日本酒をもっと楽しみたい人をナビゲートする書籍『人生を豊かにしたい人のための日本酒』(マイナビ出版)が9月26日に発売された。
著者はホリプロアナウンス室所属のフリーアナウンサーであり、一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーション副理事長・マスター講師を務める近藤淳子さん。2009年からは女性限定の日本酒会「ぽん女会」を主催し、女性の日本酒ファンを増やすために活動している。
「気軽に日本酒を楽しんでほしいので、堅苦しい教養本にはしたくなかった」と話す近藤さんに、日本酒を好きになった意外なきっかけや、美容効果が期待できるペアリング雑学などを教えてもらった。
■きっかけは「粗塩」
――『人生を豊かにしたい人のための日本酒』の発売おめでとうございます! どういった内容になっているのでしょうか?
ありがとうございます! 日本酒の基礎知識や雑学を解説したり、全国の酒蔵に取材した最新の日本酒事情を紹介したりと、かなり盛りだくさんな内容になりました。日本酒にちょっと興味があるくらいの方にも、往年の日本酒ファンの方にも楽しんでいただける内容になっていると思います。
――近藤さんご自身が日本酒に興味を持ったきっかけはどんなものでしたか?
大学時代に通っていたアナウンサースクールで、日本酒と粗塩のペアリングに出会ったことがきっかけでした。授業後に教室で飲みながら、生徒と先生が交流する時間があって、そのときに日本酒好きの先生から「手をグーにすると親指と人さし指の間にできるくぼみに粗塩を乗せて、舐めながら日本酒を飲む」というたしなみ方を教えていただいたんです。
――なかなかハードなきっかけですね! かなりツウな飲み方だと思うのですが、最初から美味しく感じられたのでしょうか?
女子大生にしては、かなり渋い飲み方ですよね(笑)。たった一粒の粗塩が日本酒の味わいに奥深さをプラスしてくれて、より美味しく感じられました。エピソードとしてはなかなか衝撃的かも知れませんが、すごく繊細で感動的な体験だったんです。「日本酒ってこんなに美味しいんだな」「日本酒って面白いな」とも思いました。
――そこからどんどん日本酒にハマっていったのでしょうか?
そこから日本酒をよく飲むようになって、決定的にハマったのはTBS系列の北陸放送でアナウンサーをしていたときに車多酒造の『天狗舞 山廃純米酒』を飲んだときですね。北陸は本当に美味しいお酒が多くて、いろいろな銘柄を飲んでいたのですが、それまでに飲んだ、どの日本酒とも違う味わいに心をつかまれました。
美しい琥珀色をしていて、複雑な奥行きのある味わい。色も味も多種多様な日本酒への好奇心がグッと湧き上がって、学生時代に感じた「日本酒の面白さ」を探求してみたくなりました。それと同時に、日本酒の面白さをもっとたくさんの人に知ってほしいと考えるようになったんです。
■日本酒の未来のために、女性ファンを増やしたい
――日本酒の面白さを伝えるために、具体的にはどのような活動をされてきたのでしょうか?
JSA(一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーション)のマスター講師として、国内外で日本酒のセミナーを実施してきました。そのほか、日本酒イベントの司会をしたり、さまざまなメディアで日本酒コラムを書いたりといろいろやってきましたが、特に力をいれてきたのが2009年から主催を務めている「ぽん女会」の活動です。
上京して数年が経ったころに日本酒の消費量が落ち込んで、業界が低迷していることを知り、「日本酒業界の未来のために、日本酒の魅力をもっと広めたい」と考えて女性限定の日本酒会を立ち上げました。
――なぜ女性限定にしたのでしょうか?
男性に対するアプローチであれば、私よりも適任の方がいらっしゃると思ったからです。10年以上前の当時は、まわりを見ていて日本酒を飲む女性が少ないとも感じていたので、女性の日本酒ファンを増やせれば全体の底上げができると考えました。
また、蔵元や杜氏をゲストに招いてフレンチレストランなどでイベントを行い、女性たちがおしゃれな雰囲気の中、日本酒を楽しむ様子を発信するのも日本酒のイメージアップにつながると考えています。
――今でこそ、日本酒を楽しむ女性が増えたように思いますが、当時はまだ珍しかったのではないでしょうか?
かなり珍しかったですし、当時はすごい勇気がいりました。それでも日本酒のために本気で活動していくうちに応援してくださる方も増えて、女性を支援する国際NGO・地方自治体とのコラボイベントやツアーを開催する機会にも恵まれました。現在は約200名の女性が「ぽん女会」に参加してくれています。
――女性に限らず日本酒ファンを増やすために、今後の日本酒業界はどんなことをしていったらいいと思われますか?
この数年、女性雑誌やファッション雑誌などにも日本酒が当たり前のように掲載されるようになってきました。日本酒グラビアに挑戦する女性タレント、酒屋を立ち上げた元女性アイドルなど、日本酒をとりまく環境はどんどん活性化してきています。
ただ、まだまだ一般的には「日本酒は飲みにくい」「飲み方が難しそう」といったイメージがあるのも事実かと思います。JSAでは、人材育成をはじめ日本酒の魅力を国内外に伝えるための取り組みを行っています。ですので、日本酒の魅力を多くの人に知ってもらうと同時に、楽しく飲める場所をもっと増やしていきたいと考えています。
■美容に良くてストレス緩和も!? 日本酒のペアリング雑学
――たしかに日本酒は、ビールなどに比べると飲み始めるハードルが高い気がします。「しっかり知識がないと楽しめない」と思っている方も多いですよね。
日本酒は日本の文化とともに発展してきたものなので、本来は気軽に楽しむお酒だと思っているんです。だから、日本酒がもっと身近な存在になれたら嬉しいですね。
――日本酒をもっと気軽に楽しむためのコツはありますか?
身近な食材とのペアリング方法を知っておくといいと思います! 日本酒のペアリングって、ポイントを押さえればすごく簡単に楽しめるんですよ。さらっと飲めるさわやかな味わい(軽快タイプ)の日本酒には、素材そのものの旨味を感じられる料理との相性が良いです。ひとつ例を挙げるなら、タコのカルパッチョをおすすめします。
――カルパッチョの中でも、タコをおすすめする理由は何でしょうか?
タコに多く含まれるタウリンという成分は、美肌効果や疲労回復効果、肝機能を改善する効果が期待できると言われています。また、日本酒は、コラーゲンのもとになる成分や天然保湿成分を作ると言われるアミノ酸が豊富なので、相乗効果でストレスを緩和しながら美しくなれるペアリングです!
また、飲む前に油を使った料理を食べると、二日酔いや悪酔いも防げるんです。タコの唐揚げでもいいですが、よりヘルシーに飲むならオリーブオイルを使ったカルパッチョがいいですね。
――これは自分を棚に上げて言うんですが、日本酒が好きな女性って綺麗な方が多い気がしています。アミノ酸パワーだったんですね。
(笑)。言われてみれば、お肌が綺麗な方が多いですね! お酒づくりに携わる方も、手が綺麗な方が多いんですよ。某化粧品ブランドでも、杜氏の手からヒントを得て開発したという商品がありますよね。そういった側面からも、女性の日本酒ファンが増えたらいいなと思っています。
――美容にいいのは嬉しいですね。ちなみに、油をとる以外に"二日酔い対策"として簡単にできることはありますか?
しっかりお水を飲むことが大事です! 実はお水を飲むと、体内のアルコール濃度が薄まり、血中アルコール濃度の急激な上昇を抑えることができるんです。
また、お水は、脱水症状の緩和を促す効果があると言われています。アルコールを飲むと利尿作用が促進され、脱水症状を引き起こしてしまうのですが、水を飲むことにより、脱水症状を緩和したり、頭痛を和らげたりすることができます。ぜひ、お酒と一緒にお水も飲んでくださいね。
■今や海外で造られる日本酒
――最近の日本酒業界の取り組みで、特に注目しているものはありますか?
今回の書籍を出すにあたって、さまざまな酒蔵の最新の取り組みや考え方について取材したので、注目しているものはたくさんあるのですが、どれかひとつに絞るのは難しいですね。強いて挙げるとすれば、日本酒から「SAKE」への進化でしょうか。
海外での日本酒人気の高まりを受けて、海外向けの日本酒を造る酒蔵や、海外での酒づくりに挑戦する酒造も増えています。
――海外で日本酒が人気になることは、国内ファンの獲得にもつながるでしょうか?
世界的に注目されることで日本酒業界が活性化しますし、これまで日本酒の情報が届かなかった層にも、逆輸入的に知ってもらうチャンスになると思います。『獺祭』で知られる旭酒造は、2022年末にはニューヨークでの酒づくりを開始する予定です。
文化や流行の発信地であるニューヨークで、日本の「SAKE」がどうやって進化していくのか楽しみですし、そこから伝統的な日本酒の文化にも興味を持ってくださる方が増えたら嬉しいですね!
――先ほど「日本酒は日本の文化とともに発展してきた」というお話がありましたが、書籍では、そのあたりの歴史についても触れているのでしょうか?
そうですね。体系的に網羅していて、日本酒を知らない方にお伝えするためのスタンダードな情報も盛り込んでいます。さらに、今この時代・この瞬間の蔵元たちの熱い声も本の中では伝えています。
蔵元や杜氏をはじめとする関係者のみなさんが「日本酒業界のために」と、協力してくださったおかげで、「日本酒の良さを知ってもらうための本」になりました。知っておくと日本酒をもっと好きになれる、もっと美味しく楽しく飲める情報が詰まっている本です。
■日本酒を知ることは、日本を知ること
――これから日本酒を初めて飲む方に向けて、楽しみ方のアドバイスをお願いします!
日本酒は伝統的な飲み物ですが、どんなお料理とも相性がいい"懐が深いお酒"です。和食や洋食はもちろん、タイ料理などのエスニックな料理にも合うので、気軽にチャレンジしてみてください! 書籍では、日本酒のタイプに合わせたペアリングルールや、簡単に作れるおつまみレシピも掲載しています。
――『人生を豊かにしたい人のための日本酒』は、日本酒を幅広く楽しむための攻略本のような書籍なんですね。
余すところなく日本酒を楽しむための必要な情報をまとめました。古き良き文化や技術といった、守るべきところを守りつつ、常に新しいものを取り入れて進化してきたからこそ、今の日本酒業界の発展があると思っています。日本酒を知ることは、日本を知ること。この書籍が、日本酒を飲むきっかけになってくれたら嬉しいです。