日本企業の後継者不在率が61.5%に達し、多くの業種で深刻な課題だ。60万社が黒字廃業の危機にさらされ、M&Aによる事業承継のニーズが高まっている。

後継者不足の問題を解決するため、神戸大学大学院と日本M&Aセンターホールディングスは「包括的な産学連携協定」を締結した。

今回の産学連携協定の目的や概要についての説明会が実施され、神戸大学大学院経営学研究科研究科長の國部克彦氏、同研究科教授で中小M&A研究教育センター長の忽那憲治氏、日本M&Aセンターホールディングス代表取締役社長の三宅卓氏が出席した。

  • 左から三宅卓氏、國部克彦氏、忽那憲治氏

■国内唯一の中小 M&A 研究・教育を促進する協定

神戸大学大学院経営学研究科と日本 M&A センターホールディングスは、9月27日に神戸大にて説明会を開催。中小企業のM&Aに関する研究と教育を促進するため、産学連携協定を締結したと発表した。説明会では、協定締結調印式も行われた。

後継者不在で廃業に追い込まれるリスクの高い中小企業や小規模事業者が多く存在する一方、中小企業の M&A に関する研究は国内でほとんどなく、研究者の不足や教育の遅れが課題となっている。

この協定は中小企業・小規模事業者の後継者不在の問題を解決するため、両者が持つ知識、ノウハウ、データ、人材を共有する両者の総力を結集した国内唯一の包括的な産学連携協定だ。

「この協定で取り組む内容は主に3点で、若手研究者の育成、教育プログラムの充実化、大学内プログラムによる寄与です」(神戸大学大学院経営学研究科 忽那憲治氏)

■後継者不足が深刻さを増す中小企業

2025年までに、70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となる。そのうち約半数の127万人が後継者未定だ。このうち半数の約60万社で黒字廃業の恐れがある。

このままでは中小企業・小規模事業者の廃業が急増し、2025年までの累計で約22兆円のGDP、約650万人の雇用が失われる恐れがある。中小のM&Aのニーズが高まっている状況だ。

日本は生産人口の激減と消費衰退の課題があり、2040年末までに生産年齢人口は77%になるという推計が出ている。また2060年には世界のGDPに占める割合は1.9%になるとの推計もあり、2010年の8.5%から大幅に減少することになる。

「特に地方の中小製造業では、後継者未定による廃業の恐れが深刻さを増しています。職の喪失、再就職の困難さ、職を失うことによる家族の困窮など、様々な負の影響を及ぼす恐れがあります」(日本M&Aセンターホールディングス 三宅卓氏)

国内唯一の中小M&A産学連携協定を締結することで、アカデミア・行政・業界の三位一体により127万社の廃業を救うことを狙う。

■連携を強化する具体策

連携を推進する施策の1つとして「中小M&A研究教育センター」を2022年4月1日付で経営学研究科内に設置し、トップマネジメント講座「中小企業のM&A」を開設した。

M&Aによる中小企業・小規模事業者の事業の集約化とイノベーションによる生産性の向上に関する共同研究、中小M&Aに関わる研究者への支援など、学術的な知見を生み出すとともに、研究成果をいち早く中小企業・小規模事業者が享受できるような取り組みを推進する。

「責任の重さを感じていますが、産学連携でさらに中小M&Aを本学部の柱としたいと考えています」(神戸大学大学院経営学研究科研究科長 國部克彦氏)

また神戸大学の博士課程学生や若手研究者向けの実践的インターンシッププログラムを日本M&Aセンターで開催。中小企業・小規模事業者の経営課題に対する研究テーマの実証機会を提供する。中小M&Aに関する研究者の育成や、学生のモチベーション向上につながる仕組みづくりを行う。