マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、9月22日からの金融市場「激動」の一週間について解説していただきます。


9月22日からの一週間は、金融市場にとってまさに「激動」でした。

中央銀行デーに「円安」が進行

22日午前3時(日本時間)、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)がFOMC(連邦公開市場委員会)を開催して、0.75%の利上げを決定。FRBを含めてその日のうちに少なくとも6つの中央銀行が政策会合を開催し、そのうち4行が0.50%から0.75%の大幅利上げを実施しました。

同じ日に金融政策決定会合を開催した日本銀行は、大規模金融緩和の継続を決定。黒田総裁が記者会見で、利上げするつもりは「全くない」と宣言したことを受けて、米ドル/円が上昇。ほぼ同じ時間帯にSNB(スイス中央銀行)が政策金利をマイナス0.25%から0.50%へ引き上げ。依然として「マイナス金利」を採用するのが日本銀行だけとなり、そのことが「円安」に拍車をかける結果となったようです。

24年ぶりの円買い介入

黒田総裁の会見前には、神田財務官が「(介入は)ステルスでやる場合もある」、「スタンバイの状況だ」と述べ、為替市場をけん制していました。にもかかわらず、米ドル/円が上げ足を速めたので、政府・日銀は米ドル売り円買い介入に踏み切りました。為替介入は11年ぶり、円買い介入は24年ぶりでした。

金融市場は大荒れ

翌23日、9月6日に誕生した英国のトラス政権は大型減税を含む5年間総額1,610億ポンドの経済対策を発表しました。市場では財政赤字の拡大が懸念されて英ポンドが急落、英長期金利(10年物国債利回り)が急騰しました。

週末にクワーテング英財務相が追加減税もありうると発言したことで、週明け26日に英長期金利が一段と上昇、英ポンドは対米ドルで一時1.02978ドルをつけて1985年2月の史上最安値を更新しました。英長期金利に引っ張られる形で(日本を除く)世界の長期金利も上昇。28日、米長期金利は一時4.00%をつけ、2008年9月のリーマン・ショック以降のほぼ最高水準まで上昇しました。

その他にも、株価が大幅に下落し、米国のダウ平均株価は今年1月5日の最高値から20%超下げ。原油先物の代表的なWTI価格は今年1月以来の1バレル=80ドル割れとなりました。

なお、29日にはBOE(英国中央銀行)が債券市場の沈静化を狙って英長期国債の購入に踏み切り、英30年物国債利回りは1%超低下しました。金融市場の「激動」は現在進行形なのかもしれません。

この一週間を振り返って

金融市場が大荒れとなるなかで、筆者がわかったことは以下の2つです。すなわち……

  • 「円安」のトレンドは変わらない
  • リスク資産の値動きには注意が必要

この一週間、米ドルが他の通貨に対して全面高でした。米FRBがアグレッシブな利上げの継続を示唆したからですが、それだけではありません。主要な中央銀行が金融を引き絞るなか、グローバルなマネーのフローが縮小し、相対的に米ドルに向かうフローが大きくなった(=米ドル以外の通貨に向かうフローが細った)ということでしょう。

現局面における2つの「ひねり」

ここ数年、「金利差」が為替レートを決定する主なドライバーになっており、それは変わっていないでしょう。ただ、足もとでは2つの「ひねり」が入りました。

1つめは、政府・日銀が米ドル売り円買いの為替介入を実施したこと。そのため、この一週間、円は主要通貨のなかでは米ドルに次ぐ強さでした。ただし、今回の介入は「急激、かつ一方的な円安」への対応であって、あくまでスピードの調整、いわゆるスムージングオペです。「金利差」などのファンダメンタルズの変化なしに、為替相場の方向性を変えようというものではないでしょう。

2つめは、長期金利の上昇に「悪い金利上昇」の要素が強まったこと。長期金利急騰の発端は英国で大型減税を含む経済対策案が打ち出されたこと。財政赤字の拡大が懸念されたため、株安、債券安(=金利上昇)、通貨安のトリプル安となりました。コロナ・ショック直後には世界の中央銀行が強力な金融緩和を行っており、国債発行が増加しても容易に市場で消化されました(=金利は上がらない)。しかも、発行された国債のかなりの部分は、中央銀行がQE(量的緩和)によって購入しました。しかし、現在の状況は真逆。そうした中で国債発行の増加観測は国債価格の下落(金利の上昇)を招きました。

金利の上昇はそれ自体が景気にとってマイナスですが、「悪い金利上昇」は景気を一段と悪化させる可能性があります。そのため、株式、商品市況、資源・新興国通貨などの、いわゆる「リスク資産」にはこれまで以上に下押し圧力が加わる可能性があります。

今後の投資方針は……

以上を踏まえれば、資産防衛、生活防衛のために外貨(や外貨建て資産)を持つべきでしょう。ただし、足もとでは相場変動が大きくなっていること、「円安」が再びスピードアップした場合に為替介入の可能性があることを考慮すれば、短期売買で利益を目指すこととは別次元で考えるべきです。自身の総資産の一定割合まで外貨(や外貨建て資産)を増やす、すでに相応の外貨(や外貨建て資産)を保有しているなら、その中身を見直す必要があるかもしれません。

そして、上述したように、リスク資産、すなわち、株式、商品市況、資源・新興国通貨の下落に要注意でしょう。「悪い金利上昇」が広がれば、すでに脆弱な世界経済はさらに落ち込み、市場のリスクオフが強まる可能性があります。リスク資産の価格が大きく下落するようであれば、どこかで底入れ(=再エントリー)のタイミングを計ることになりますが、それはまだしばらく先のことになるかもしれません。