トヨタ自動車のフラッグシップモデル「クラウン」が大変革の時を迎えた。ボディタイプは「クロスオーバー」「スポーツ」「セダン」「エステート」の4種類に。最初に登場するのは「セダン」ではなく「クロスオーバー」で、ぱっと見だと新型クラウンだとは気づかないほどだ。では、走りは変わったのか。クロスオーバーを横浜周辺で走らせてみた。
どんなハイブリッドシステムを搭載?
試乗したのはクラウン クロスオーバーの「G アドバンスド」というグレードで、価格は510万円。プレシャスホワイトパールの外装にファブリックと合皮を組み合わせたシートのブラック内装というシンプルな出立ちだ。全長4,930mm、全幅1,840mm、全高1,540mm、ホイールベース2,850mmのクロスオーバーボディは、さすがに先代の横に並べてみるとちょっと大きい感じだが、複雑な形状の抑揚やラインを極力省いた無駄のない流麗なボディと大径ホイール(19~21インチ)のバランスがいいので、とても引き締まった印象だ。
このエクステリアには、従来のクラウン像を打ち破る革新的で魅力的なカッコよさがある。試乗中も一般の方から声をかけられたほどだ。ちなみに、新型のプラットフォームは「カムリ」などが採用しているFFベースのTNGA「GA-K」の改良型。長いキャビンスペースが生まれているのはその恩恵なのだろう。
搭載するパワーユニットは「A25A-FXS」型2.5L直列4気筒エンジンに前後2基のモーターを組み合わせたハイブリッドシステム。動力性能はエンジンが最高出力137kW(186PS)/6,000rpm、最大トルク221Nm/3,600~5,200rpm、フロントモーターが88kW(119.6PS)/202Nm、リアモーターが40kW(54.4PS)/121Nmで、総合出力は172kW(234PS)となっている。トランスミッションは電気式無段変速機、駆動方式は4WD「E-Four」だ。
このシステムは従来「THS-Ⅱ」と呼ばれていたのだが、新型クラウン クロスオーバーには2.4Lターボに高駆動力型の電動パワートレーン「eAxle」を組み合わせた「デュアルブースト・ハイブリッドシステム」モデル(349PS)が新たに加わるため、2.5Lのシステムはそれに倣う形で「シリーズパラレル・ハイブリッド」と呼ぶことになったのだという。
ファンの皆さん、ご心配なく! 乗ったらクラウン
ドアを開け、腰を低く落とし込むことなくシートにスッと乗り込めるのは、リフトアップボディによってわずかに高くなったヒップポイントのおかげ。アイポイントはSUVほど高すぎず、ちょうどいい感じだ。ダッシュボードやウインドーのラインが水平なので前と左右の見切りが良く、いきなり乗っても違和感なしですぐに慣れることができそうだ。
「この安心感はどこからくるのかな?」と考えつつ室内を見回すと、新型のインテリアデザインはエクステリアのように革新的なものではなく、従来のクラウンが持っていた“あの”雰囲気がしっかりと残された造形になっているからなのだと気がついた。
さて、試乗開始だ。横にスライドしつつ上から「R」「N」「D」、真下が「B」となるシフトレバーをDに入れて走り出すと、すーっと車速を上げていく。動き出しの静かさ、そのチューニングは見事なまでの仕上がりだ。
駐車枠から直角にステアリングを切りつつ路上に出るような場面では、前輪とは逆方向に後輪を動かす「DRS」(ダイナミックリアステアリングシステム)が働いて頭がくるりと向きを変えてくれるので、ボディの長さを感じることがない。最小回転半径は5.4mというから、これなら狭い場所での取り回しで苦労することはなさそうだ。
アクセルペダルがオルガン式なので、右足の踏み込み量のコントロールがしやすい。街中の流れに合わせるような低中速の走りは文句のつけようがないほどだ。加減速が思い通りに行えるのは、搭載するニッケル水素電池が「バイポーラ型」になったことで電池内の抵抗が低減し、出力の出し入れが素早くできるようになったことも効果があるのだろう。
試乗車のタイヤは19インチの「TOYO PROXES Sport」。エアボリュームがあって静かで乗り心地が良く、路面の悪い箇所や段差を乗り越える際も柔らかめのサス(前:マクファーソンストラット式、後:新開発のマルチリンク式)との組み合わせで乗員にショックを伝えてこない。従来型のクラウンから乗り換えても全く違和感を感じることなく、安心して移行できるようなセッティングができている。さすがはクラウン。確かにクラウン。トヨタのフラッグシップらしさがきっちりと味わえるのだ。
では中高速域の具合はどうだろう。今度は首都高湾岸線に乗ってみる。
アクセス路で加速しつつ本線に合流するような場面では、車速が気持ち良く伸びていくような力強さと安心感がある。巡航を始めると、ステアリングはどっしりとセンターに収まり、直進性と静粛性がすこぶる高いことに気がつく。これはロングホイールベースと空気抵抗の少ないボディによるところでもある。
きついカーブのあるジャンクション部分でコーナーに飛び込んでみると、ステアリングの舵角が一発で決まり、自分の腕が上達したような旋回ができる。これは、先に触れたDRSによって前輪と同じ方向に後輪を切っているせいで、安定感とフラット感を保ったまま、コーナーの出口までクロスオーバーのボディを持っていってくれるのだ。E-Fourによって後輪から押し出すような駆動力が増したこと、リアの新開発マルチリンクサスペンションの剛性がアップしたこと、それを取り付けるサブフレームがフル防震タイプになったことなどの効果もあるはずだ。
走行モードは「エコ」「ノーマル」「スポーツ」の3つから選ぶことができる。選択はセンターコンソールのレバーで行う。とはいえ、どのモードでも燃費はすこぶる優れていて、試乗中に色々な走りを試してみた状態でも18km/L台をキープしていたのは「すごい」の一言。さすが、完熟状態のトヨタハイブリッドシステムである。
新型クラウンの気になる点
さて、ここまでは誉めすぎの観がある新型クラウン クロスオーバーの試乗記だが、気になった点が2つある。
ひとつはコックピットメーターに外光がやたらと映り込み、細かい表示部分が読み取りにくくなる点だ。メーターの取り付け角度なのか、表面を覆うパネルの材質なのか、はたまたその両方の影響なのかもしれないが、お天気がいい日に走っていると気になる人もいるのではなかろうか。メーター上部には結構な大きさの“ひさし”がついているのだが、その効果がない。最近はバイザーレスでも美しい表示がキープできているモデルも多いだけに、ここはなんとかしてほしい部分だ。
もうひとつは、強めに加速する際に聞こえてくるエンジンの透過音。筆者は完全に静謐な車内よりも、そこそこエンジン音が聞こえてくる方が好きなのだけれども、クラウン4気筒のプアな音色は高級車のものとしては及第点に届いていないと思う。例えばメルセデス・ベンツやBMWのあのエンジン音が好き、というファンはいまだに多いのだから、世界、ましてや欧州に打って出るのであれば、そのあたりを改善してほしい。
まだデュアルブーストの「RS」系に乗っていないので、もしかしたらそっちは素敵な音を聞かせてくれるのかもしれない。そうすれば、例えドイツ勢を向こうに回しても戦えるだけの戦闘力が獲得できること間違いなしだ。