これからは、「サラリーマンが『法人』をつくる時代」と話すのは、ファイナンシャル・プランナーとして、5000名以上のクライアントに運用指南を行ってきた杉原隆さん。

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収入を増やす、経費を使えるといったことだけではなく、メリットは数多いという「法人設立」について、杉原氏が分かりやすく解説します。

■サラリーマンの収入と手取り額

国が国民の老後の面倒を見てくれ、企業が社員の面倒をみてくれる…、そういう時代は過去のものとなりつつあります。累積債務がGDPの約2倍、平均寿命が延びている国民の生活を抱え込めるだけの体力が、国にはありません。

企業は、終身雇用は夢のまた夢、今は「どうぞ副業してください。兼業OKですよ」と。裏返せば、「生産性の低い社員は残業をしないでください。その代わりに副業も兼業も認めます」ということです。

考え方を変えれば、サラリーマンといえども「就業後の時間や休日に自由度が増し、有給休暇も含めて副業・兼業を行えば結構な収入増になる可能性がある」ということですね。

ゼロから事業をおこそうと思えば、市場は? 顧客は? 回収は? と、精神的な不安や経済的リスクは小さくありません。サラリーマンという「安定収入」があるからこそできる副業や兼業には一定の収入と、副業・兼業が期待通りに進まなくても生活には困らないという「保険」があります。

サラリーマンとして頑張って、500万円の収入が1000万円になっても、手元に残るお金は2倍にはなりません。日本の所得税は累進課税で、収入が増えるほど税率は上がっていきます。「節税」というワードが氾濫していますが、表面的に節税したつもりでも実は社会保険料はあまり下がっていません。

たとえば、年収1000万円の方の所得税+住民税の合計は約120万円に対して、社会保険料は約149万円です。年収1200万円になると所得税+住民税の合計がやっと社会保険料を上回り、税の合計が約187万円、社会保険料が169万円になります。

■社会保険料の負担

1200万円を超える給与所得を得ている方は少なく、サラリーマン全体の10%程度です。と言うことは、大部分の方は、社会保険料の負担が大きいということです。もちろん、年収を下げれば社会保険料の額も下がります。 えっ! ですよね。そんなことは誰も望んでいないと思います。

しかし、サラリーマンとしての年収を下げ、税金も社会保険料も下げて多いに喜び、毎日を謳歌されている方はたくさんいます。

繰り返しになりますが、コロナ禍の後押しもあり社会の風潮は残業を極力減らし、その時間や休日を利用して兼業OK、副業OKです。働く我々にとっては、まさに「追い風」が吹き出しました。自らの才能や趣味を遠慮なく発揮し、その上収入も増やせるチャンスです。

そこで「ひと工夫」したいのが「収入の受け取り方」です。個人で受け取れば年収が上がってしまい税金だけでなく、あの社会保険料まで上がってしまいます。せっかくのチャンスがぬか喜びになることになりかねません。

まず抑えておきたいのが、個人と法人の収入に対する税率です。個人の最高税率は55%、法人税の実効税率は高くても34%と、個人で収入をいくら上げても、可処分所得(収入から、税金や社会保険料などを除いた所得。手取り収入。)は増えていきません。

税率と社会保険料を下げ、可処分所得を上げていく「働き方」を考えてみましょう。 サラリーマンの本業まで一気に変更は難しいでしょうが、まず兼業・副業での収入の受け取り方を「法人」で受取ることから始めてはいかがでしょう。

当然のことですが、これからお伝えすることは実態があっての法人です。法人を持つということは「金銭以外にも多くのメリット」がありますが、一方で「一定のコストがかかる」ということも頭に入れておかなければなりません。その意味では、金額の大小はともかく、一定の収入が得られることが前提となります。

たとえば、決算時期は自由に決められますが、赤字の際にも法人住民税は支払わねばなりませんし、決算処理も必須となります。

■収入を「法人」で受取るメリット

「法人を作る=法人オーナーになる」ことは、サラリーマンのみなさんが思っているほど難しくありません。社員なし、社長ひとりの「法人」を作り、兼業・副業先と「業務委託契約」を交わし、「法人で収入(=法人の売上)」を得てください。

そして「社長」になって、報酬額を自ら決めてください。このスキームは皆さんのメリットだけでなく、兼業先・副業先にもメリットは多く、あなたの提案を受け入れてくれる可能性は大きいと思います。

法人として「業務委託契約」すると、経費が認められます。経費には数多くのメリットがありますが、中でも「出張旅費・日当」は「法人を作って良かった」と実感できるものです。 規定と精算用紙を作れば、出張の都度の領収書は不要です。

また、支払う側の法人は全額経費計上、受け取る側の社長(貴方)は全額非課税です。規定に定める宿泊費は極端に高額でなく、社会通念上許される範囲であれば問題ありません。

宿泊費も日当の額も自分で決めて、自分で受取る、しかも「非課税=所得にならないので、所得税も住民税も社会保険料も不要です」。法人は経費で社長に払うわけですから、法人の利益は圧縮され、法人税額も小さくなります。

法人を設立し初年度で直ぐに黒字決算を迎えられることはないかもしれません。でも、心配無用です。法人は「欠損金の繰越控除」という制度があり、翌年度以降の黒字と相殺できます。

即ち、前年以前に赤字があった場合はその年の黒字金額を下げることができるので、法人税額も抑えることができます。 繰り越せる期間は9年間ですので、兼業・副業が期待以上に回りだし、もし本業にしてもいいくらいの事業規模になった時にも、税制面での効果は期待できます。

もちろんデメリット(=著者はデメリットとは考えてなく、メリットを手にするための必要手続き)は幾つかあります。
・法人設立手続き
・帳簿作成
・決算処理、等 売上の多少に拘らず、「一日も早く法人を手にすること」は、将来、良い意味で効いてきます。世の中は「18歳成年」時代です。おすすめは学生時代や20代、30代に「まずひとつ」法人を手にすること。即ち、「役員在任年数」を長くしておくことが肝要です。

国が残してくれている「退職金控除」の金額が経年増加していきますので、将来「非課税」で手にすることができる金額が大きくなります。そうは言っても50代でもまだまだ遅くはありません。人生100年時代、残されている時間はたっぷりあります。

最大のメリットは、人生の最期に訪れます。「相続税」は個人の財産に対して課される税であり、法人の財産に対して「相続税」は課されないということです。

法人の事業内容(将来的には、配偶者やお子さまが行いたい本業、副業、兼業も定款(*)に加えられます)にもよりますが、こんなことも可能です。配偶者やお子さまが事業を継いでくれるなら、心身ともに元気なうちにお子さまやお孫さまへ計画的な生前贈与で現金資産を減らしつつ、最終的には規模の大小は問わず実業として「経営」していた法人に不動産や動産資産を譲渡できます。

ご遺族は相続税負担が下がり、納税資金も生前に贈与を受け、所有権を法人に移転した不動産や動産をそのまま使うことができます。 配偶者やお子さまに相続税の支払いや分割で迷惑をかけず、感謝されながら逝くことができる「法人」の使い方。

是非、今も、将来もその恩恵に預かって欲しいと思います。

*定款:法人の事業内容を予め決めておき、法務局に届け出ておくもの。随時、変更可能です。

文/杉原隆