インターネットイニシアティブ(IIJ)は9月17日、オンライントークイベント「IIJmio meeting #32」を開催した。MVNO・スマートフォン関連のディープな話題が扱われる同イベントだが、今回は最新スマートフォン事情や通信技術の基本、5Gにまつわる問題とその原因など、幅広い話題が扱われた。
ついに音声eSIMサービス開始!
まずは恒例となった、前回(4月)から9月までのIIJmioの動向を紹介する「IIJmio update」が、IIJの堂前清隆氏から発表された。今回の話題の中心は、9月15日に発表されたばかりの、eSIMによる音声通話プランの提供開始についてだ。
すでに他社からはeSIMによる音声通話プランが提供開始されているが、なぜ今回のサービス開始がそんなに話題になるのか。これはIIJmioがこれまで取り組んできた「フルMVNO」の歴史と直結している。
MVNOにはキャリア(MNO)から通信施設、ユーザー管理とSIMの発行、音声通話設備のすべてを借りる「ライトMVNO」と、ユーザー管理とSIMの発行用の設備を保持する「フルMVNO」がある。IIJmioは2019年からフルMVNOサービスを提供しているが、フルMVNOではSIMを自分達で設計して発行できるため、IIJmioではeSIMも自社で設計し、サービス提供を行ってきた。ところが音声通話設備を持っていないため、音声サービスまではフルMVNOとしては提供できなかった。
ならばライトMVNOとして、音声通話サービスのあるMNOからeSIMを仕入れればよさそうだが、これまでeSIMのサービスが利用してきたドコモ網では音声通話に対応したeSIMサービス自体を提供していなかった。それがau網で音声通話サービスに対応したeSIMサービスが始まったので、これを借りてサービスを開始したというわけだ。ドコモ網のほうでも交渉中のようなので、将来的にはドコモ網とau網の両方でeSIMによる音声サービス契約が利用できるようになりそうだ。
また、IIJmio meeting 33の直前に発売が開始されたiPhone 14について、IIJmioのSIM、eSIMはともに利用できることが明らかになった。ただし、先日配布が始まったiOS 16の新機能である「eSIMクイック転送」が、IIJmioのeSIMでは利用できていないことが分かっているという(実際にはMVNO全体で利用できていない模様)。機能そのものの仕様もよくわかっておらず、MVNO側で対応が可能かどうかもまだ定かではないという。Apple Watchでの対応など、AppleのMVNOに対する冷遇ぶりには頭が痛いところだが、日本のユーザーの選択肢を増やすためにも、Appleには早急に情報公開などを進めてもらいたい。
今年はミドルクラスのスマホが充実!
続いては「IIJmio 2022年上半期のおすすめ端末 ~スマートフォンからゲーミングPCまで幅広くご紹介~」と題して、IIJmioサプライサービスの久保田真朗氏から、IIJmioで販売している最新のSIMフリーAndroidスマートフォンの動向の解説があった。
久保田氏によれば、現在注目なのはミドルレンジの機種。最新モデルではQualcommの「Snapdragon 695 5G」が搭載されているモデルが多く、これに該当する4モデルがお勧めとのこと。確かにSnapdragon 695はグラフィック性能こそミドルレンジ相当なものだが、処理能力はこれまでのミドルレンジクラスとはだいぶ差がある。ゲームはあまりやらないが、日常的にストレスなく操作できる性能がほしい、という人にピッタリな選択肢だろう。IIJmioではこのほかにも新たに特徴的なハイエンド端末2機種の取り扱いも開始するなど、40機種以上をラインナップしているとのこと。
また、スマートフォン以外にもGIGABYTEのゲーミングPCやポータブル電源など、通信関係にとどまらないユニークなアイテムの販売を開始している。興味のある方はIIJmioの端末販売ページをご覧いただきたい。
移動体通信を基礎から学び直そう
続いてはIIJ MVNO事業部ビジネス開発部ビジネス開発課の石川陽介氏から「無線通信の世界~第一弾:無線通信とは?」と題した、移動体通信技術の紹介が。
「携帯電話の技術に触れてみる」をテーマに全五回を予定しているこのテクニカルトーク、第一回は「無線通信とは?」と題して、無線通信技術の歴史と、電波を使った通信の基本について、非常に詳細な解説がなされた。
内容については中学~高校レベルの理科や物理の知識があれば十分理解できるレベルだが、とにかく丁寧で詳しく、感心するばかりだった。少しでも無線技術に興味がある人はもちろん、ない人にも見てほしいと思わせる内容だった。筆者が下手に紹介するよりも、今回のスライド資料はIIJの技術ブログ「てくろぐ」にて公開されているので、ぜひ一度ご覧いただきたい。
5Gの問題の原因に迫る
最後は「5Gと端末にまつわる問題 」と題して、IIJの西田聖氏から、5G NSAおよびそれにまつわる通信品質や端末表示の問題についてレクチャーがあった。
現在の5Gでは、主に「NSA」(Not Stand Alone)という方式で通信が行われている。NSAでは4G(LTE)の回線網に5Gの基地局を足す形で運用している。これに対して最近日本でも一部のキャリアがスタートした「SA」(Stand Alone)方式では、基地局やユーザー管理など、通信網の設備がすべて5G専用となっている。
5G NSAは5Gネットワークを素早く構築するのには役立つが、通信速度が遅い、反応が悪くなる(いわゆるパケ詰まり)など、通信品質が劣化する(しているように見える)という問題がある。西田氏はこれを、5Gの電波がギリギリ弱くなっている「セルエッジ」にいる場合、5Gの通信速度は劣化し、4Gのほうが速いという状況が起きるのではないかと考え、検証してみたところ、確かにその通りだったという。
ところが問題は、低速状態であってもアンテナピクトでは電波強度に変化がないことだ。では一体5G対応スマホのアンテナピクトは何の状態を表しているのだろうか?
これは結論から言うと、「5G NSAでは5Gの状況に関わらず、アンテナピクトは4Gの電波状態を表している」というものだ。つまり5G側の電波状況はアンテナピクトでは判断できないのだ。
さらに問題なのは、5G NSA利用時、アンテナピクトに「5G」表示がどのような状態で表示されるかは、各端末の実装に依存し、共通の仕様が存在しないのだという。特に一部のSIMフリー端末はキャリアの5G対応モデルと仕様が異なっているようで、こうした機種では5Gと表示されていても信頼性が低くなってしまう。
思い起こしてみればLTEの初期もエリアの狭さや通信の不安定さ、端末の成熟度の低さなど、さまざまな問題があった。今は規格自体が膨れ上がっている上に、仕様に対する解釈もメーカーに依存するため、不整合な点が増えてしまっているのだろう。
5Gが導入されはじめてから2年近く経つが、いまだにこのような状態というのは、正直驚かされた。とはいえ、本セッションのように詳細な解説があれば、よくわからなくてイライラしていた問題の背景が見えてくることで、多少はストレスが和らぐのではないだろうか。
次回は年明けの予定
今回は最新スマートフォン事情から、無線通信技術の話題、そして5G独自の接続問題まで幅広いジャンルを網羅した開催となった。特に無線通信技術に関しては、中学校の理科程度の知識があれば十分理解できる平易さながら、大学の講義に即使えそうなくらい充実した内容が語られており、今後数回に分けて5Gに至るまでの技術の歴史を学んでいけるという、素晴らしい内容だった。ぜひ読者諸兄にもアーカイブでご覧いただきたい。
気になる次回開催時期だが、通常であれば約3カ月後の12月……といきたいところだが、実は12月3日にIIJが創立30周年を迎え、その記念イベントがある模様。そのためIIJmio meetingは年明けの開催になるようだ。詳細はTwitterのIIJmio公式アカウントなどで確認してほしい。
IIJmio meetingはMVNOのエンジニアによるリアルでディープな話が聞ける貴重なイベントだ。エンジニアやモバイルマニアはもちろん、最近モバイル業界に興味が出てきたという方も、次はぜひ参加してみてはいかがだろうか。きっと新たな発見があるはずだ。