メルセデス・ベンツ日本(MBJ)は同社初のラグジュアリー電気自動車(EV)「EQS」を発売した。2022年11月に納車を始めるミドルサイズセダン「EQE」を合わせると、同社のEVラインアップは国内最多タイの5車種となる。国産車メーカーよりも熱心にEVの市場投入を進めるMBJだが、肝心のユーザーはクルマの電動化についてきているのだろうか。MBJ社長に聞いた。
メルセデスのEV販売は順調?
「EQS」と「EQE」は、メルセデス・ベンツが初めてEV専用のプラットフォームで作ったEVだ。すでに日本で発売となっている「EQC」「EQA」「EQB」の3台は、もともとあったSUVの「GLC」「GLA」「GLB」をベースに作ったEVだったのだが、今回の2台は最初からEVを作るつもりで開発したEVだといえる。EQSは2モデル展開で「EQS 450+」が1,578万円、AMG(高性能バージョン)の「EQS 53 4MATIC」が2,372万円だ。
EQSは107.8kWhの大容量バッテリーを搭載しており、フル充電で700km(WLTCモード)の航続距離を備えている。MBJの上野金太郎社長によると同社ユーザーの走行距離は年間1万~1.5万kmとのことなので、EQSであれば月に1~2回の充電で済むことになる。EVに対しては航続距離が心配との声もあるが、1日で700kmどころか、500kmを走る人すらほぼいないと思われるので、EQSならそのあたりは問題なさそうだ。
EQS/EQE発表会に登場したMBJの上野社長は、EVの現状と今後について「今までは、どちらかというと小型~中型のEV(EQA、EQB、EQC)を投入してきましたが、今回は待望のといいますか、メルセデス・ベンツが得意とする中型~大型のクルマを導入をできましたので、、『EQブランド』(メルセデスのEVシリーズ)の普及に拍車がかかると信じています。EQSとEQEは待ちに待ったクルマで、2022年央に出したかったんですが時期がずれ込んでしまいました。今年の残り3~4カ月でEQを今一度ご理解いただき、EVの攻勢をかけていきたいと思います」と語った。
MBJのEV販売が伸びるかどうかを占ううえでも、気になるのはメルセデス・ベンツユーザーの電化(EVへの乗り換え)が進んでいるかどうかだ。いくら商品をそろえても、ユーザーに購入意欲がなければEVの台数は伸びていかない。そのあたりについて上野社長は、「電気がいいとか、内燃機関がいいとか、お客さまにはいろんな方いらっしゃいます。EVへの乗り換えが順調かどうかとのお尋ねですが、どうでしょう、順調ではないと思います。もっと販売を拡げられると考えていますが、それはこちら(売る側)に責任がありまして、台数を用意できていないのが実情なんです。決してEVの人気があるかないかの問題ではなく、あくまで供給の問題です」と話していた。
新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、自動車業界では半導体不足、部品不足、出荷の遅れなどが重なり、需要に供給が追い付かない状態が続いている。上野社長の見立てでは、供給の問題が解決すればEVの販売は伸びる、需要は十分にあるということらしい。
EV普及の阻害要因はいくつもある。例えば充電インフラの不足や航続距離への懸念などだが、上野社長は顧客の「(EVを)買わない理由」をなくしていくことが重要だと語る。MBJでは長距離を走れるEVを導入したり、コストはかかるが販売店に急速充電器を設置したりといった努力を続けているが、上野社長は日本のEV普及状況を「振っても振っても出てこないケチャップの瓶」に例え、まだ爆発的に台数が伸びていく段階には至っていないとの見方を示していた。