解説もブース内に掲示された。

工事共同企業体のブースでは、シールドマシンの模型(30分の1)や重機の展示を実施。神奈川県のブースでは、「さがみロボット産業特区」に関する展示が行われた。相模原市のブースでは、SDGsの取組みについて展示。全体的に初日の参加者層は家族連れが多く、JR東海のブースを中心に見学や撮影など楽しんでいた様子だった。

  • 歴代試験車両4種類の写真

  • シールドマシンの模型

  • 重機、重ダンプ(写真右)とバックホウ(同左)も展示された

イベント初日は点灯式のため、19時45分からの回のみ実施されたが、残る3日間は1日4回に分けて「さがみはらリニアビジョン」を開催。4日間で合計2,600名(各回200名・全13回)の参加者を募集したが、早い段階で満席になったとのことだった。