昔から、花のある暮らしに憧れている。自宅に季節の花を飾って、花言葉にそっと想いを寄せたり、自由に花を組み合わせてアレンジしたり……。この味気ない部屋に華やかなアレンジメントフラワーがあったら、どんなに心が豊かになることだろうか。自宅にいる時間が長くなるにつれて、思いは募る一方。

そんなわけで、花の知識もセンスもないけれど、このたび初めてのフラワーアレンジメントに挑戦してきました。

  • 部屋にお花がひとつあるだけでパッと空間が華やぎますよね。こちらは秋をテーマに先生が作ったお手本のアレンジメント

今回アレンジメントを教えてくれるのは、“花のプロを目指す人が、花の全てを学べる”という「JFTD学園 日本フラワーカレッジ」の石川眞也先生。花店やフラワーアーティストなど、花の現場で活躍する同校の卒業生たちに指導してきたベテラン講師で、いわば“花のスペシャリスト”。

  • やさしくジェントルな石川先生。やはり日々花に触れているからなのか、穏やかなオーラが漂っている

今回は、基本的な花材の扱い方からアレンジテクニックまで、初心者でも簡単にできる素敵なアレンジメントの作り方をレクチャーしてくださいます。

■花材の選び方、ポイントは季節感と“最初に主役を決める”こと

  • 今回の花材は、クルメケイトウ、リンドウ、コニカルブラック、オミナエシ、ヒメヒマワリ、ホトトギス、スプレーマム、ヤマゴボウ、ワレモコウという9種類の草花。秋らしい深い色味のほか、風にそよぐ草花、実りの秋らしい実ものも

花材の選び方からあれこれ迷ってしまいそうだけど、初心者はどんなことを意識してチョイスすればいいんでしょうか。

「季節感を意識することは大切です。また初心者なら、最初に主役になりそうな花を決めるのもありでしょう。大きめものや色が鮮やかなものなど、存在感のあるものをメインにして、小花や実もの、枝ものなどを選んで組み合わせると、まとまりやすくなります。

花材は種類を増やすほど、組み合わせるのが難しくなりますが、同じ形状の花材ばかり選ぶと単調になってしまうので、ボリュームのあるもの、先端が尖っている個性的なもの、ラインが細い華奢なものなど、フォルムの異なる花材を選んで変化を出すと、“プロっぽいアレンジメント”になります。

色味は、主役にしたい花と同系色でまとめるのもありですし、挿し色を加えてアクセントをつけてみるのもいいでしょう」

■花を挿す土台を作る

今日は作るのは、取っ手付きのバスケットを使用したアレンジメント。花を生け始める前に、まずは土台を準備します。土台によって選ぶ花材やデザインも大きく変わってきます。

  • 資材は、バスケット、吸水性スポンジ、セロハン、ラッピングペーパー

バスケットのサイズに合わせて、花を挿す土台となる「吸水性スポンジ」をカット。ラッピングペーパー、セロハンを重ねた上に、水をたっぷり含んだ吸水性スポンジを置いて、ナイフやカッターで端を切っていきます。

「バスケットの内部をスポンジで埋め尽くしてしまうと、水を溜めることができなくなるので、水やりの時に一時的に水が貯まる『ウォータースペース』を確保するように、吸水性スポンジをカットします」

  • 吸水性スポンジをカットしすぎると、花を挿すスペースが少なくなるので、切りすぎにも注意

ラッピングペーパー、セロハンごと、スポンジをバスケットにセット。この時、バスケットからはみ出る余分なセロハンもハサミで切っておきます。

■花は斜めに切り、“表情が一番チャーミング”なところを正面にして挿す

いよいよ、花材を挿していきます。まずは基本となる花の切り方から。

「枝は直角ではなく、斜めに切ります。斜めに切るほど切り口の断面積が広がり、それだけ水の吸い込みがよくなるので、花が長持ちします。余分な葉っぱもカットした方が、腐りにくくなりますよ」

  • 斜めに切ることで、スポンジにも挿しやすくなる

挿す前に、アレンジのデザインを決めます。正面を決めるときに、「一方見」にするか、360度どこから見ても美しく見える「四方見」にするか……。初心者は、「一方見」から始めると失敗が少ないとのこと。主役にしたいものなど、大きくてボリュームのある花から順番に挿していきます。この日はクルメケイトウから。

  • クルメケイトウを主役と決め、できるだけ花の下の方を持ち、スポンジにグッと挿し込む

「挿す前に、花の姿をじっくりと観察して、“表情が一番チャーミング”なところを正面に向けて挿します。スポンジは上から乾いていくので、挿す時はなるべく下までしっかりと挿すこと。1回挿すとスポンジに穴が開くので、できれば抜かない方がいいですが、気に入らなかったら抜いて、違う場所に挿しましょう」

■思い思いに挿してはみたが……やっぱり難しい!

まずは大きな花を挿した後に、小さな花や草花、実ものを添えていきます。同じ花でも前後に挿すと奥行きや立体感が生まれ、花の長さを変えて高低差を出すことで、ナチュラルなアレンジメントに仕上がる……とのことなのですが、これが難しい!

  • 切りすぎたり長すぎたり、挿す場所がイマイチだったり、試行錯誤の繰り返し

花を短く切りすぎてしまったり、挿す場所によって後ろの花が見えなくなってしまったり。全体のバランスを見ながら挿していくことが大切なよう。やっぱりセンスが必要なのか……?

  • スポンジに真っ直ぐ挿すだけでなく、斜めに挿して動きをつけるのもあり

苦戦していると、先生からやさしいアドバイスの言葉が。

「アレンジメントに正解はないので、安心してください。色の異なるものを隣り合わせにすると、互いを引き立てることができますよ。それから、バスケットの中で無理におさめようとしなくて大丈夫です。外側に垂らしてみたり、後ろから前にかぶせるように挿してみたり、いろんなアレンジを加えることで変化が生まれて、個性的な仕上がりになります。草花の自然の姿を生かすのもよいでしょう」

  • 軽い花を上の方にそっと添えることで、爽やかな風が吹くような、秋の雰囲気を演出

先生のアドバイスをもとに、さらに手を加えていきます。大体挿し終えたら、全体のバランスをチェック。全体的に寂しくならないように、インパクトが足りないと思う部分には濃い色の花を加えて立体感を出したり、小さな花をふわっと広げて“抜け感”を演出したりと、細やかな微調整を繰り返します。

  • 寂しく感じる部分に、残った花をバランスよく入れながら微調整を繰り返す

たしかに全体のバランスを見ながら手を加えると、いい感じの仕上がりになってきた! やっているうちにどんどん楽しくなってきて、いろんなアレンジを加えてみたくなる!

■アレンジメントが完成! え、同じ花材でこんなに違うの!?

アレンジメントを始めてから1時間とちょっとで、初のアレンジメント作品が完成しました。筆者と一緒に参加した編集さんとお互いの作品を見比べて、「え! 同じ花材を使ったのに、こんなに違う印象になるの⁉」とビックリ。こんなにも個性が出るとは、アレンジメントって奥が深いぞ!

  • 右が筆者、左が編集さんが作ったアレンジメント

  • 真ん中に先生のお手本を置いてみた。みんな違って、みんないい!

最初は何もわからずあたふたしましたが、やっているうちにいろんなアレンジを加えたくなり、どんどん面白さが分かってきました。今まで“センスがないから……”と敬遠していたけれど、先生の「アレンジメントに正解はない」のお言葉で、心が軽くなり、自由に楽しく花と触れ合いながら、大変有意義な時間が過ごせました。

早速持ち帰って部屋に飾ったら、空間がパッと明るくなり、気持ちまで前向きに。花のある暮らしって、やっぱり最高じゃん! 今度は自分で花材を選んで、一からフラワーアレンジメントに挑戦してみようかしら。