駒の動かし方と基本的な戦法は分かったけど、ネット対局などで人と対戦するとなかなか勝てない‥‥なんとことありませんか? この記事では、マイナビ出版刊行の将棋に関する書籍より、対局に活かせる戦法や考え方に関する内容を抜粋して、お伝えします。
「勝てそうと思っていた将棋でも、なぜか最終盤に競り負けてしまう」、「ついに相手の玉を追い詰めたと思ったら、自分の玉が詰まされてしまった」。そんなお嘆きをお持ちの方は多いのではないでしょうか。それは、終盤の速度計算が不正確なことが原因かも知れません。
「終盤は速度」 ではその速度とは?
「終盤は駒の損得より速度」という格言を、一度はお耳にしたことがあるかと思います。 詰将棋における華麗な捨て駒などを見ても、何となく、「それは、そうだよね」とイメージしやすい格言ではあります。 しかし、実戦における「速度」となると、詰将棋と違い、自分の玉と相手の玉、両方の状況を正確に見極める必要がありますので、実は意外と実践しづらい格言です。
ここでは、しっかり「勝ちにつながる」正しい速度計算のからくりを、なるべくわかりやすく説明してゆきたいと思います。簡単な局面から始めますので、初心者の方、初級者の方も、最後までお読みいただけますと幸いです。
「速度計算」の基本
はじめに、第1図と第2図をご覧ください。いずれも後手が4八のと金を3八に寄った局面。部分図ですが、9×9の盤面は同一、違いは、先手の持ち駒が「歩」か「金」か、それだけです。皆様なら、どのように指しますか?
いかがでしょうか。
第1図では、後手と同じように▲3二とと寄せると、△2八とまで、先手玉が1手先に詰まされてしまいます。
しかし、第1図では▲2二金と捨てる手が好手で、以下△同玉▲3二と△1一玉▲2二とまで、後手玉を先に詰ますことができます。
第2図も、後手と同じように▲3二ととするのでは1手遅れなのが明らかですが、▲6八歩と、6二竜の縦の利きを利用し後手の竜を遮断するのが好手で、後手が先手玉に迫るには△6九竜とするくらいですが、以下▲3二と△5九竜▲2二とまで、先手の勝ちとなります。
腕に自信のある方は、「何を当たり前のことを」とお思いでしょう。しかし、これこそが終盤における「速度」を理解するための第一ステージであり、第1図、第2図のような部分図ではない実戦の局面、それもお互いの駒が入り乱れた難解な最終盤の局面においても、「速度」を考える方針の土台となる局面なのです。
「詰み」と、「普通の詰めろ」「いい詰めろ」「必至」
いま一度、第1図、第2図をご覧ください。
第1図は、先手玉に「詰めろ(※後手に手番が回れば先手玉を詰ますことができる状態)」が掛かっていて後手玉に「詰み」がある局面、第2図は先手玉に「詰めろ」が掛かっていて後手玉には「詰めろ」が掛かっていない局面でした。
第1図は、攻めれば勝ち。第2図は、受ければ勝ちとなりました。
つまり、「詰み」は「詰めろ」に勝ち。正確に詰ませれば勝つことができます。 相手玉に「詰めろ」を掛けていない状態で自玉に「詰めろ」を掛けられていれば、受ける必要があります。
もう少し突き詰めて考えれば、自玉に「詰めろ」が掛かっていなければ、相手玉に「詰めろ」を掛ければ相手は受けなければいけません(=自玉が詰まされる心配をしないで攻めることができる!)・・・
・・・と、長々と書いてしまいましたが、「こうきたらこう、こうきたらこう」と続くばかりでキリがないですし、何よりイメージしづらいと思いますので、以下の表をご覧ください。
最終盤における「詰み」「詰めろ」の関係、速度計算の基本的な考え方は、おおむねこの表に凝縮されています。
きっとプロの方々は、(2手後に相手玉に詰めろが掛かるから・・・)(3手後に自玉に詰めろが来るから・・・)と、この表の何階層も下まで掘り下げて局面を考えておられるのでしょう。しかし、基本的な考え方は変わりませんので、私たちアマチュアの将棋においてはこの表の範囲まで考えられればじゅうぶん、もしこの表のひとつ下の階層まで考えることができたなら、じゅうぶんすぎると言えるでしょう。
対局中、自玉が詰まされるのがとにかく怖い、という方もいらっしゃるかと思います。そんな方には、反対から、こんな考え方もあります。
それをふまえて、第1図、第2図より少し複雑な局面ですが、第3図をご覧ください。皆様はどう指しますか?
正解手を導き出すポイントは、やはり、相手玉に詰みがあるか、自玉に詰めろが掛かっているか、になります。
まず相手玉。▲8二金と王手を掛けても、△9三玉▲8一金△8四玉と、上へスルスルと逃げられてしまうのがわかります。相手玉に詰めろは掛かっていません。
では自玉はどうでしょう。
△2七銀と打たれると、王手が続きそうでイヤな形ではあります。以下▲同金は△同歩成まで詰まされてしまいますが、
△2七銀に▲1七玉とかわせば、△1六銀成▲同玉△3八馬▲2五玉と、こちらも上へスルスルと逃げることができます。先手玉にも詰めろが掛かっていません。
となれば、後手玉に詰めろを掛ける手が正解手であることがわかるでしょう。
しかし、相手玉に対する「詰めろ」の掛け方は、一種類ではないので注意が必要です。
上へ逃げられないよう▲8五桂(第4図)と打ってあらかじめ9三の逃げ道を塞ぐ手は、▲8二金(第5図)までの「詰めろ」であり、大変感覚の良い手です。ただし後手に△8二銀と受けられると相手玉を詰ますことができず、紛らわしくなる恐れがあります。
第3図では、▲7三銀成(第6図)が正解手となります。
これなら、△8二銀には▲同角成まで、
△9三銀にも▲8二金△同銀▲同角成まで、
また△7三同桂も▲9三金△8一玉▲8二金まで詰みなので、後手は受けようがありません。
第4図の▲8五桂も「詰めろ」で立派な一着ですが、第6図の▲7三銀成のように相手が受けようのない「詰めろ」のことを「必至」と言い、「詰めろ」の中でも最上級のものです。この局面は「詰めろ」を掛け続ければ勝ち、とわかった場合でも、なるべく、「普通の詰めろ」より、「複数の詰み筋がある詰めろ」を、できれば「必至」がないかどうか探せるようになれば、より勝率はアップします。後編では、最終的に勝利するための積み筋の読み方に、「速度計算」について解説いたします。
終盤力3ランクアップの良書
本記事に使用した局面図および表は、すべて2022年8月29日発売の『将棋・終盤完全ガイド 速度計算編』から拝借しました。(書籍紹介ページはこちら)
著者はこれまでに、戦型別の「将棋・序盤完全ガイド」シリーズなど、初・中級者向けの書籍を多数執筆している上野裕和六段。これまでの親切な解説、そして親切な「書籍の作り」を踏襲したまま、難解なテーマながらアマチュアが理解できるように落とし込んでいて、その丁寧な構成には毎回のことながら驚かされます。
初心、初級の方が読めば、終盤力1ランクアップどころではおさまらないでしょう。中級、上級の方にも、速度計算の精度アップのために、ぜひお手にとっていただくことをおすすめいたします。
執筆:富士波草佑(将棋ライター)