最近軽めのPCを探していて気になった製品のうちの1つが、レノボ・ジャパンの「ThinkPad Z13 Gen1(AMD)」(以下、Z13)だ。
Z13は、レノボ・ジャパンのクラムシェルスタイルノートPC。レノボから最近登場した軽い系パソコンというと、「ThinkPad X13s Gen1」や「ThinkPad X1 Fold」なんて選択肢もあるわけだが、超私的には、長い文章を書くならタッチディスプレイをタプタプたたくのではなく、やはりキーボード、それも、快適なキーボードをたたきたい。
となると、ここはやはり、FoldではなくZ13を試してみたい(ちなみにThinkPad X13s Gen1は媒体側で都合があわず借りられなかった)。
「初めて買ったデスクトップPCはNECのPC-9801ではなくエプソンのPC-286VS」という互換機フリークとしてはAMDを載せていることにも心が惹かれる。というワケで今回、Z13をお借りして試用してみた所感をお届けしよう。
ThinkPad Zが復活、「変化」を体現するPC
ThinkPadとしての“Z”は、2005年以来の“復活”となる。
IBMのPC事業がレノボへと移行してから初めての新しいThinkPadラインナップとして2005年に登場した「ThinkPad Z」シリーズは、「マルチユースのZ60m」と「どこでも使えるZ60t」という構成で、ThinkPadとしては初めて(それまでの4:3と比べて横長の)ワイドサイズディスプレイと、チタン素材によるチタンシルバーを取り入れるなど、それまでのThinkPadから大きく変化したモデルとして登場した(その変化がユーザーに受け入れられたか否かはZモデルの後続が15年以上登場しなかったことが物語っているが)。
ThinkPadにおけるZシリーズが「従来から大きく変化するモデル」と位置付けられているのは健在だ。
2022年1月のInternational CESで復活したThinkPad Zシリーズでも、従来のThinkPadにはなかった新しい取り組みを導入。再生利用素材の採用といった環境負荷低減など新しいユーザー層を対象とした要素を訴求するが、それ以外の処理能力や使い勝手といったPC本来の要素でも変化を試みている。
CPUは「Ryzen 7 PRO 6860Z」を搭載する。「AMD Ryzen Pro 6000シリーズ」の最上位モデルで、8コア16スレッド対応、基本クロックが2.7GHz、最大ブースト・クロックは4.75GHz、L3キャッシュ容量は合計16MBと、その主要スペックは「Ryzen 7 6800U」に準じている。
統合グラフィクスコアもAMD Radeon 680MでGPUコア数が12基、グラフィックス周波数が2200MHzと、こちらもRyzen 7 6800Uと同様だ。ただし、TDPは28ワット固定となる。
その他の処理能力に影響するシステム構成を見ていくと、システムメモリは LPDDR5-6400MHzを採用していた。容量は32GB(8GB×4本構成)で、ユーザーによる増設はできない。ストレージは容量512GBのSSDで試用機にはMicron製「MTFDKCD512TFK」を搭載していた。接続バスはNVM Express 1.4(PCI Express 4.0 x4)。
製品名 | ThinkPad Z13 Gen1(AMD) |
---|---|
CPU | Ryzen 7 PRO 6860Z(8コア16スレッド、動作クロック2.7GHz/4.7GHz、L3キャッシュ容量:16MB) |
メモリ | 32GB(LPDDR5-6400) |
ストレージ | SSD 512GB(PCIe 4.0 x4 NVMe、MTFDKCD512TFK Micron) |
光学ドライブ | なし |
グラフィックス | AMD Radeon 680M(CPU統合) |
ディスプレイ | 13.3型(2,880×1,800ドット)光沢 |
ネットワーク | IEEE802.11a/b/g/n/ac/ax対応無線LAN、Bluetooth 5.2 |
サイズ / 重量 | W294.4×D199.6×H13.99mm / 約1.19kg~ |
OS | Windows 11 Home 64bit |
初出時、スペック表のストレージ容量が512TBとなっていましたが、正しくは 512GBです。お詫びして訂正いたします(2022年9月30日) |
ベンチマークは描画の強さを見せつける
Ryzen 7 PRO 6860Zという類まれなCPUを搭載したZ13の処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、3DMark Time Spy、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64、そしてファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズを実施した。
なお、比較対象としてCPUにCore i7-1260P(8+8スレッド:P-core 4基+E-core 8基、動作クロック:P-core2.1GHz/4.7GHz、E-core1.5GHz/3.3GHz、L3キャッシュ容量:18MB、統合グラフィックスコア Iris Xe Graphics)を搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット、システムメモリが16GB(LPDDR4x 4266)、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 4.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。
ベンチマークテスト | ThinkPad Z13 Gen1(AMD) | 比較対象ノートPC |
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PCMark 10 | 6118 | 5455 |
PCMark 10 Essential | 10144 | 10592 |
PCMark 10 Productivity | 8087 | 6787 |
PCMark 10 Digital Content Creation | 7601 | 6130 |
CINEBENCH R23 CPU | 10293 | 8902 |
CINEBENCH R23 CPU(single) | 1439 | 1579 |
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Read | 3249.93 | 6752.84 |
CrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Write | 3179.39 | 4898.55 |
3DMark TimeSpy | 2591 | 1789 |
FFXIV:漆黒のヴィランズ(最高品質) | 4776「快適」 | 3681「快適」 |
PCMark 10 EssentialとCINEBENCH R23 CPU single、そして、CrystalDiskMark 8.0.4 x64以外でRyzen 7 PRO 6860Zを搭載したZ13は、Core i7-1260Pを搭載する比較対象ノートPCを上回るスコアを出している。特にグラフィックス描画能力を測定するゲーム系ベンチマークテストのスコアは大きく差をつけた。
CINEBENCH R23 CPUもシングルスレッド測定で比較対象を下回っていただけに、Ryzen 7 PRO 6860Zのマルチスレッド処理能力の高さが際立つ。
なお、ストレージ転送能力を見るCrystalDiskMark 8.0.4 x64は、搭載するSSDのMTFDKCD512TFKが、比較対象ノートPCで搭載するMZVL2512HCJQと比べて書き込み速度が約半分(それぞれのメーカー公称値)であることが影響していると思われる。これは、MTFDKCD512TFKが遅いというより、MZVL2512HCJQがとびぬけて早いという事情もある。
キーボードは安定した打鍵感、やや熱めか
なお、Z13のバッテリー駆動時間は、公式データにおいてJEITA 2.0の測定条件で最大22.8時間となっている。内蔵するバッテリーの容量はPCMark 10のSystem informationで検出した値で51,970mAhだった。
バッテリー駆動時間を評価するPCMark 10 Battery Life Benchmarkで測定したところ、Modern Officeのスコアは6時間36分(Performance 4757)となった。ディスプレイ輝度は10段階の下から6レベル、電源プランはパフォーマンス寄りのバランスにそれぞれ設定している。
このように卓越した処理能力を示したZ13だが、それが故の“代償”もある。電源プランをパフォーマンス優先に設定して3DMark NightRaidを実行し、CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パークレスト左側、パームレスト左側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定した表面温度と、騒音計で測定した音圧の値は次のようになった。
表面温度(Fキー) | 46.6度 |
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表面温度(Jキー) | 44.4度 |
表面温度(パームレスト左側) | 34.6度 |
表面温度(パームレスト右側) | 32.5度 |
表面温度(底面) | 48.7度 |
発生音 | 44.3dBA(暗騒音37.4dBA) |
正直に言うと、熱い。パームレストはまだ「暑い」のレベルといえるが、キートップは「ほんのり温かい」という次元を超えている。AMDを載せたマシンは発熱が厳しい、という印象は依然として根強いが、実際に測定した値でいうと最近ではだいぶ収まってきている(例えばRyzen 7 5825Uを搭載したNew Inspiron 14 2-in-1ではキートップ、パームレストで最も高くても38度台。高くなりがちな底面でも40.5度)。しかし、Z13のキートップは低温やけどを危惧する温度に達している(日本創傷外科学会HPの見解より)。
文章書きにとって重要なキーボードは、ピッチが実測で約19mm、キートップサイズは実測で約16mm、キーストロークは公称値で約1.3mmを確保している。実際にタイプするとストロークは浅く、感触も軽い。ただ、さすがThinkPadだけあってぐらついたりたわんだりすることはない。
ポインティングデバイスはトラックポイントとタッチバッドの併用だ。従来、トラックポイントのクリックボタンは専用部材とされていたが、Z13ではタッチパッドの上部分をタップすることでクリックボタンを兼用する。
視覚的に明確に示されていない(タッチパッドの上よりにラインが引いてあるが、クリックボタンとして認識するエリアはその上下に幅を持たせて設定してある)が、実際に試してみると、タッチパッド上辺から下に15ミリまではクリックボタンとして認識するようだ。
なお、トラックパッドをダブルタップすると、ディスプレイにクイックメニューがポップアップする。ここからカメラやマイクの設定ができるようになるが、トラックポイントのダブルタップがなかなか難しく、評価期間ではほとんど立ち上げず、キーボードから直接操作していたことをここに告白する次第だ。
画面は広々とした16:10、有機ELで発色も◎
作業環境を大きく左右するもう一つの要素がディスプレイのサイズと解像度だ。Z13はモバイルノートPCとしては標準的な13.3型ディスプレイを搭載する。横縦比が最近増えてきた“16:9と比べて縦方向にちょっと広い”16:10を採用する。
Z13のディスプレイバリエーションには1,920×1,200ドットのほか、最上位モデルでは有機EL・2,880×1,800ドットといった高解像度ディスプレイも選択できる。
従来、横方向の解像度では1,920ドットの上といえば2,560ドット、その上は3,840ドットと上がっていくが、13.3型ディスプレイで横方向3,840ドットはさすがに細かすぎる。Z13は2,880ドットとすることで13.3型でも判読可能な表示を目指したといえる。
加えて、有機ELを採用したことで色彩表示がくっきりと鮮やかになり、このことも細かい表示の視認を容易にしてくれている。
また、ベゼル幅が左右で実測4ミリ、上が実測7ミリ(カメラセンサーを内蔵した中央突起部で実測9.5ミリ)と狭額としているおかげで、実際のサイズ以上に画面が広く感じることができる。
ただ、そうはいっても表示ズーム100%設定だと文字が細かい。ブラウザのEdgeでマイコミニュースの記事を開いて本文の6文字を表示する幅のサイズを表示ズーム設定「100%」「125%」「150%」「175%」「200%」のそれぞれで測定した値は次のようになった。
なお、文字列の測定には記事「『ThinkPad Z13 / Z16』実機を見てきた! 次の30年を見据える意欲作」 の、第二段落冒頭の6文字「発表に際して」を用いている。
表示ズーム設定 | 6文字表示幅 |
---|---|
100% | 9ミリ |
125% | 11ミリ |
150% | 13.5ミリ |
175% | 16ミリ |
200% | 18ミリ |
主観的意見になるが、表示ズーム150%設定までは問題なく視認できる。LEDパネルディスプレイだったら視認が難しくなるだろう表示ズーム125%設定でも、明瞭な有機ELパネルのおかげだろうか、記事本文の視認もさほど辛くはない。
さすがに表示ズーム100%設定で本文を“読む”のは苦しいが、それでも、文字の“認識”はできるので、画像加工や動画編集など制作作業で画面を広く使いたい場合は、表示ズーム100%設定も十分に使えるだろう。
改めて「使い勝手のよさ」を教えてくれた
本体のサイズは幅294.4×奥行き199.6×厚さ13.99mmと、13.3型ディスプレイ搭載ノートPCとしては標準サイズといえる。
ボディ素材に再生利用アルミニウムを使用しているので質感としては一見重そうだが、最軽量構成で1.19kg(評価機の実測では1,196g)に収まっている。1キロ前後級のモバイルノートPCと比べると確かに重いが、MIL-STD-810H準拠の堅牢性とのトレードオフといえる。
レノボ・ジャパンでは、Z13を新たなThinkPadユーザーを開拓するために大きな変化を取り入れたモデルとして訴求している。
そのコンセプトは是としつつも、結局PCにとって重要なのはPCとしての使い勝手でしょう、とZ13の評価で改めて認識させてくれた。堅牢性と軽量性のバランスが良好で、かつ、Ryzen 7 PRO 6860Zの処理能力を高く評価できるユーザーなら、Z13は購入検討に値するノートPCとなるだろう。