中国・Mobvoiが販売するスマートウォッチ「TicWatch」シリーズは、Wear OS by Google搭載で、リーズナブルな価格設定が特徴だ。今回はエントリーモデルにあたる「TicWatch E3」について、その使い勝手をレポートしよう。
Googleも出資するスマートデバイスの有力スタートアップ
Mobvoiは2012年に元Google従業員が設立したメーカーだ。米Googleや独フォルクスワーゲンらが出資し、AIを活用したデバイスの開発・販売を行っている。スマートウォッチブランド「TicWatch」では、中国メーカーによくある独自OS路線ではなく、Wear OS by Google(旧称Android Wear)を採用したモデルを展開しており、グッドデザイン賞やレッドドットデザイン賞なども受賞するなど、デザイン面でも評価は高い。現在は世界40カ国以上で展開しており、日本でも2020年から楽天市場やYahoo!ショッピングで公式に販売を開始している。
今回紹介する「TicWatch E3」は、そんな「TicWatch」シリーズの入門機に位置付けられる「E」ラインの最新モデルだ。「E」ラインはスポーツにも対応する防水性能を備えつつ、軽量でリーズナブルなモデルとして展開している。
本体サイズは幅44mm×高さ47mm×厚み13mm。重さは約32gと、大きさの割には軽量だ。本体ケースはポリカーボネート+グラスファイバー製で、スクリーンには2.5Dガラスを採用。ポリカーボネートといってもあまり安っぽさはなく、表面の処理や色合いもあって、一見、合金のようにも見える。全体的にシンプルで落ち着いたデザインなので、性別や場面を問わずに幅広く利用できるだろう。
ディスプレイは直径1.3インチ=約33mmで、解像度は約279ppi。デフォルトではやや暗めの設定になっているが、明るさを調整すれば炎天下でもだいぶ見やすくなる。デフォルトでは5秒程度の無操作で消灯するが、常時点灯の設定も可能だ(ただしバッテリー駆動時間は大幅に短くなる)。
操作ボタンは本体右側面に2つ縦に並んでおり、クラウン(竜頭)はない。残念ながらWear OS側が画面の回転機能に対応していないため、基本的には左腕用になる(右腕にも着けられるが、操作はしづらい)。上のボタンは単体で長押しで電源のオン/オフと画面スリープからの復帰が行える(画面のタップでも復帰する)。また、文字盤が表示されているときに押すとアプリ一覧の画面が表示される。画面のスクロールはタッチ操作で行うが、2.5Dガラスのタッチ感は非常によく、タッチへの反応も良好だ。
防水・防塵等級はIP68(防塵/水深1m以上で30分以上)で、耐水圧は50mとされている。水泳時の利用も可能だ。入浴やシャワー時の利用は推奨されていないが、筆者は外すのを忘れてシャワーを浴びてしまったものの、特に問題もなく動作している(シャワー時の装着を推奨するものではない)。防水性能は十分実用的と言っていいだろう。
バンドはシリコンゴム製で、標準ではブラックが付属する。別売りでブルーとイエローの2色が販売されており、交換して服とのコーディネートを楽しめる。さらに、バンドを接続する金具は一般的なスライド式バネ棒が使われており、バンド幅20mmであれば市販されている好みのバンドと交換もできるようだ。
心臓部にはQualcommの「Snapdragon Wear 4100」とMobvoi独自のデュアルプロセッサシステムを採用しており、RAM1GB、ROM8GBを搭載。「Snapdragon Wear 4100」は、Qualcommのスマートウォッチ向けSoCで、1世代前の同3100と比べ、処理能力や省電力の面で大幅に強化されており、TicWatchシリーズでは上位モデルにも同じものが採用されている。実際、低価格モデルながらアプリの起動や切り替えで待たされる感覚はほとんどなく、操作は快適だ。「Mobvoiデュアルシステム」については詳細な資料がないため不明だが、低消費電力モードで時計表示など、最小限の機能を維持するためのものと推測される。
位置情報はGPS(米国)、GLONASS(ロシア)、北斗(中国)の衛星システムがそれぞれ利用可能。携帯電波が届かない場所でもトラッキングが行える。実際にスマートフォンを持たずに移動し、戻ってからログを確認してみたが、かなり正確に移動したルートを補足できていた。日本の「みちびき」に対応していないのは残念だが、実用上は特に問題ないだろう。
通信機能は2.4GHz帯のWi-Fi 4(IEEE802.11b/g/n)とBluetooth 5.0で、単独でのキャリア接続機能は備えていない。スマートフォンとはBluetoothで接続され、TicWatch内蔵のマイクとスピーカーを使って通話もできる。通話品質は意外とクリーンで聞きやすいが、周囲に通話内容が全部漏れてしまうので、使い所はなかなか難しい。
最後にバッテリー関連だが、バッテリー容量は380mAhで、駆動時間はおおむね2日程度。各種トラッキング機能を有効にした場合は1日前後といったところだ。ただし電池残量が5%を切ると自動的に「エッセンシャルモード」に切り替わる(任意に切り替えも可能)。このモードでは時刻など最小限の表示のみを行うことでバッテリー動作時間を延長できる。バッテリー駆動についてはやや心元ないが、入浴や食事といった時間に充電を行えば睡眠トラッキングも含めた各種機能を有効に利用できるだろう。
充電は背面にある専用の電源ポートを通じて行う。ケーブルは磁力で装着できるようになっており、形状も合わさって間違えて装着することはないだろう。
独自アプリはヘルスケア特化
前述の通り、TicWatchシリーズは「Wear OS by Google」を採用している。同OSは、以前Android Wearと呼ばれていたもので、現在のバージョンは2.38。Googleが開発し、各社のスマートウォッチに採用されているOSだ。Wear OS by Googleの特徴は、Androidと同様にPlay Storeからアプリをインストールできる点だ。特にGoogle Mapが利用できるのは大きいと言えるだろう。
またAndroid/iOSの双方でスマートフォンの通知を受け取ったり返信したりできる(LINEの返信はAndroidのみ)ほか、通話に応答する、音楽アプリを操作するといったことができる(AndroidではTicWatchから電話をかけることもできる)。マイクとスピーカーを内蔵しているため、手元で通話も行えるほか、音声アシスタントも利用できる。
また、さまざまなセンサー類を搭載しており、活動計としても利用できる。TicWatch E3は心拍数モニター、血液酸素レベル、歩数計、睡眠トラッキングに加え、100種類以上の運動のカロリー消費などの記録が行える。
これらはGoogleの「Google Fit」またはMobvoiの独自アプリ「Mobvoi」を通じてヘルスケア/フィットネス情報として記録管理できる。「Mobvoi」のほうが高機能だが、Mobvoiで取得したデータはGoogle Fitと共有できるので、どちらを使っても構わないようになっている。Ticシリーズでは睡眠トラッキングが使えるほか、標準の文字盤に表示できるフィットネス情報はTicシリーズと連動しているので、基本的にはMobvoi系アプリおよび「Tic」系アプリを使うのが前提となっているようだ。
なお、本機はNFC Type A/B対応の非接触ICを搭載しているのだが、残念ながら日本ではWear OSでGoogle Payが利用できない。これはGoogle側の問題なのでTicWatchに責任はないのだが、最近はコンビニや大手スーパーなど、NFC(Type A/B)対応の店舗も徐々に増えているので、早く利用できるようになってほしいところだ。
最後に、価格は2万3,999円と、Wear OS for Google搭載スマートウォッチとしてはリーズナブルな価格帯だ。基本的な機能は一通り使える上に、3万円を超える上位モデルと同等の性能を持つことを考えると、コストパフォーマンスは高い。Wear OS by Googleはすでに次期バージョンのWear OS 3が登場しているが、TicWatch E3はアップデート対象機種(2022年内を予定)となっているので、将来性という点でも期待できるだろう。
ハードウェア面は非常によくできており、独自アプリのTicシリーズの出来も悪くない。アクティビティトラッキングを目的とした人や、Androidとの親和性が高いスマートウォッチの入門機を探している人に安心して推奨できる1台だ。