最近テレビマンと雑談していると、ダウ90000の話題になることが多い。公演に足を運ぶとテレビ局員の姿を高頻度で目にするといい、今最も業界で注目を集める存在と言われることを裏付けている。
平均年齢23歳の8人組で、『M-1グランプリ2021』準々決勝進出、『第43回ABCお笑いグランプリ2022』決勝進出と、お笑い賞レースでも着実に結果を残し、第4回演劇公演『いちおう捨てるけどとっておく』の16ステージ分のチケットは、発売開始後約10分で即完売。そんな彼らの初冠ドラマが実現した。
きょう28日にフジテレビで放送される『ダウ90000 深夜1時の内風呂で』(25:20~ ※関東ローカル)は、舞台を主戦場とする彼らの魅力が、テレビ画面の中でもそのまま存分に発揮されている。
物語が繰り広げられるのは、とある旅館。大学生のサークルのメンバーたちの間で起こる、なんでもなくて、気まずくて、甘酸っぱい一夜の出来事が描かれる。
ドラマということで、ダウ90000のホームである劇場では見ることのできないロケーションをふんだんに活用。冒頭の湖畔に始まり、大浴場前のロビー、脱衣所、内風呂、露天風呂、夕食の宴会場、宿泊部屋、夜の花火と、様々な場所でダウ90000の魅力の1つである会話劇が展開される。
主宰・蓮見翔の脚本によって生み出されるこの会話劇は、いわゆる丁々発止の激しいやり取りが行われるわけではない。「旅館の大浴場に浴衣で行くか、私服で行くか」などの内容で、どの登場人物も声を張り上げることなく、何気ない言い回しに引っかかってそこを広げようとする者と、ふさごうとする者のごくごく小さなぶつかり合いが、極めて日常のテンションの中で次々に巻き起こり、それが非常に心地良い。
しかも今回はドラマということで、様々な場面にわたって繰り広げられるこの会話劇を、家で、無料で、さらに見逃し配信では自由な時間に楽しめるのだから、とてもお得な気分だ。
舞台と映像の一番の違いは、カット割り。今作はダウ90000の会話劇を生かすべく、ワンカットの長回しも多用されているが、要所要所で見られる寄りカットで、表情から読み取れる感情や、アイテムの意味などがより理解でき、映像の利点を改めて感じられる。
そして、勝村政信というベテランの存在がとても大きい。ダウ90000のメンバーだけでは作れない人間関係の幅が実現するのに加え、ダウ90000だけでは“コント”という笑いを取りに行くことが第一義の演技になるところ、勝村が入ることと前述のカット割りによる“ドラマ”との融合で演技に変化が生じ、新感覚のコメディーに昇華することに成功している。
そんな勝村の注目シーンは、旅館の内風呂でのバタフライ。おじさんが全力で泳ぐというシュールさもさることながら、全力だからこそ後のシーンに効いてくる伏線回収も、また楽しい。
この見事な伏線回収も、ダウ90000の魅力だ。近年、人気ドラマの最終回になると、「伏線回収」というワードがTwitterでトレンド入りすることが定番になってきたが、1時間の中でも、その醍醐味を十分に味わうことができる。この伏線は、本当にさりげない場面に散りばめられているので、回収されたときには“そうきたか!”と、また心地良さを感じられる。
物語の中で描かれるのは、様々な立場からの親子の感情、友情、恋。さらに、学生時代に友達同士で旅行する中で見かけたクセの強いおじさんを仲間内でひそひそイジるという“あるある”にも、きっと多くの人が共感し、懐かしい気持ちに浸ることができるはずだ。
10月からは、日本テレビ・Huluで初の連続ドラマ出演となる『今日、ドイツ村は光らない』が控えているダウ90000。今後、さらにテレビ出演を重ねていくことで、より知名度を上げていくであろう彼らの大ブレイク前夜を、ぜひ目撃してほしい。