永瀬拓矢王座に豊島将之九段が挑戦する、第70期王座戦五番勝負(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)の第4局が10月4日(火)に神奈川県秦野市の「元湯陣屋」で行われました。結果は184手で永瀬王座が勝利し、五番勝負の成績を3勝1敗として、王座防衛を果たしました。

本局は豊島九段の先手番で、シリーズ4度目、いや、第2局の千日手を含めて5度目の角換わりに進みます。豊島九段が矢倉からの穴熊で自玉を堅くすると、永瀬王座は右玉でバランスを取りつつ、手待ちの順を選びました。千日手の可能性も指摘されていましたが、豊島九段が仕掛けたことで、その可能性はほぼなくなります。

永瀬王座は先手の仕掛けを逆用する形で反撃に出ますが、対して豊島九段も角を切って後手玉を薄くしました。先手は穴熊の堅陣が手付かずですので、あとは先手の攻めがつながるかどうか。この辺りは両者ともに難解と見ていたようです。

夕食休憩の直後、豊島九段は角を敵陣に打ち込みます。一気の寄せを含みに入れながら馬を作って攻めを手厚くしようとする狙いの一手です。しかし局後の検討の末、豊島九段はこの手が敗着だったと結論付けました。

対して永瀬王座はこの角を捕獲しにいきます。受けに定評のある永瀬王座らしい頑強な受け。豊島九段の攻めを真っ向から否定するような手だけに勇気の要る一手です。豊島九段は角を犠牲にする代わりに左右に成香を作り、後手玉へのゆるやかな包囲網を作ります。

しかしこの局面を冷静に見ると、先手の攻撃力は乏しく、後手の入玉を防ぐことが困難になっていました。その後も永瀬王座は豊島九段の必死の食いつきに対して丁寧に面倒を見続けて、入玉が確定的になった184手目の局面で豊島九段が投了しました。

投了図を見ると、先手玉の穴熊はいまだ手つかずのまま。永瀬王座は攻めの手を一切指さずに豊島九段を投了に追い込んだことになります。自身のキャッチフレーズ「負けない将棋」の面目躍如たる勝利でした。

永瀬王座が1敗からの3連勝で防衛に成功しました。局後の取材では、五番勝負のターニングポイントとして苦しい将棋を千日手に持ち込めた第2局を挙げました。4連覇を達成した永瀬王座は来期、連続5期(あるいは通算10期)による名誉王座の称号獲得が懸かります。

来期の展望については「めったにないチャンスなので、ものに出来るように頑張りたい」と語りました。

相崎修司(将棋情報局)

らしさ満点の将棋で4連覇を果たした永瀬王座(提供:日本将棋連盟)
らしさ満点の将棋で4連覇を果たした永瀬王座(提供:日本将棋連盟)