9月28日、日本経済新聞に「国民年金『5万円台』維持へ 厚労省、厚生年金で穴埋め」という記事が掲載され、SNSなどでは多くの意見があがっています。内容をごく簡単に要約しますと、「目減りする国民年金の給付額を5万円台後半に維持するため、厚生年金で穴埋めする案が浮上している」ということです。
今回は、このような案が出てきた背景や、その影響について解説します。
■国民年金が目減りする要因とは
日本の公的年金は、「2階建て」と言われています。1階部分は、日本に住む20歳以上60歳未満の全ての人が加入している「国民年金」で、「基礎年金」と呼ぶこともあります。自営業者など国民年金の「第1号被保険者」に区分される人は、基本的には国民年金のみに加入しています。
一方、会社員や公務員など「第2号被保険者」に区分される人は、1階部分の国民年金に加え、報酬に応じて増減する2階部分の「厚生年金」にも加入しています。
国民年金は、20歳から59歳までの40年間、月1万6,590円の保険料を納めると、現行では65歳から月6万4,816円受給できます。それに対し、厚労省が発表している厚生年金のモデル年金は、月20万円を超えています。
国民年金は、老後も収入が見込める自営業者を想定しているため、厚生年金の給付額と比べて少なくなっているのです。このように、国民年金の給付額はそもそも少ないですが、金額が下がり過ぎると、老後生活を支える制度として機能しなくなり、信頼を損ねることが懸念されます。
給付額が減少する背景としては、2004年の年金改革で導入された「マクロ経済スライド」があります。マクロ経済スライドとは、少子高齢化による現役世代の人口減などを反映させ、実質的に年金の給付を減らす仕組みです。
ただし、目先の給付を下げないよう、マクロ経済スライドは一時停止が繰り返されてきました。その結果、直近の年金給付は想定より大幅に膨らみ、今度は、膨らみ過ぎた給付を抑える必要が出てきたのです。すると、現行の給付額から大きく下がった月5万円台に維持することも、現実的には難しくなります。
■国民年金5万円台維持のため、厚生年金を流用
国民年金の給付額を5万円台に維持するため、厚労省で具体策として想定されているのは、「基礎年金へのマクロ経済スライドの早期停止」です。これにより、給付額を現在の物価水準で月5万円台後半にとどめられるとしています。
その代わりとして、厚生年金の報酬比例部分へのマクロ経済スライド適用の終了を、予定の2025年度から延期することや、国庫負担による穴埋めが検討されています。
つまり、国民年金の給付額を5万円台後半に維持するため、厚生年金の給付抑制の終了を延期し、厚生年金から国民年金へ財源を配分するのです。この影響で、厚生年金に加入している一部の高所得者は、将来の給付が減少する可能性があります。
これまでも、勤労者の年金を手厚くするため、制度改正が重ねられてきました。たとえば、この10月から、一定の要件を満たすパート・アルバイトに社会保険適用が拡大され、厚生年金保険料などの納付が義務付けられます。
また、今回の議論では、年金の加入期間を現行の40年(20~59歳)から45年(20~64歳)に延ばす案も出ています。
さまざまな方法で、年金制度や給付額の維持が試行錯誤されています。しかし、安心して老後生活を送るための決め手とはなっていないのが現状のようです。
■現役世代の72%が公的年金制度に不安
2020年に朝日新聞が実施した世論調査によると、公的年金制度の将来に「不安を大いに感じる」人は、現役世代では72%に達しています。今回の案により、公的年金制度に対する不安、不信感がますます高まる恐れもあるでしょう。
厚労省では、近く社会保障審議会の年金部会で議論を開始します。老後生活を左右する年金制度の行方に、今後も多くの注目が集まりそうです。