網走にあるジェラート店「Rimo」。同社のエグゼクティブシェフで、日本人で唯一「イタリア開催の2つの世界大会」で優勝し、ジェラート職人の地位向上を目指す高田聡さんにジェラート作りのこだわりを紹介してもらう機会があった。
スイーツのという言葉の持つ華やかなイメージとは真逆の、狂気ともよべるジェラート作り、素材への徹底したこだわりに圧倒される筆者。今回は、高田さんにその「こだわり」の原点や仕事へのスタンスを聞いてみた。
独学でジェラート作りを学ぶ
祖父が開業した千歳のジェラート店への入社がきっかけで、この世界に入ったという高田さん。しかし現実は厳しく、店長として店を立ち上げるも1年半で閉店を余儀なくされたという。ここで高田さんは、独学でジェラート作りを改めて学び始めたと話す。
――なぜ独学だったのでしょう?
高田さん:職人の世界だからです笑。自分で覚えろの精神なんですね。おまけに、経営は厳しい、時間もお金もない。だったら自分だけで試行錯誤するしかないという状況で、とにかく必死でしたね。
手探りでジェラートを作りつつ独自でノウハウをひたすら模索する日々。しかし、後日その方法を周囲に聞いて答え合わせしたところ、9割以上が正しいやり方だったそうだ。
――ジェラート以外の食べ物で、味を追求する時の決まり事などありますか?
高田さん:まずそもそも食べることが好きなんです。そして手の込んだ料理、目新しいものに出会うと、食べた時の味を全部声に出して言葉にします。例えばステーキ屋さんで、食べておいしいと思ったら「最初に肉汁が出る、食べた時一瞬だけ冷たさがある。これはちょうど良いくらいの焼き加減だ。だから旨味が出ているんだな」みたいな流れです。
録音などせず、その時に自分の頭の中で「おいしさ」を整理する。これはジェラート作りを始めた時からの習慣で、自分が新しいジェラートを開発する時も同じようにしていると言う。
高田さん:店でブツブツ独り言を言っている時は味の研究中です笑。自問自答しないと、味の良し悪し、足りない要素などが分からないと思います。
――仕事へのこだわりが他にあれば教えてください。
高田さん:固定概念や業界の常識に縛られないことですね。だから自分の中で目標設定した時、諦めずに取り組む。従来の方法、普通のやり方では無理だ。じゃあ視点をまったく変えてみよう、やってみようという考えです。これは千歳時代の失敗が原点ですね。
高田流のジェラート作りに青トマトジュースを使うという発想はあり得ないこと、論外でしょうね、と笑いながら話す高田さんだった。
相手にとっておいしいものを作る
「自分のおいしいものでなく、相手にとってのおいしいもの」を作る精神でジェラート作りに励む高田さん。ジェラートの素材や牛乳にも徹底してこだわりを持ち、現在は同じ網走にある岩本牧場から加工されていない牛乳を使っている。
――岩本牧場さんを選んだ経緯を教えてください。
高田さん:元々は別の牧場と契約していましたが、そこがやめるということになり、周囲に相談して紹介されたのが岩本さんでした。今まで4社くらいの牧場さんと取引してきましたが、一番「乳質」が安定しているのがこちらでしたね。いいジェラートには、いい乳質が不可欠なので、そこはありがたいです。
同牧場の代表取締役 岩本敦志さんは牛がストレスを感じない快適な環境づくり、牛の餌となる牧草やトウモロコシ、配合飼料にも細かく目を配って飼育し、「おいしい牛乳は健康な牛からでないと搾れない」と説明してくれる。
「健康な牛は、飲んで、食べて、ごろりが大切。それが牛にとって一番快適なんです。そして、どれだけ牛たちに食べてもらえるかが大事なこと」(岩本さん)
牧草が伸び過ぎると「おいしくない」ので、収穫回数が多い品種を栽培し、そのための機械も導入するなど、手間は増えるが牛には良い飼育手法を採用していると岩本さんは明かす。
この結果、高田さんが「牛の皮膚のツヤが明らかに違う」と言う、健康でおいしい牛乳を出す牛たちが育てられているのだ。
網走のオジサンたちが支持するジェラート
こうして作られたRimoのジェラートは、店舗での販売はもちろん、通販でも大人気だという。特に面白いのが、店舗での男性客の比率の高さだ。スイーツ、ジェラートと聞くと若い女性客が多そうだが、高田さんのお店は違うようだ。
――なぜ男性客が多いのでしょう。
高田さん:東京のジェラート屋さんだと女性客が多いイメージですが、うちは昔から営業していることもあり、網走市内で浸透できていると思います。つまり入ることへの敷居が低いのです。また、出張で来た人に地元の人がお勧めしてくれるケースもあるでしょう。
地元の人の支持、クチコミ効果。こうして農作業中の男性、網走の漁業関係者まで性別を問わずにお客さんが集まるのでは、と高田さんは答える。
素材の調達含め、網走にしっかりと根付いているお店だが、沖縄のフランチャイズのお店以外にも展開する予定はあるのだろうか。
――例えば東京への出店の可能性は?
高田さん:あまり考えてないです。地方から東京にという流れはよくある話じゃないですか、まったく面白くないですよね笑。それなら、いっそ海外に、例えば本場のイタリアに出店するほうが魅力的かなーと。
スイーツのトレンドは常に変化するので、2~3年でレシピを変えるという高田さん。規模が小さい店舗が多く、変化するためのトライ&エラーがしにくいジェラート業界の中で、これからも「常識外」の発想、行動で話題を提供してくれそうだ。
また、そうしたお店が増えることで、高田さんが掲げる「ジェラート職人の地位向上」も実現するのだろう、そう思える取材だった。
取材協力:高田聡(たかだ・さとし)
Rimoエグゼクティブシェフ
北海道網走市生まれ。独学でジェラートづくりを学び、2017年「SHERBETH FESTIVAL」、2019年「第60回MIGガストロノミーコンテスト」という2つの世界大会で初出場・初優勝という日本人初の快挙を達成する。