その結果、21T以下では、どちらの方向でも同じような磁場依存性が示された。BCS理論に基づいた通常の超伝導状態では空間変調性がないため、結晶中で均一に超伝導状態が現れる。そのため、結晶に対して音波を印加する方向を変化させてもほとんど音速の磁場依存性は変化せず、音波方向に対して等方的な応答となるのが自然だという。
一方、21~25Tでは音波方向によって磁場依存性が異なり、異方的な応答が示されたとする。BCS理論では21Tがこの物質の超伝導状態が破壊されてしまう限界磁場であり、この21T以上の磁場領域こそがFFLO状態が現れると理論的に予想されている領域だという。
さらに25T以上までいくと、電気抵抗測定から通常の金属状態になることがわかっており、異方性は消失。つまり、FFLO状態のみで音波方向に対して異方性を示すことが発見されたとする。
空間変調した超伝導では、音波方向によって周期構造に沿って伝搬するか、またいで伝搬するかという差がある。これこそが異方性を示す原因であり、この振る舞いから空間変調している方向を決定することに成功したと研究チームでは説明している。この有機超伝導体の電子状態に基づいて、理論的に予想されるFFLO状態の空間変調方向が、今回の結果で得られた方向と間違いなく一致することが確かめられ、FFLO状態が現れている決定的な証拠となったとする。
今回の研究による異方性の検出によって、これまで実験的議論が困難だったFFLO状態の最大の特徴の1つである空間変調という性質の詳細について、遂に踏み込めるようになったという。実際、先行研究では間接的な議論が多く、空間変調に関する決定的な情報は得られていなかったとする。
なお研究チームでは、異方性を通したFFLO状態の正確な空間変調性の証拠が発見されたのは今回が初めてであり、画期的な成果だとしており、今後は、ほかの候補物質の測定も行うことで、固体中のFFLO状態の実験的理解が加速していくことが期待されるとしている。また、FFLO状態の電子対形成が示す空間変調性は固体物性物理だけの概念でなく、素粒子物理などの階層が異なる物理分野でも現れることから、今回の成果は多岐にわたる物理現象の理解に重要な基礎となることが期待されるとしている。