総務省は9月22日、総合通信基盤局長名でNTTドコモ/KDDI/沖縄セルラー電話/ソフトバンク/楽天モバイルの5社に対し公正な競争環境の確保に向けた取り組みを実施するよう要請を行った。

  • 総務省

    総務省

この要請は、2019年10月1日に電気通信事業法が改正されて3年を迎えるタイミングで、改正法の措置の効果等について評価・検証を行うワーキンググループ(WG)が設置され、「競争ルールの検証に関する報告書2022」が取りまとめられたことを踏まえてのもの。報告書に基づき、改正法の趣旨やモバイル市場の環境変化に沿ったモバイル市場の公正な競争環境の確保に向けて速やかに取り組むべきとされた事項を実施するよう求めている。

  • 提言内容1
  • 提言内容2

    「競争ルールの検証に関する報告書2022」の提言内容。今回出された要請の内容は、「(1)通信料金と端末代金の分離」「(4)いわゆる転売ヤー対策」に関わる

要請の内容は基本的に5社共通で、大きく次の3点の措置を求めている。

事業法第27条の3の規律の遵守に関する取り組み

要請の最初に挙げられているのは「事業法第27条の3の規律の遵守に関する取り組み」。具体的には、回線契約とのセット購入を条件とした利益提供(値引きなど)の提供のしかたの是正だ。

電気通信事業法第27条の3は、モバイル通信サービスを提供する事業者の禁止行為を定めている。関連する省令等と合わせて、市場における公正な競争を促進するためとして、通信料金と端末代金を分離することと、行き過ぎた囲い込みの禁止を定めている。

  • 電気通信事業法第27条の3で定められているルールの概要

    電気通信事業法第27条の3(および関連省令・施行規則等)で定められているルールの概要

その通信料金と端末代金の分離のための施策のひとつとして、通信契約とセット購入時の端末代金の値引きには上限20,000円という制限が設けられており、キャリア各社はこの範囲内で値引き額を設定している。

今回の報告書で指摘されているのは、回線契約とのセット購入を条件とする値引きと(回線契約の有無を問わず)端末購入者に対する値引きを組み合わせることで端末の安値販売を行っている場合において、回線契約を行わない場合の端末単体販売が適正に行われていないケースがあるという点だ。たとえば、セット販売用の端末と単体販売用の端末を区別し、単体販売用の端末が在庫切れであるなどとしてセット販売のみを継続するような場合が考えられる。

非回線契約者への端末単体販売が適正に行われていないのであれば、セット購入を条件とする値引きと端末購入者全体に対する値引きを合算したものを実質的なセット購入時の値引きと考えるべき、というのが総務省の立場だ。この場合、名目上セット購入を条件とする値引きが20,000円の上限を守っていても、合算額が20,000円を超えるようであれば上限規制に違反していることになる。

報告書で問題視されたのはこの点で、要請文書においてはNTTドコモ/KDDI/ソフトバンクの3社に対して「上限2万円規制の違反と判断される、又は違反が疑われる事案が確認された」という文言、楽天モバイルに対して「上限2万円規制の違反と判断される事案が確認された」という文言で、問題を指摘している(沖縄セルラー電話については指摘がなかった)。

この点を改善し、上限2万円規制の順守を徹底するためとして、次の取り組みが求められている。

  • 単体購入用とセット購入用での在庫区分やその区分を理由とした販売拒否を行わないこと
  • 店頭の広告物において、消費者が十分に認知できる形で、「販売在庫は全て、端末のみの購入にも対応している」旨と、「セット購入価格の表示と字の大きさ等に差異を設けずに併記される単体購入価格、またはセット購入時の追加的な割引を併記している単体購入価格」を表示すること
  • 販売代理店等およびスタッフ一人一人に対する教育・研修・指導を徹底・強化すること
  • 販売代理店等への指導事項について、販売代理店等に認知されない形での履行状況の確認(独自覆面調査)を行うこと
  • 販売代理店等に対する手数料・奨励金等や評価指標が、上限2万円規制の違反を助長するような形となっていないかについて、過去の要請も踏まえ、継続的な見直しを実施すること
  • 事業法第27条の3の規律に反する行為が生じないように、不断の取り組みを行うこと

端末購入プログラムに関する取り組み

要請のふたつめは、各社が提供する端末購入プログラムに関するものだ。

端末購入プログラムとは、NTTドコモの「いつでもカエドキプログラム」、auの「スマホトクするプログラム」、ソフトバンクの「新トクするサポート」などの購入プログラムのこと。上記3つのプログラムの内容は微妙に異なるが、端末を分割払いで購入し、指定のタイミングで端末をキャリアに回収させることで以降の分割支払金の支払いが不要となり、実質負担額が本来の端末代金の約半額になるという仕組みになっている。

この端末購入プログラムによる値引額は20,000円を超えることが珍しくないが、各キャリアともに回線加入がない端末単体購入であってもプログラム利用を可能としているため、先の上限2万円規制の対象とはならない。今回の報告書・要請においても、端末購入プログラムの提供じたいは問題としていない。

  • 端末購入プログラムの利用と回線契約との切り離しについてのMNO3社の回答

    端末購入プログラムの利用と回線契約との切り離しについてのMNO3社の回答。2022年6月22日のWG第33回会合の資料より

指摘されているのは、「回線契約がなくても端末購入プログラムに加入できる」「回線契約を解約しても端末購入プログラムを継続できる」という提供条件についてのユーザーの理解度が必ずしも高いと言える状況ではないという点。つまり、端末購入プログラムの利用・継続にあたって回線契約は必須でないにもかかわらず、ユーザーがプログラム利用・継続のために回線契約を行ってしまっているケースが少なくないのではないか、ということだ。実際に、WGで行った調査においても、各端末購入プログラムの利用者であっても、半数程度が加入・継続の条件を「わからない」と回答しており、回線契約が必要だと思っている人も少なくない。

  • 端末購入プログラムの提供条件に関する理解度

    端末購入プログラムの提供条件に関する理解度の調査。プログラム加入・継続に回線契約がなくてもよいことを理解している人(グラフの青の部分)は全体の3割ていどだ。2022年6月22日のWG第33回会合の資料より

この点を是正するため、正確な説明と周知の徹底に向けて最大限の努力を行うことが求められている。具体的な取り組みとしては以下のような内容が挙げられている。

  • 端末購入プログラムを提供する際に回線契約が条件でないことについて、販売代理店当で確実に説明するとともに、Webサイト/カタログ/ポスター等においても、誰が見ても認識できるような分かりやすい形で明記すること
  • 端末購入プログラム加入者に対して、定期的に、上記の趣旨を説明したメール/SMS等を送付すること
  • 上記趣旨について、メディア/国民生活センター等に定期的に説明を行うなど、社会全体への理解度向上に向けた可能な限りの取り組みを行うこと

さらには、回線契約を行わない購入希望者への端末購入プログラム提供拒否などの不適切な対応の根絶を図るためのと対応も求められている。

いわゆる「転売ヤー」に関する取り組み

みっつめに挙げられたのは転売対策だ。

利用者が端末を安く購入できることを総務省は是とするが、端末の大幅な安値販売が不用意な形で行われることにより、転売によって利益を得ようとする者、いわゆる「転売ヤー」の活動を助長することは、電気通信の健全な発達という観点、社会的な観点から望ましくない。

そのため、端末の大幅な安値販売を実質するにあたっては、実効性のある転売対策を行うことを求めている。先の報告書では、「割引対象を一人一台に限定し、転売者が多数の端末を入手できないようにする」「端末購入プログラムで一定期間後に端末の返却を求めることで、転売のインセンティブを抑制する」「家電量販店では会員情報に基づく購入履歴確認を行う」といった具体的な対策を挙げている。


これらの施策については、これまでの取り組み状況および今後の取り組み方針を10月21日までに報告するよう求めている。また、端末購入プログラムに関する取り組みについては、2023年2月末の状況を2023年3月末までに報告すること、とされている。