業界で今最も注目を集めるグループ・ダウ90000にとって初の連続ドラマ『今日、ドイツ村は光らない』(地上波4話=10月8日13:50頃、15日14:50頃、22日14:50頃、11月5日14:50頃/Hulu11話=毎週水曜0:00最新話配信)。千葉県にあるテーマパーク「東京ドイツ村」の最大の目玉であるイルミネーションが始まる前日、いわば“1年で最も暇な1日”での男女9人の悲喜こもごもを描くショートドラマだ。
『有吉の壁』『でっけぇ風呂場で待ってます』などを手がける今作の総合演出・橋本和明氏は、なぜダウ90000に白羽の矢を立てたのか。そして、彼らの存在が象徴するように、演劇とコントのボーダーがなくなってきた現状を、どのように見ているのか――。
■日テレのタイムテーブルに“5分の異物”
橋本氏がダウ90000と出会ったきっかけは、コント番組『東京03とスタア』『イザミと東京03』でタッグを組んだ佐久間宣行氏からのおすすめだった。「『橋本さん、ダウ90000って面白いですよ』と教えてくれて、その日に『旅館じゃないんだからさ』(21年9月)っていう第2回公演を見に行かせてもらったら、すごく面白かったんです。8人の知らない人が出ているのに、こんなに面白いんだということに感動しました」と振り返る。
そこから、「これから映像の世界に踏み出すときにしか見られない、彼らの演技や表情を撮りたい」と考えた橋本氏は、こちらもダウ90000を見て衝撃を受けていた鈴木将大プロデューサーと彼らの番組をできないかと思案していたところ、週末に5分枠があるという話が浮上。地上波の4話だけでストーリーを成立させつつ、Huluの11話で登場人物のバックボーンを描くことで、「セリフの意味がより深く分かるという構造にして、地上波だけ見てもいいし、Hulu単体で見てもいいという“二度おいしい”仕掛け」という今回の企画が生まれた。
5分という枠がマッチすると直感した理由は、「まだダウのことを知らない人もいっぱいいると思うので、パッとテレビを見た人が『何だこの会話劇。でもクセになるし、面白いし、この人たち誰なんだろう?』となるんじゃないかと。今のテレビって分かりやすいものを流しすぎていると僕らの中でも思うことがあるので、そういう“5分の異物”が日本テレビのタイムテーブルに突然流れると面白いんじゃないかと考えました」と明かす。
■蓮見翔脚本の絶妙なドイツ村イジり
物語の舞台であり、実際のロケ地でもある東京ドイツ村は、『有吉の壁』でも2回ロケを行った、バラエティ御用達の地。ダウ90000主宰の蓮見翔による脚本は、「ドイツ村を絶妙にイジってきてて(笑)。『なんでドイツ村にそば屋があるんだよ』というツッコミだったり、“おもしろ自転車コーナー”という名前に『私が乗ってる様が面白いものじゃないですか、これ』っていうセリフがあるように、やっぱりすごくセンスのあるイジりで、結果としてドイツ村である意味があることになってる。『今日、ドイツ村は光らない』というタイトルも含めて、全体的に不思議な手触りのドラマになっていて、今の若い劇作家の中で圧倒的な脚本力を見ました」と、期待どおりのものとなった。
稽古では、蓮見とともにセリフの調整を行ったが、「トーンがすごく繊細で、分かりやすく大きく声を張るとか、ツッコミっぽくするっていうことじゃなくて、ちょっとした間やイントネーションの付け方で丁寧に丁寧に紡いでいくという作業をやっています」と、蓮見流の演出が生かされている。それを踏まえ、「なるべくその空気感を残すような作品にしたいので、あまり細かくカット割りしないほうがいいのかなと」と、編集方針を定めた。
主演には、「ダウの温度感にちょうど合う気がしたんです」という小関裕太を起用。「ダウはやっぱりチーム感があるから、最初からワンチームで作品を作れるのですごく楽なんですけど、小関くんはそこに本当によく溶け込んでいて。もう現場ではダウの人にしか見えなくて、素晴らしいです(笑)」と、うまくハマった。
こうした若い才能と仕事することによって、橋本氏は大きな刺激を受けたという。
「本読みから一言一言に『どうやったら面白いか』『この言い方は違うな』とすごく考えて、翌日に舞台の稽古があったのに、そこでも細かく本読みをやってくれていたそうなんです。セリフの1つ1つをすごく大事にするのが、今のダウのすごさだし、劇団の草創期の雰囲気なんですよね。それを見て、やっぱり作品ってそういうことを大事にしなきゃダメで、1個1個何が面白いかの積み重ねなんだということを、もう1回教えられた気がしました。現場を楽しむことの大切さとかも含めて、初心を思い出しますね」